1975年。映画史に燦然と輝く一本の作品が公開された。
中島貞夫監督、松方弘樹主演作品『暴動島根刑務所』。
その主人公である男の突撃列車・松方弘樹は、開始二分でヤクの売人にして、東映の絶倫帝王・名和宏をぶち殺したが、約二ヶ月後、絶倫帝王の死体が発見されると、そのまま島根刑務所送りとなった。
刑務官室で刑務官たちに取り囲まれ、チワワのようにビクビクしている松方さん。
「おっ。なんやこいつ小便ちびっとるぞ。かわいいヤツやのう。アッハハハハ」
「(松方さん。心の声。以下N)こんなところにとても九年はおられんわい」
昼食時間。
松方さんのとなりにすわっているのは、無期懲役囚・皆川のオッサン (田中邦衛)であった。がつがつ飯を胃袋に放り込む松方さん。それを見ていた皆川のオッサンは諭す。
「あんさん。そないに一気に食べてもうたら、もたんで。ムショにはムショの食べ方ってもんがあんのや。まず、こうな汁物をどかーっと流し込んで、それからこうご飯をゆっくり食べるんや。そのほうが腹持ちがええんや」
皆川のオッサンがレクチャーを続けていると、そこにスキンヘッドの金子信雄が現れ、松方さんに晩飯をよこせと責めよる。
「なんでそんなことせにゃならんの」
「なにぃ」
「まあまあまあ。まだこいつは西も東もわかっとりゃせんのです。わしからよっく言い聞かせますから」
金子信雄は昔でいうなら、牢名主みたいなヤツで裏でムショを支配している。
日付代わり。
作業場でみんながこん棒で、藁束を叩く作業をしていた時、やにわに刑務官が現れ、壁にかけてあった皆川のオッサンの上着を取ると、そのポケットからシケモクを発見する。だがそれに皆川のおっさんは心覚えがなかったが、容赦なく懲罰が加えられた。
みんなは金子信雄がはめたんだと噂する。それを聞いていた松方さん。
そこへ金子信雄が現れ、高圧的にみんな働いとるか、などと言ったあと便所に消えた。
「小便させてつかいや」
そう松方さんは言って、こん棒を持ちながら便所に向かった。そこには何の気はなしに糞を垂れている金子信雄がいたが、松方さんは何の迷いもなしに、そのスキンヘッドにこん棒をやたらめったら打ち降ろした。そして便所の床には赤だるまみたいな金子信雄の死体が転がり、松方さんは早くも突破者ぶりを示した。
まったくこのシーンは痛快である。
「仁義なき戦い」で金子信雄が演じた山守。あいつのせいでみんな死んで行った。それなのに山守は老獪、したたかで誰も殺ることができなかった。みんな山守の手のひらの上で踊らされていた。その積年の恨みがここで爆発したのか、金子信雄は便所で糞垂れている時に、松方さんからこん棒でめった打ちにされ、頭かち割られ血まみれになって死んだ。
が当然松方さんは、刑務官たちからリンチを加えられ懲罰房にぶちこまれることに。
そこへ刑務官の目を盗んで、シケモクを差し入れする者。
「がんばってつかいや」
一方、同じ島根刑務所に収容されている北大路欣也は、その日仮釈を向かえていた。面会室で待っていた愛人。
だがそれは北大路が警務課長(佐藤慶)と交わした約束とは違っていた。
「なしてこいつがここにおるんですか!おまえ誰にもつけらりゃせんかったろうな」
「仮釈には保証人がつきものだ」
「そんなこといったかて、わしがシャバに出たら、睦会の連中がまってるんぞ」
結局、ムショの裏口から警察のトラックに乗り、闇にまぎれて出て行った北大路と愛人であったが、駅で睦会の連中に待ち伏せされ、結果北大路は殺人を犯し、再び島根刑務所に逆戻りすることに。ちなみに、その殺された組員のなかに川谷拓三がいたことを記しておこう。
「やめてくれーっ!死刑だけはやめてくれーっ!助けてくれーっ!」
そうわめきながら、男は絞首刑場に刑務官たちによって、無理矢理連れて行かれた。その様子を独居房の鉄格子から見ている松方さん。
しばらくたつと松方さんは、室田刑務官によって呼び出され、絞首刑場の掃除を命令される。そこにはまだ生々しく死刑囚が残した鮮血が残っている。
「担当さん。死刑になる時って、そんなに血がでまんの」
「ああ。そりゃでるさ。鼻から口から目から耳から。ケツの穴からだってでるぞ。まるで赤唐辛子みたいだ。1時間後にまたくるからな。きれいにしとけよ」
いやいやながら掃除を始める松方さんであったが、何を思ったのか絞首刑のロープに近づきウンコ座りをする。ロープの下は床が抜けていて、その下にも血が溢れている。
と本当に何を思ったのか松方さん。そのロープを首に掛け、舌を出し、お化けのポーズをした次の瞬間、体がすべり下半身は完全に抜けた床にぶら下がる形になり、全体重が首に掛けたロープにのしかかる。ぐいぐい締まってゆくロープ。必至の形相になってくる松方さん。こりゃたまらんという表情をする松方さん。えっ、これマジで。ヤベ俺死んじゃうかもという感じの松方さん。なんとか体全体を使い自らを救い上げた松方さんであったが、このシーンには爆笑してしまった。
とにかくこんなところに九年もおられんわい、と考えた松方さんは、独居房の便所の木枠から指血まみれになりながら、釘を抜き出し、それを布団の綿でくるんで、オエッとなりながら飲み込み、オエッとなりながら飲み込みを繰り返し、ついに胃袋におさめ込んだ。
シーン変わって医務室。
「アータタタタタ。痛っ。はやく病院連れていかにゃーわしは死ぬんどー!」
ベッドの上で七転八倒する松方さん。
「そうだ。そうだよな。死なれちゃ困るもんな」
そういって監守たちは、松方さんの口の中にサツマイモを死ぬほどぶち込んでゆく。窒息しそうになるも、かまわずぶち込んでゆく。松方さんが拒否し、イモを吹き出すもとにかくぶち込んでゆく。
「死なないように、おまえさんの腹のなかにある釘の周りをイモで固めていくんだよ」
次の日。釘は松方さんのウンコとともに排出された。
男の突撃列車・松方弘樹の自由を求める戦いの路はついえたかに思えたが、そんなもんであきらめる松方さんではなかった。
刑務官に連れられて、なんかムショの幹部職員の家で畳の張り替えを行っている時だった。
「なにそれぇ。畳の目が合ってないじゃないの。それにこのタンスもちゃんと閉まらないし、最近の受刑囚は質が低いんじゃないの」
てなことを奥さんがぼやいていたと思ったら、松方さんが刑務官にタックルを喰らわし、同じく片桐竜次は奥さんに襲いかかった。
そして松方さんは刑務官の制服を奪うと、そのままチャリンコに乗り遁走した。
山奥なのだろうか。
川地民夫は妹である賀川雪絵を奴隷のごとくこき使い、シェパードのブリーダーをしていた。そして家の玄関をガラッと開けると、そこには鍋の中の食物をがっついている松方さんがいた。
「やめい!」
「なして」
「それ犬の餌やぞ!」
「ゴエーッ!!!」
俺がこの作品を初めてみたのは、もう20年は前になるだろうか、それは今はなき新宿昭和館のスクリーンであった。俺も含めてなのだか、平日の昼間っから男どもがションベン映画で暇をつぶしている。スクリーンの脇にはでっかく〝禁煙〟と書いてあるのにオッサンは堂々とたばこを吹かしている。そんな新宿昭和館のスクリーンに写し出されたこのシーンを見ていたオッサンは、バカ受けしていた。
「犬の餌だってよ。ギャーハハハハ」
だが一部の映画ファンや評論家を納得させるような作品よりも、昼の日中から酒かっくらって、三本立て千円で暇潰しているオッサンを爆笑させてしまうような作品にこそ、俺は価値を見いだす。
「(N)一ヶ月もここで鳴りを潜めておったら、サツも静かになってきたわい」
犬のブリードに精を出している賀川雪絵。犬の気が散ってはいけないと物置小屋で見ている賀川雪絵と松方さん。とにかくシェパードがズッコシバッコシやっている。恐らく映画百年史の中で、あれだけ克明に犬の交尾の模様を写し出した、記録した映画もないのではないだろうか、なんて言っていたら、とにかくムショ以来松方さんは溜まりに溜まっていたもんだから、その様子を見て自らも発情した松方さんは、賀川雪絵と力づくで交尾してしまった。
だが雪絵のほうでも溜まっていたのか、明けても暮れても交尾をする毎日が続く。
「イタイ!もっと優しく。そう。そう」
突撃列車の男根を賀川雪絵がくわえ込むと、意外にデリケートなところがあるのか松方さんはそう言った。
「いつからなんじゃい!いつからできていたんじゃい!」
川地民夫はぶち切れていた。
「あがな男。生きているようで幽霊も同じなんじゃぞ!こんど捕まったら10年は喰らうんじゃ!そがな男に妹傷物にされて黙ってられるかい!もう恩も義理も尽くしたわ!」
んなことを言っていたと思ったら、そこへすっーと松方さんが現れ、やにわに川地民夫のケツに蹴りを入れる。
「わしが幽霊じゃったら、その幽霊に助けられたおまえはなんなんやーっ!妹、小遣いみたいにこき使いやがって。有り金全部出せやーっ!」
不意打ちを喰らった川地民夫は、押し入れから金庫を差し出す。
「お茶の缶の中にもっとあるよ」
「おまえ!」
川地民夫の腹に蹴りを入れ、お茶の缶ごと奪ってゆく松方さん。そのまま夜の路を歩いていると賀川雪絵があとから追ってくる。そして一言。
「こいや」
松方さんと賀川雪絵は大阪に飛んだ。
だが松方さんはビリヤードなんかやっていて、賀川雪絵のヒモになり、案外気楽に潜伏生活をしていた。そんなある日。松方さんは川で溺れている子どもを助けたことによって、警察から表彰状を受けるというあってはならない事態に追い込まれた。 「わしゃいかんぞ。わしが警察なんて行ってみい。その場で逮捕やわ」
「せやかてアンタが助けた子ども、警察友の会の会長さんの子で、どうしても来てくれって。もう近所でも評判なんやわ」
「いかん言うたらいかんわ!」
布団にくるまって、そう言う松方さん。そこへ近所の者が迎えの車が来たと知らせにやってきた。サイレンを鳴らした警察車両に乗り込んでいた時、松方さんはすっかりその気になっていた。
警察署長から表彰状を受け取っている時、
「(N)なんや。金一封はでえへんのか」
表彰式が終わって、一同が部屋を出た直後、署長は指名手配書の中に間違いなく、ドンピシャリで松方さんの写真を見つける。
松方さんが階段を降りようとしていた時、警察が声をかける。
「(N)やっぱりや。金一封忘れとったんや」
「貴様!島根刑務所抜けよった脱獄犯やろ!」
不意を突かれた松方さんは、踊り場の窓から逃げ出し、大阪の街に潜伏する。
ある映画館の中に紛れ込む松方さん。やがてそこにも警官がやってくる。便所に移動する松方さん。上映時間になると、一人大便所に身を忍ばせる。するとそこへ、体をのけぞらせてケツに手を当てた小松方正が入ってくる。
「ああーっ。もう辛抱たまらんわーっ!はやくしてんかーっ!腹下してまんねん!はよっ!」
「(機械的に)入ってます」
「もう!入ってますって、あんたそないに殺生な!」
苦悶の表情を浮かべ、体をよじらせる小松方正。シモの話なら誰でも同じような体験はあるだう。松方さんがそっとドアを開け、外の様子をうかがうと、ロビーにはまだ警官が張っている。
それを目撃した小松方正。
「あんた。なにやってまんの!はよ、開けい!」
プピッブピッブピピピピーッ。ケツを押さえていた手にウンコが付着する。
「ああ!洩れてもうたやないかーっ!どないしてくれるんじゃーっ!このドアホーッ!」
ドアに蹴りを入れ、力づくでこじ開けようとする方正。その騒ぎに気づいて警官もやってきてドアを開けようとする。ドアノブを必死に握り、なんとか開かせまいとする松方さん。
「(N)これが本当の雪隠責めじゃーっ!」
再度パクられた松方さんは島根刑務所での生活に戻ったが、刑は12年に加算されていた。
ふてくされている松方さんにいい物見せてやると皆川のオッサンが連れて行ってくれたのは、ムショの一角にある豚小屋であった。
「今度、わし豚の担当になってな。毎日世話しとんねん。なんや。こいつらがかわいらしゅうて、かわいらしゅうて。よかったらあんさんも一諸にやらんか。なんやったらわしから頼んでみてもええで」
すでに豚愛に溢れているオッサンだったが、松方さんは豚の飼育には関心がないようだった。それよりは、どうせここで12年暮らすんだから、わしの好きなようにさせい、と反抗的態度、レジスタンスの構えにアクセルを吹かし始め、以前にも増してムショのなかで問題を起こしては懲罰を喰らい、独居房に入れられ、作業に出てきては問題を起こし、懲罰を喰らいの学習能力ゼロ、しかし野性の本能にだけは目覚めてゆくのであった。
懲罰房に放り込まれている時、またもや刑務官の目を盗んで差し入れが入った。それを開けてみると、詰められた小指であった。
「なしてこんなもん差し入れするの」
「あんたの若いもんになりたいいうヤツがやったんじゃあ」
松方さんが作業をしていると、その指を詰めたヤツが近づいてきて、もう片一方の小指も詰めたという。
「またやったんかい。ワレ。突破モンじゃのう」
その様子を見ていた腕章を着けて、刑務官の手先になっている織本順吉。
「なにやってんだ!おまえら!はやく作業に戻れ!」
「なんや。ワレ。腕章なんか着けてからに。懲役に上も下もあるんけえ」
こうして松方さんはカリスマになっていった。突撃ロードを爆走するその姿に、みんな惹かれて行った。ロック界に例えれば、それはシド・ビシャス的パンクスピリットと言っても過言ではなかった。
厨房。飯をがっつていている北大路。
課長である佐藤慶は北大路に交渉を持ちかける。ムショの中でパンクスピリットをまき散らしている松方さんをなんとか押さえて欲しい。それができたなら刑期も軽くするし、仮釈も考えてやってもいいと。しかし北大路は佐藤慶のことを信用できないとし、その話を突っぱねる。
カンカン踊りというのは東映映画を見て覚えた。
懲役囚の身体検査で、フルチンになり、自分の番号を唱えたあと、両手を上に上げて、監守の前でくるっと前後に一回転することだ。監守たちは、このカンカン踊りの場を綱紀粛正の絶好の機会だと捉えていた。
一人の囚人の上着を取ると、
「なんだあーっ!この匂いはーっ!タバコだろーっ!」
と顔に押し付ける。そして全員表に出ろと命じる。そこで繰り広げられたのは映像美の数々だった。
素っ裸でランニングさせられる男たち。さらにうさぎ跳びをさせられる男たち。
そこに皆川のオッサンが飼っている豚が乱入してくる。素っ裸の男。豚。素っ裸の男。豚。豚と男たちが入り乱れるという映像美。だから中島貞夫監督の映画はやめられない。なんだかんだ言って、この人が東映の監督のなかでは一番アナーキーなのではないかと思う。
「逃げーっ! オサッン!逃げーっ!」
そう声がかかると、皆川のオッサンは豚を抱きながら全力疾走した。だがオッサンは所長室に呼び出し喰らった。
「これからは豚を飼うことは禁止する」
そう冷たく言い放つ伊吹吾郎所長。
「そんな。そんな殺生な。わての刑は無期だす。それ考えると、もう気が狂いそうになるんだす。そやけど、ああ豚が成長したなとか、知らん懲役からオッサン豚の調子どないだとか言われた時、わてここで生きて行くことができる、そう思うんだす。せやからわてから豚を取り上げるのだけは勘弁してくれはらしまへんか。課長さんからもお願い頼みます」
「いい加減にしろ!ここは養豚場じゃないんだ!」
引きつるオッサンの表情。そして何かを決したかのような表情。次の瞬間、オッサンは窓に頭からダイブし投身自殺した。
この皆川のオッサン、つまり田中邦衛の演技がすこぶるいい。豚飼えない=死ぬ、と思考が直結しているのがいい。オッサンほど自分に正直に生きた人間はいないだろう。生き甲斐を奪われる。だから死ぬ。くどくなるが、その生き甲斐が豚を飼うことというのがナイス過ぎる。
部屋から見下ろした邦衛の死体のカットは、頭から血を流し、悲惨であったが、それを体現した田中邦衛はやはり、こういう役やらせたらとんでもない才能を見せつける。
オッサン抗議の死の報はムショ内に広まり、余計にレジスタンスの気運は高まっていくのであったが、突然の構内放送で作業は中止となり、全員各房に帰らされ、さらに飯抜きという襲撃的なニュースが告げられた。
が、そんな絶望的な状況の中、ある独居房から地獄の底で鳴り響いているような声が聞こえてくる。
「飯よこせーっ!飯よこせーっ!」
その声の主こそ誰あろう。男の突撃列車・松方弘樹であった。その原始からの叫び、プライマルスクリームがムショの中に伝播してゆく。
「飯よこせーっ!飯よこせっー!飯よこせーっ!」
松方さんを静かにさせるために監守は、その房に向かったが、松方さんは独房の便所からウンコをぶちまけ、それが監守の顔にどっぷりかぶさる。事態を重く見たムショは、松方さんを隔離するため連れ出すが、松方さんは隠し持っていた刃物で室田刑務官の顔を斬りつけ、人質に取る。そのまま室田刑務官の持っていた房の鍵を奪うと、若いもんになりたいと言っていた男にパスした。鍵を開ける男。あとは雪崩式に房から飛び出してくる男たち。
ついに暴動が始まった!
大河の奔流のように監守に襲いかかってゆく男たち。監守たちが威嚇発砲するもひるまずに襲いかかる男たち。すべては飯よこせから始まった。
それをリードする松方さんたちコアチームは、倉庫からシャベルやツルハシを奪取し、構わず監守たちの頭をめった打ちにし、血祭りに上げてゆく。次々にムショの要所を落としてゆく男たち。
「ちくしょー!あいつら一匹ずつぶち殺していいなら、とっくに方はついてるんだ!」
そう本音を漏らす佐藤慶。荒れ狂う男たちを背に一人沈黙する北大路。ついに刑務官室、厨房を占拠した男たち。監守たちは所長室一帯に退却するしかなかった。
万歳の気勢を上げる男たち。
夜になるとムショの庭で何もかもが燃やされてゆく。その中には調書。上申書などもある。その炎の周りで陶酔感に浸っている男たち。〝自由〟を手にした男たち。
とりあえず飯ほおばるヤツ。豚を抱いて恍惚の表情を浮かべるヤツ。オカマ掘るヤツ。ガキみたいに騒ぐヤツ。踊り狂うヤツ。
このシーンのサントラがまたいい。初期ファンカデリックを思わせる黒さで、ファズやワウをかませたギター。深いハモンドオルガンの音。クラビネット。扇情的なリズムが相まって、いっそう〝自由〟を具現化している。アジールの夢を描いてる。
室田日出夫以下、三人の刑務官は人質として取られ、アナル見えるんじゃないかというくらい裸にされた上、拘束された。
「(N)なんや奇妙な夜じゃった。みんな酒も飲んでおらんのに、心の底から酔うとるような夜じ
ゃったー」
だがそんな〝自由〟は長く続かなかった。いや続けようと思えば、続いたのかも知れないが北大路が所長から刑務官の態度を改めさせる、今回の事件では誰も責任者を出さないなどの確約を取り付けたので、これ以上暴れるのはやめてくれとみんなに諭し始めたのだ。
「あんたらもこれだけやったんじゃー!かっこがついたろうに!島根で暴れた懲役じゃ言えば、どこだって通用する!」
「こん外道のいうこと聞くことないどーっ!」
それを聞きつけた松方さんが現れた。
「いくらポリがこようがどうしようが、やるだけやったればええんじゃーっ!」
あくまで徹底抗戦を主張する松方さん。このままいけば死人が出るのは間違いないと北大路。
話はタイマン勝負でつけることになった。果たして勝負のゆくえは!?
だがこの作品が、暴力と爆笑と性力とウンコに溢れた傑作中の傑作であることは間違いない。
男の夢と浪漫とを乗せこんで、きょうも男の突撃列車・松方弘樹は爆走する。
なにかにつまづいたり、悩み込んだり、あきらめそうになった時に見るべき男の教科書であり哲学書。犬の餌を喰らってでも生き残れ!