血まみれの夢というものもある。
映画『日本悪人伝』のなかで、若山富三郎はその夢を体現化した。
昭和8年。初夏。
打ち続く不況の中で、若山富三郎は醤油を煮詰めたような服を着て、浅草界隈を彷徨っていた。
雑踏の中、おもむろに力士と肩がぶつかり、そのまま路上へ倒れる富三郎(以下、トミー)。
「なんじゃ。乞食か。今頃、道にも銭なんか落ちてやせんぞ」
トミーは無言のまま、落ちていたレンガを拾い、力士の顔面に叩きつけた。
そしてまたふらりと風の如く、どこかへと歩いてゆく。
その一部始終を見ていた男がいた。男はトミーの後についてゆき、声をかけると屋台へと誘った。
「兄貴。わいでんがな。ほんま久しぶりでんな」
「久しぶりって、お前誰やったけなあ」
「わいでっさ。賭場でわいがイカサマやった時に助けてくれた」
「おお。あん時の音吉やな!」
屋台での再会を喜び、興が乗った二人は、その日の夜、もぐりの賭場を開くことにした。
しかしサイの目を振る音吉は、先に記した通りイカサマ師で、三つ目のサイコロを指の中に巧妙に隠し持っていた。
負けがこんでゆく素人衆。
次に音吉がツボを振ろうとした時、その場にいた渡辺文雄が、
「ちょっと待った!」
の声をかけ、音吉の腕を捻じり上げると、隠し持っていたサイコロが出てきた。
「どういう訳なんでえ!これは!」
そう渡辺文雄が言ったと思ったら、間髪入れずに現れたのが、東映の絶倫帝王・名和宏たち一同。俺っちのシマ内で勝手に賭場開きやがってこの野郎、この落とし前はどうしてくれるんだと凄んだら、渡辺文雄はその場にあったあり金巻き上げてトンズラかました。
窮地に陥ったトミーだが、三下が持っていたドスをかすめ取ると、名和宏の腹に五分まで差し込んだ。
「どうや。五分まで入ってんねやぞ!ちっとでも動いてみい!親分の命ないで!」
言うやいなやトミーと音吉は、脱兎のごとく走り出した。
蛇足だが名和宏一家には、ピストル使いの名手として新東宝からの悪役と言ったらこの人、沼田曜一がいた。
往来を一散に走るトミーと音吉。
そこはネオン瞬く色街であった。だが吉原のような感じとも違う。「ぬけられます」の文字があることから、玉井なのではないかと推察できる。
妖しく光る街灯の中で、淫婦たちが男たちを手招きし、声をかける。
その誘惑の中、トミーは金も持ってないのに一軒の娼館へと入っていった。
そこでトミーの相手をしたのが八代万智子。
八代万智子と言えば、俺の中では「プレイガール」に登場してくるカッコイイお姉さんのイメージしかなかったのだが、この作品ではプレイガールとは髪型も化粧も違い、最初は八代万智子とわからないほどであった。
やはり女というものは、雰囲気によっていかようにも変わるものである。
ちなみにここまで書いてきたのだが、トミーの額にはでっかく十字架の刺青が施してある。
聞けば昔、耶蘇教の本の販売をしていたことから、この刺青をしているという。
そのことからトミーは耶蘇八という名前で呼ばれていた。
早速、夜のハッスルタイムに至ったトミーと八代万智子。
バックから万智子を犯し続けるトミー。精力の強いトミー。盛りがついているトミー。発奮しているトミー。
その結果、八代万智子は口から泡を吹き出して失神した。
だが明くる朝、トミーと音吉は銭持ってねえんです。すんまへん、と主人に頭を下げていた。
するとそこに居合わせたのが渡辺文雄。
「あっ。おめーは昨日の!盗んだテラ銭返せ!」
「なに言ってんだよ。おめーらこそイカサマで儲けた金じゃねえか」
そう言うと渡辺文雄は、トミーたちの分まで代金を払ってくれた。
そんなこんなで渡辺文雄とも意気投合したトミーは、次第に玉井で若山グループを形成していった。
渡辺文雄は昔の弁護士が被るような帽子を被っていて、元弁と呼ばれていた。なんでも元は弁護士の事務所で雑用をしていたらしい。
八代万智子がいる店の名前は、パラダイスとかなんとか言ってモダンなものだった。
ここの主人が脂ぎった悪役といえばこの人、遠藤太津朗なのであったが、さらにその上のオーナーは、コメディアン的悪役の域に達している金子信雄なのであった。
女衒である小松方正が田舎から娘たちを集めてきた日、遠藤太津朗は店に腕っ節の強いのを置きたいと言って、金子信雄にトミーたちを紹介した。
と、そこへ二階から泣きじゃくる娘たちが降りてきた。彼女たちを捕まえ二階に連れ戻すトミーたち。
そして娘たちは、刺青を体に彫り込んだ男たちになぶりものにされていった。
腰に猫の死体をぶら下げているトミー。
さらに路地裏で野良猫を滅多打ちにするトミー。
シーン変わって鍋のアップ。
そこで肉がごとごとと煮えている。
「なんや。この肉、ようけ泡が経つなあ。兄貴食べへんのかい」
「いや。俺はええわ」
うまそうに鍋をつつき続ける音吉と渡辺文雄。
とりあえず若山グループは、そのキャリアを娼館のボディガードとすることにした。遠藤太津朗からは警察署長には、鼻薬を聞かせてあるので、少々の手荒な真似の許可を得ていたので、因縁をつけてくる客に対しては鼻血まみれにして、ドブ川に放り込んだ。
一方、トミーと八代万智子はねんごろの仲になっていった。
トミーと万智子は何度も何度もMake Loveし、
「そのうちお前、身受けしたるさかい待っとけよ」
などとトミーも万智子にぞっこんの様子であった。
そんなトミーと万智子が部屋にしけこんでいた時、別の女郎が泣きながら部屋に駆け込んできた。しかもその体には荒縄の跡がついている。
「その客まだおるんやな」
トミーがその部屋に入り込むと、いかにもインテリゲンチャといったような趣の青年が布団に寝転びながら、自分が縛った女の写真を見ながら悦に浸っていた。
「われえ。うちの女、よくもいたぶってくれたなあ」
「僕はただ自分の趣味を実行しているだけですよ」
トミーは青年の顔を踏んづけ、腹に拳を叩き込むが青年は痛がる様子もなく、ケロリとしている。
「僕は帝大も中退してしまった帝大ルンペンでね。なんていうのか生きる意味っていうのがわからなくなってしまって。そうだあなた。大きな儲けをしませんか」
「儲け?」
青年は男爵の息子だった。
トミー、渡辺文雄、音吉を邸宅に連れ込み、母親に高額な金銭を要求する。それを母が拒むと、トミーは自慢の精力に任せ、男爵夫人をまたもやバックから犯し始めた。
その痴態を次々と写真に収めていく青年。まさに昭和エロ・グロ・ナンセンスを象徴するようなキャラである。
トミーの熊のような精力に、いかな男爵夫人も口から泡を吹いて失神し、青年、そして若山グループは大金を手にすることとなった。
帰り道、みんなで川に向かってタッションをしている時、トミーが言った。
「どうや。お前もわしらの仲間に入らんか?」
「いや。僕はやめておきますよ。あまり人と徒党を組むのは苦手なんで」
パラダイスではトミーと万智子は、ねんごろの関係ではあったが毎日客を取らなくてはならないという万智子の苦界人生に変わりはなかった。
そんな夜、万智子がいつものように娼館の窓から客引きをしていたら、いかにも田舎者の大工の男が通りかかり、万智子の顔を見るなり娼館に上がり込んできた。
「おめっ。幸子だべ。ほれっ。同じ村のオラだよ。なんしてさあ東京に女工で働きに行くって言ってたのに、なしてこんなところにいるんだあ!妹もここにいるんかあ。福子に会わせてけろ!あいつに会わせてけろ!」
万智子の襟元を離さない大工。
「なにを揉めているんじゃあ」
奥の部屋から現れたのは仁王のようなトミー、いや耶蘇八であった。
「おらの妹、騙されてこったらところで働かされてるんだ。一緒に田舎に帰るから会わせてけろ!」
「このガキャ!女郎が田舎に帰りたいからって、はいそうですかで済むと思うてけつかんのか!このガキャ!」
言うやいなや耶蘇八は、木刀で大工を滅多めたに叩きのめし、その頭を血だるまにした。
そこへ妹が現れ、
「兄ちゃんを許して!兄ちゃんを許して!」
と懇願したが、それでも耶蘇八は大工めがけて木刀を振り下ろし続けた。もう死んじゃうよというくらい振り下ろし続けた。
「騒がしいのお」
そう言って現れたのは主人である遠藤太津朗であった。
「そんなに帰りたい、帰りたいと言うなら本人の意思を確認したらどうだ」
しばらくの沈黙。
「旦那さん。わたし帰りたくない。ここで、ここで働かしてください」
そう言うと妹は遠藤太津朗の膝にすがりついた。遠藤太津朗にとっては、すべてを見越してのことだったのである。
荒れた。荒れた。荒れるに任せて荒れた。
大工は屋台で、しこたま酒をかっくらいへべれけになったうえにさらに酒をよこせという。大将が今日はこのへんで看板にしますんで、と言うと、
「なにい?おめ、俺が田舎者だと思ってバカにしているだろう?」
と、屋台の大将にとっては被害妄想以外の何物でもないものが爆発し、屋台を破壊するわ、野次馬に大工道具で切り掛かるわ、の大虎に豹変してしまった。
が、そこへ名和宏一家の者たちが現れ、俺っちのシマ内でよくも暴れてくれたなと、殴る蹴るの仕打ちを受け、足腰が立たない状態にまで大工は追い詰められた。
その噂を聞いた音吉がことの次第を、耶蘇八に告げると、耶蘇八、音吉は大工を引き取りに向かった。
だがそこでは、手ぐすね引いてまっていましたとばかりに、名和宏がいて俺っちのシマ内で賭場荒らしをした落とし前はつけてもらうぜ、と耶蘇八、音吉をKill Kill Time にて半殺しの目に遭わせた。
血みどろになりながら、這いつくばりながら玉井に帰ってきた音吉、耶蘇八、そして二人になんとかして連れてこられた大工。
深夜。
もぐりの医者であるところの大木実は、三人の手当てをしていた。
「こいつら殺したらただじゃおかねえぞ!」
そう渡辺文雄、おっと元弁は語気を強めた。
意識を取り戻した耶蘇八は言った。
「わしら。ここで終わるようなもんやないで。こっから勝負してな。ごっつい儲けたるんや。拳銃持ってこい」
「拳銃ってそんな急に言われても」
と元弁。
そこに軍服を着ていた大木実が、拳銃を差し出す。
「おっ、お前なんだこれ?」
「満州に行っている時にかすめてきたのよ。その代り俺もその儲け話に入れてくれよな」
「なるほど。出入りも多くなれば医者にいてもらわんと困るしな」
「俺もやるぜ」
そう発したのは大工であった。
「もう。真面目にやっていてもバカらしいしよ。兄貴たちと一緒に一儲けしてえんだよ」
それは大工がドロップアウトした瞬間だった。
夕立。
スコールのように降る雨の中を、遠藤太津朗は運河沿いの道を番傘を差しながら歩いていた。柳の木のところに来た時、そこで雨宿りをしていた耶蘇八が声をかけてきた。
「あっ。旦那。いや。降られちまいましてね。困ってたんですよ」
「そうかい。じゃあ。入っていきない」
「へっ。すんまへん」
耶蘇八は傘に入るやいなや、持っていた拳銃を遠藤太津朗の横っ腹に押し当て、そのまま発砲した。
「てっ、てめ」
「まあ。安心しいや。パラダイスのほうは、わしに任しとき」
そう言って這いずり回りながら逃げる遠藤太津朗に、次々と鉛玉をぶち込む耶蘇八。
その遠藤太津朗の葬式に、いけしゃあしゃあと喪主のような形で主席している耶蘇八。焼香を上げに来た警察署長に、香典返しと言って賄賂を渡すことも忘れなかった。
そしてパラダイスのオーナーである金子信雄と、今後のパラダイスの経営の話に及んだ時、耶蘇八は言葉たくみに自分のペースに金子信雄を乗せた。
「わてらもう死んで働きますさかいにな。これまで取り分は六、四でしたやろ。それをわてらは七、三でよろしおま。これだったらよう儲かりますでえ」
「よしわかった。その代り条件がある」
「条件?」
「お前、わしの杯を受けろ」
「そんな杯なんて、よしにしましょうやないけ。うちらが堅気のままでいた方が、何かと便利ちゃいまっか」
こうして若山グループのパラダイス乗っ取り計画は成功したのである。
当初、醤油を煮詰めたような服を着ていた耶蘇八も高級着物を着るようになり、他の者たちもパリッとした身なりで身を固めた。
また万智子も耶蘇八ととっぷしの仲であったため、娼館の女将のような形に収まり、俄然やる気を出していた。
そんなある日、耶蘇八は金庫に細工を仕掛けていた。
万智子が何をしているのかと聞くと、泥棒が入った時の防犯装置を仕掛けているのだという。
そんな若山グループが上昇志向を登り始めた時、金子信雄はある話を持ちかけてきた。
パラダイスの2号店を名和宏のシマ内に出店しようというのだ。この話を持ち帰った耶蘇八は、みんなと協議に及んだ。
「罠だぜ」
そう切り出したのはグループのブレーンでもある元弁であった。
「名和組の縄張りに店出して、それを俺たちに任せて共倒れにさせようってい
「おもしろいやないけ。だったらその罠にはまってみよけ」
グループは夜の闇に紛れて、名和宏があれほどこだわるシマ内にやってきて、名和の子分を刺殺した。
金子信雄の組にやられたと勘違いした名和宏は、玉井に子分たちに支度をさせ向かわせた。
しかしパラダイスにはグループが立てこもっていて、窓から手榴弾や爆弾を投下し、その様子はさながら市街戦のようでもあって、そこへ金子組の手勢がやってきたものだから、名和組は壊滅状態に陥った。
いよいよ勢いをつけてきたグループは、なぜか浅草に「いかもの喰い」というゲテモノ料理の店を出店し、大木実は、
「いよいよ俺たちも浅草に出張ってきたぜ」
と息巻いた。そしてその「いかもの喰い」の店内で、客に賭博を誘っては音吉がイカサマで巻き上げるという、あこぎな商売をしていた。
その「いかもの喰い」の店を見ながら肉体的悪役と言ったらこの人、天津敏と大陸浪人風の男は、
「やっかいな奴らが現れましたな」
「ふん。邪魔になったら消すまでよ」
と言ったような会話をしていた。
その頃、パラダイスではというと、ここがどう考えてもストーリーが追えなかったのであるが、苦界に生きる万智子は自殺をしてしまった。
その前に耶蘇八と万智子の間では、こんなやりとりが交わされていた。
「あなたって鬼よね」
「ああ。なんとでもぬかせ。鬼通り越してえんま様になったるわ!」
万智子の遺体を見て、大工は耶蘇八に、
「人殺し」
とだけ言い残し、出て行ってしまった。
レンガで造られたトンネル。その上を汽車が走っている。トンネルを抜けて歩いてきたのは大工であった。
その大工を後ろから付けねらう二人。大工はやけ酒を飲み酔っている。と、大工は背後から刺殺され息絶えた。
元弁はがっつりした情報を掴んだ。
ある尼寺。そこにパラダイスに娘たちを連れてきていた女衒の小松方正が現れる。しかし今度は娘ではなく、赤ん坊を連れてきている。
小松方正はボストンバックの中から札びらを、尼に渡すと、頼んだよみたいなことを言っている。
尼寺の戸口に耶蘇熊が不意に立ち現れ、
「わしの赤ん坊も頼むわ」
と言うと、小松方正に実は市松人形であるところの赤ん坊を投げた。
同行していた元弁が押入れの中の行李を開けてみると、そこには腐乱した赤ん坊の死体があった。
この時の若山富三郎の、おっえっ、うっえっ、という表情がたまらないが、実際の腐乱死体は写していない。これが石井輝男監督だったら絶対、腐乱死体を映したと思うのだが、それがこの作品の監督、村山新治の限界だろうか。
ともかくこの尼寺は、金を受け取ることによって赤ん坊を殺していた恐怖の尼寺だったのだ。
耶蘇八はおののく尼の首に紐をかけ、力一杯に引き締めると、彼女を絞殺した。
さらに元弁はその体に紐をくくりつけ、天井に引き上げると、自殺死体のように見せかけた。
時に「いかもの喰い」の二階では紳士らしき者たちが会食をしていた。
「いかもの喰い」に例の帝大ルンペンが入ってきた。そして元弁に聞く、
「今、二階で食事している奴らがいるだろ。あいつらは金になるぜ」
帝大ルンペンが、その部屋に入ってみると、まさにそこは贈収賄の現場であった。 その場にいる官僚は帝大ルンペンの家でもともと、書生をしていた人物で今は官僚になっている。同席しているのは建設会社の社長で、社長は賄賂の見返りに自分の会社に仕事を独占的に発注してもらうことを計画していたのだ。
テーブルの上には念書もあって、それを全部帝大ルンペンに見破られてしまう。
するとそこに居合わせた大陸浪人が日本刀を抜こうとする。
「大陸浪人風情が、がたがたするな!」
この時は珍しく、帝大ルンペンが大声を発した。
そして現れる若山グールプ。
「あんたらこないなことしてタダで済むと思うとんの」
「念書の存在をバラしたら確実に手は後ろに回るな」
「頼むから。念書だけは返してくれ」
「まあ。5年は堅いだろうな」
「許してくれ。お願いだから」
「がたがた言わずに金もってこんかい!金!」
このようにメキメキと頭角を現し始めた若山グループは、既存のやくざ勢力にとって脅威を感じる存在になり、それは若山グループを傘下にしていると思っている金子信雄も同様であった。
そこで同様に若山グループ排除を企む、浅草の天津敏一家と杯を組んで、もう耶蘇八やっちゃおうという算段になった。
命を狙われ始める若山グループ。 大工を殺したのも実は、金子信雄ではないかと思っていた。
そこで自分たちを襲った者を生け捕りにし、パラダイスの二階でもうナチスも腰を抜かすような拷問を加えるのであった。
顔面血だるまの三下の顔面に、さらに焼火ばしを押し付け、
「言うんだよ!このヤロ!誰の指図で俺たち狙ったんだよ!」
と迫り、さらに焼火ばし押し付けちゃうよー、という拷問の中で三下はゲロしちゃったが、その瞬間耶蘇八は何のためらいもなく、三下を絶命させた。
あれは東京音頭で、みんなが盆踊りに浮かれている夜だった。
耶蘇八、元弁、音吉、大木実たちも揃いの浴衣に袖を通したが、向かったのは金子信雄、天津敏たちが集まる屋敷であった。 ここからは東映セオリーよろしく、長ドス持って敵陣に殴り込みの世界なのであるが、ラストは意表を突かれた。
普通、東映の仁侠映画だと殴り込みをかけても最後の一人は生き残って、そのまま雨降る夜の闇の中に消えてゆくとか、警察に連行されるとかが普通なのであるが、この作品では金子信雄、天津敏などを殺したあと、若山富三郎も含めて全員が血だるまになって死んでしまう。
で、通常ならここでラストシーンなのだが、この作品はそうじゃない。
シーンが変わると例の耶蘇八の金庫の前に、帝大ルンペンが寝そべっていて、
「あいつらは今頃、血まみれで闘ってることだろうよ。馬鹿げたことだ。そのうちに俺はこの金をいただくとするか」
と言い、金庫のダイヤルに手をかけた瞬間、金庫が爆発し帝大ルンペンも爆死して終わるという衝撃のラストが待っていた。
爆笑、爆死、血まみれ、血だるま、猫鍋、泡吹いて失神する女。インテリだからこそ変態な男。
少なくとも地獄の一丁目までは、若山富三郎が連れて行ってくれる良作である。