某日。今はなき銀座シネパトスにてレイト特集中の、「東映セクシービューティーの逆襲」にて上映された『横浜暗黒街 マシンガンの竜』(76年)を観に行く。
この作品、自分が東映映画にはまりだした頃に、レンタルビデオ屋から借りてきて見て、弟と二人で爆笑した作品だったので、もう一度見てみたいと足を運んだ。
横浜は夜の本牧ふ頭で、大組織のブツの受け渡し場所に現れた怪物のマスクを被った三人。車の中からチャンスをうかがい襲撃。そして時価にして15億円ものブツを奪取する。しかし三人のうち一人は組織に銃撃され重傷を負う。
そのまま車で組織の人間をひき殺し、逃走する三人。マスクを取ると、そこには文太さん。三益愛子。名も知らぬ役者の姿が現れ、名も知らぬ役者は、
「いてえよー。助けてくれよー。病院に連れてってくれよー」
と懇願する。
「ふふふ。今すぐ楽にさせてやるからよ」
と言って、やつの体にダークスマイルを浮かべながら、鉛玉を打ち込む文太さん。
文太さん。三益愛子の二人はブツを下水道のなかに隠す。
シーン替わって、湯船のなかでビールをカブのみする文太さんと、一緒にシャンプーハットみたいなの被って湯に浸かっている三益愛子の姿。
「お前は本当に良くできた子だよ。最初からあいつをばらす気でいたんだろ?」
「おっかあ以外の誰が信用できるもんかよ!」
この作品が面白いのは、文太さん演じる主人公の〝マシンガンの竜〟が極度のマザコンのギャング(?)であり、ビッグ・バッド・ママの三益愛子も竜を溺愛しているということである。この設定はなかなかに奇抜だ。
その後、文太さんは昔なじみの暴走族、岩城滉一たちを引き連れ、コブラを乗り回しクラブなのか、さすがにこの頃はゴーゴークラブとは言わなくなっていたであろうが、ロックがガンガンにかかっている店で豪勢に飲んだくれる。
そこでホステスとして働いていたのが、中島ゆたか。さすがにマザコンの竜も男盛りとあっては、女の一人も欲しいというものということで、ゆたかとねんごろの仲になるが、ママは竜の服の臭いを嗅ぐと、
「また。女なんか作りやがって。お前は死んだ親父に似てきたよ」
「そういうなよ。おっかあ」
「まだ懲りないのかい!昔だってパンパンみたいな女に騙されただろ!」
「あいつのことは言うな!おっかあだって、パンパンだったんじゃねえか!」
と竜が言うと、ママは涙を流して苦労話を始めるのであった。その涙を見て、竜も改心させられずにはいられなかった。
しかしブツを強奪したのはママ・竜の親子だということを嗅ぎ付けたワル役と言ったらこの人・今井健治一派が、ママの経営する喫茶店に現れ、黙っていて欲しけりゃブツを半分よこせと言ってくる。話を了承する竜。
そして午前二時、約束通り今井健治たちは待ち合わせのビリヤード場にやってきた。そこへ警察の姿をした岩城滉一ほか一名が、
「拳銃の不法所持検査だ!横に並べ!」
と言ったかと思いきや、竜が現れてマシンガンを乱射。今井健治たちは蜂の巣になっていた。
この作品、シーンごとに文太さんがスーツやコートを取り替えていて、なかなかに衣装にも凝っているし、このあたりまではサントラもロックのリズムに乗ってご機嫌であるが、組織はママ・竜からなんとかブツのありかを吐かせようと必死になり、アメリカ本国からもスナイパーの白人、ナイフの達人の黒人を送り込んでくる。まずその餌食になったのは、本当にブツのありかなどなにもしらなくて、とりあえず竜と一緒にいりゃ、女にも酒にも困らねえぐらいにしか思っていなかった暴走族連中であった。
ガンガン暴走してくる数台のダンプカーに追いつめられ、岩城滉一は転倒しあえなく死亡。残りの連中も手を縛られて、ビルの屋上に集められ、
「このチンピラ。ブツのありかを吐きやがれ!」
「知らねえ。おりゃ本当になんにも知らねえんだよ」
と言っている間に、一人ずつなぶりものにされて死んでいった。
その頃、竜はと言えば、ゆたかのアパートでママの言いつけも聞かずに、きつい一発の最中であった。そこに組織の車が乗り付けてくる模様を発見。万事休すかと思われたが、ここで竜が機転を利かし、包丁でゆたかの手首を切り、そのまま警察に通報。パトカーが到着したところで、アパートから二人が出てきて、
「このアマ、ぶち殺してやるぞ!」
と竜は包丁を持って暴れ回り、そのままパトカーに乗せられムショ暮らしとなった。その間、組織の人間は黙って見ているしかなかった。
ムショに送られた竜。東映チックにビンビンにディフォルメされたムショの中にも組織の追及の手は及び、爬虫類的な悪役と言えばこの人・山本昌平以下三人が竜を必要に追うのであった。
便所で隠れてヤニを吸っていた竜を見つけ、ボコボコにする三人。一人はなんとか頭突きでのしたが、殴る蹴るの荒らしにさらされる竜。
「おーい!看守がくるぞー!」
そう言って助けたのは田中邦衛であった。
ムショ内の作業場で山本昌平はグラインドカッターの操作をしていた。そこへ竜が担いでいる角材が当たり、昌平は片腕を切断。
残った一人と言えば、風呂の時間に文太さんのとなりからぶくぶく泡が立っているので、屁でもこいているのかと思い、その様子をとなりの邦衛も静かに見守っていたのだが、その一列が湯船からあがった瞬間にプカーッと死体が浮かんできた。
文太さんがそいつの首根っこを持って、湯船に沈めていたのであった。
ことはムショ内の重大事件となり、看守室に呼び出された竜と邦衛の二人。
「これは明らかに殺人事件だ!近くにいたお前らが知らないはずはないだろう!」
「おりゃ知らねえよ・・・」
ポーカーフェイスを決め通す竜。邦衛はと言えば、ムキになってむやみやたらと看守に反抗し、逆にボコボコにされて懲罰坊に送り込まれたのであった。
面会人がきたということで、ママが会いにきてくれたと思った竜は顔をほころばせて面会室に向かった。だがそこにはママではなく、中島ゆたかの姿が・・・。
「なんだお前か・・・」
そういってがっくりきた竜であったが、静かにゆたかが骨壺を差し出すと、ショックのあまり、号泣しているんだか、爆笑しているんだか、発狂しているんだか分らなくなり、
「ヒャーハッハッハッ!ヒャーハッハッハッ!」
という奇声を発しながら、看守を次から次へとぶん殴りつづけ、さらに給食の食器をぶちまけ、給食もぶちまけて、10人がかりぐらいでやっと取り押さえられて、懲罰坊送りになったのであった。このシーンの文太さんの演技は白眉である。
ママは竜がムショに入っている間に、組織の手が回っている刑事・小池朝雄に捕まり拷問のような取り調べであの世送りにされていたのであった。
拘束帯をはめられて、懲罰坊に放り込まれる竜。ママの死に泣き濡れていると、隣の坊から、あの独特の口調で「おい・・・」と呼びかけるものがいる。誰かと思って、床の隙間からのぞいてみると、鼻血を垂れ流した穴熊のような顔をした邦衛であった。
「お前さん幸せもんだぜ。その歳までお袋さんと一緒にいれてよ。おりゃあお袋の顔しらねえや」
そう語りかける邦衛に、精一杯の笑顔で応える竜であった。
シーン替わって所長室の中。見覚えのある後ろ頭がソファーに座っている。
「だいぶヤツと接近しましたがね。ブツのありかまでは聞きませんでした。それで感づかれてはもともこもないですからね」
「このまま君に任せても大丈夫なのかね」
「任せてください。これが私のやり方なんですから」
「わかった。では早速、脱獄の準備をしよう」
見覚えのある後ろ頭が正面に回った時、それはタバコをふかしている邦衛であった!邦衛は潜入捜査官だったのだ!
手はず通り脱獄した竜と邦衛は、まずママを殺した小池朝雄を殺害。そしてブツを隠してある下水道にいく。その間、竜は偽造パスポート・ブローカーの千葉ちゃんと連絡を取り、邦衛と高飛びする計画を企てる。
千葉ちゃんと待ち合わせた場所で落ち合った二人だが、千葉ちゃんは邦衛のパスポートを破り捨て、いきなり邦衛に飛び蹴りを喰らわせる。
「どうしたんだ!おめえ気でも狂ったのか?」
と言う竜に、
「こいつは犬だ。よもや俺の顔を忘れたわけじゃあるめい」
と言う千葉ちゃん。絶体絶命のピンチに追い込まれた邦衛の顔の演技がなんともいえない。大好きな『暴動島根刑務所』といい、死ぬ直前の人間の顔をやらせたらおそらく田中邦衛の右に出るものはおるまい。
竜は邦衛を射殺。
そのまま画面は白くなり、北の国にやってきた竜とゆたかの二人の姿を映し出すのだが、惜しむらくはむごたらしく惨殺された邦衛のワンカットでもあればよかったのにということである。
Too Bad。やりすぎちゃった感じ。そこまでやるかという徹底さ。あえて露悪趣味をよしとする東映イズムにおいては、頭打ちぬかれて血まみれになって死んでいる邦衛の死体が欲しかった。
この作品の監督、岡本明久という人が、この作品が第一回監督作品にして、そのあとが続かなかったというのは、このへんの詰めの甘さにあったのではないのかと考える。
やはり名を残したり、再評価される監督というのは、何かに秀でている、言い換えればなにかをやり過ぎちゃっている訳で、特に70年代東映という弱肉強食の世界では、「あいつがこんなことやったんなら、俺はもっとすごいことやってやろう」というしのぎの削り合いが、スタッフでもキャストでも行われていたはずで、そこから考えるとこの作品には突出したなにかは感じられない。かと言って凡作なのかと言えば、そうでもなくそれなりに楽しめるのであるが。
物語後半の記憶はほとんどなくて、今回見て、思い出すことがたくさんあったのだが、竜とゆたかはブツを担いで北国まで逃げてくる。
竜が訪ねたのはママが「昔の女」と言っていた江波杏子であった。この町で江波はスナックのママをしていた。どうやらこの町は日本海に面しているらしく、竜は玄界灘を超えるため、江波に漁師を手配するように頼む。
「自分のことしか考えてないのは昔から変わらないのね」
とかなんとか言っている間に、きつい一発に及ぶ竜。そうかと思うと、ゆたかには、
「あんな女、なんでもねえんだよ」
とぬけぬけと言って通すのがナイス。これこそ金玉のついている男と言うものだ。
が、北国の小さなスナックである江波の店にも組織がやってくる。
「あの二人はどこへいったんだよ!」
「わたしが言うとでも思っているの」
アイスピックを胸に突き刺し、自死を選んだ江波杏子。
その頃、竜&ゆたかはタクシーに乗り港を目指していたが、なぜか、
「お前先に行ってろ」
と別々のタクシーに乗って、向かうのだった。このへんの逃亡劇はアメリカンニューシネマ(そんな洒落たもの見たことないが)調を狙ったらしいが、当然そんなものを東映が作れるはずもなく、北の果ての田舎町で物語は進行してゆく。
港にやってきた竜は、当然ゆたかが先に着いていると思ったが来ていない。漁船に乗り込み船長にエンジンを温めておけと言う。それでもゆたかがやってこないのでついに船は出港する。
その時、組織の車が現れ、ゆたかが囚われの身になっていることが分る。
「今すぐ止まれ!この女を殺すぞ!」
「そんなクソ女、煮るなり焼くなり好きにしろ!」
ナイフの達人に首を掻き切られ、血しぶきをあげるゆたか。その姿を見た竜は船から飛び降り、マシンガンをぶっ放し始める。組織と竜が決着をつけるときがきた。
このクライマックスのアクションシーンはなかなかの見物。マシンガンをぶっ放しながら暴れ回る文太さんはかっこいい。
ラストはやはり東映らしく、文太さんの歌う演歌に乗って、竜がゆたかの死体を肩に担いで、防波堤を海に向かって歩いていきエンドマーク。
ふりかえると〝マシンガンの竜〟に関わったものは全員死を迎えるという殺伐としたでもなぜか憎めない一本であった。