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執筆者の写真makcolli

暗黒街の弾痕


岡本喜八はやはり、ひとかどの監督である。だが名匠と呼ぶような重たさはない。

岡本喜八のなにが凄いって、あのカット割りの細かさである。タイトルバックの走る車と、それを追うバイクの映像だけでも、あらゆる角度からのカットで構成されている。

ロングショットからのパン。回転する車輪。ボンネットの上で揺れるマスコット。ハンドルを握るドライバー。バックミラーの中に写るバイク。

カット割りを細かく行うことによってなにが生まれるのか?独特のテンポ、リズムが発生して見ている者はスクリーンに釘付けになってしまう。アクション映画を撮るなら、これは鉄則のように思われがちだが、ここまでのことをやってのけてしまうのは、俺の知っている限り岡本喜八と石井輝男しか知らない。

物語の中心軸は産業スパイもので、自動車のエンジン開発にからむ会社と、闇の組織の攻防を描いているのだが、普通こういうスパイものっていうのは、キャラクターの心理的展開に重きを置いてしまいがちだが、それをあくまでアクションで撮り切ってしまうのも、岡本喜八に腕があればこそだ。

活躍するのは組織の陰謀によって、テストドライバーの兄を殺された捕鯨会社に務める加山雄三と、倒産しかかっている出版社の社長にして、いつも借金取りから逃げているトップ屋の佐藤允。

このふたりが高校の時、野球部の同級生だったという設定で、例えばピンチに陥ると、

「九回裏ツーアウトっていう訳だな」

とか気の効いた台詞を使うのだ。

とにかくこの作品、次から次にいろいろな仕掛けが用意されていて、見るものを飽きさせないし、岡本喜八のユーモアセンスが炸裂している。

なじみの飲み屋で飲んでいた加山雄三と佐藤允のもとに、組織のちんぴらが因縁をつけてきて乱闘になるのだが、

「女将。いまのうちに弁償代の計算しといたほうがいいぜ」

と佐藤允が言ったと思ったら、殴った相手の頭が壁を突き破り、隣のスナックに飛び出してみたり、喜劇的要素が濃厚なのだが、完全に喜劇にもならない、かと言ってスタイリッシュなアクションでもない、岡本喜八ワールドとしか言えない世界が展開されているのだ。

そしてやはり少々、オボッちゃまな加山雄三に対して、ぎらついている佐藤允がそれを補ってあまりある存在感を見せつける。

兄の死の真相を純粋に知りたいというだけの加山雄三に対して、佐藤允はトップ屋。でかいヤマを掴みたいし、金も儲けたい。そんな佐藤允に対して、加山は疑心暗鬼にもなるが、最後までふたりは力を合わせ、疑惑の究明のために組織と闘う。

その佐藤允の子分みたいな感じでチョロチョロしているミッキー・カーチスも面白い。ミッキー・カーチスが出ているということは、ロカビリーブームの頃だったのか?佐藤允も革ジャンを着込みデニム姿とかっこいい。

さらに佐藤允の愛人として水商売の女役、水野久美も登場。この人、こういうグラマラスな役やらせても魅力的なんだと思った。

あとこの作品、照明が素晴らしいと思った。特にクラブで女性シンガーが歌うシーンで、最初暗闇の中からバックコーラスの3人の男の顔だけが登場し、バックのセットがオレンジ色になったり青になったりする中、やはり暗闇から女性のシルエットが浮かび上がり、やがて全身がライトに照らされて現れる。

ここの照明は本当に魔法の如きである。岡本喜八が映画を単なる被写体をカメラが捉えて作り出すもの以上に、照明効果なども頭の中に入れて、総合的に構成していたのが分る。

あとサントラが不思議で、この時期だとアクション映画の音楽と言えばモダンジャズが帝石だと言えるのだが、61年当時そんなものがあったとのかどうか、リズムボックスのようなチャカポコチャカポコしたリズムが多用されていて、それがまた作品のおかしさを盛り上げる。

話も二転三転して先が読めず、組織のボスだと思っていた河津清三郎は単なるザコで、登場はしないが香港マフィアが裏で組織を操っていて、それの指示を受けているのが実は女性シンガー。この女性シンガー、どこにいくにもバックコーラスの男3人を連れている。

シンガーの指示を受けた中丸忠雄が、エンジン開発会社に押し入り、金庫の中の設計図を奪い。それを追って加山、佐藤允は新装開店前のクラブに行くのだが、そこには先に配電工に扮したミッキー・カーチスが潜入していて、その潜入の仕方も伏線がちゃんと張ってあって面白い。

死闘を繰り広げる組織と加山、佐藤允だが、実は盗まれた設計図が偽物であるとミッキー・カーチスは知っている。本物の設計図は、ものすごい意外なところに隠してあったのだ。

乱闘現場にマイクをミッキーが垂らすと、それが屋外の拡声器に伝わっていて、その模様が夜の街に響き、警察が集まってくる。

「もう両方ともそれくらいにしといたら。設計図はにせもんなんだから」

「嘘言うな!」

中丸忠雄がそう言って、包装紙を破いてみると、そこには正月映画だったからなのか「謹賀新年」と記されていた。

最後は加山雄三は流血で目が見えなくなり、佐藤允は両腕に怪我を負ってしまうのだが意外な武器を使って戦うというのもよかった。

最後のおちは加山、佐藤允、ミッキー、水野久美。そしてエンジン開発者の妹の浜美枝が野球場で、野球ごっこをして終わるというものだった。これが最後、もの凄い俯瞰で撮っていてスケールのでかさを感じさせた。

岡本喜八の才気、ユーモアセンス、茶目っ気が炸裂し、そのなかでところせましと暴れ回る佐藤允の姿がかっこよかった。

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