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執筆者の写真makcolli

夜の歌謡 女のみち

すでに下地はできていた。いや、それは一種の宿命だったのかもしれない。『だに』、『いろ』、『かも』、『ひも』というおよそ現在の邦画界では信じられないタイトル作品の中で辰兄は、冷酷なスケコマシを演じ続けていた。

はっきり言って辰兄は大根もいいとこである。台詞も棒読みだし、演技に幅ある訳でもない。千葉ちゃんのように華麗にアクションを見せることもできないし、男の突撃列車・松方さんみたいに突進力がある訳でもない。文太さんのように凄みを見せたかと思うと、野糞するような器用さもない。

ないない尽くしの辰兄であるが、ことスケコマシを演じさせたら天才的な才能を見せるのである。それは辰兄の抑揚のない演技が女たらしに向いているということもあるのだろうが、この時期、辰兄が実生活でも相当な数の女をたらしこんでいて、そのプライベートにおける実践をそのまま撮影現場に持ち込みんだ、という要素も大きいだろう。

いや。それこそが「映画俳優・梅宮辰夫」と極論しても乱暴ではない。

実際、このスケコマシ路線にバイカーアクションとナンセンスギャグを取り入れたのが「不良番長」であり(監督。野田幸男は当初ロジャー・コーマンの『Wild Angel』を参考にしたと思える)。当時の流行歌を取り入れたものが、「夜の歌謡」シリーズであり、男のシンボルの使い方を高らかに歌う、「シンボルロック」がテーマ曲の「夜の帝王」シリーズであった。

んで、『夜の歌謡 女のみち』なのであるが、言わずとしれたぴんからトリオのミリオンヒット「女のみち」を大々的にヒューチャーしたものである。

であるから、作品中、ぴんからが歌うシーンも含めて、少なくとも五回は「女のみち」がかかっていた。当時、いかにこの曲が絶大に支持されていたのかが分ると共に、もともとお笑い出身のぴんからであるから、とにかく「女のみち」で破竹の勢いを得ていたぴんからであるから、脂の乗り切っていたぴんからであるから、その芸達者ぶりも見え、ぴんからファンにとっても必見の作品である。

特にぴんから兄弟ではなく、トリオ、並木ひろしがいて、兄、宮五郎も生きていた頃のぴんからであるから、そのレア度も増すというものである。

関係ないが、俺と弟の間では宮五郎はオーバードーズで死んだということになっている。

あと、注目なのが、この作品がデビュー作にして辰兄の愛人役、中島ゆたか。

今はなきシネパトス銀座にて、中島さんの特集上映があり、トークショーを聞きに行き、この作品についても話してくれたのだが、当時の東映の女優陣たちはとにかく辰兄だけには気をつけろと要注意警戒情報が流れていたらしい。

記憶によると、中島さんがデビューする時、共演が辰兄だということを知ったご両親は、東映の首脳陣に、とにかく娘の貞操だけは守ってくれと確約させたらしい。

その後、70年代東映にて一輪の花を咲かせることになる中島さんだが、この作品ではなかなかの悪女を演じている。

雨の日の雑踏。傘がなく困っている女がいた。それが賀川雪絵。そこにそっと傘を差し出すゆたか。

「駅まででしょ。入ってらっしゃらない?」

そういってゆたかは、自身が務めるキャバレーに賀川雪絵を誘い込む、とのっけからその店ではぴんからが、Deep & Soulに、

「♫ 二度としないわ 恋なんて~」

と「女のみち」を激唱しているのだった。

「この人、私の兄なの」

そううそぶき、辰兄を紹介するゆたか。そして、辰兄は賀川雪絵を口説きはじめるのだが、今さら貞淑ぶったって、石井輝男監督の「異常性愛路線」で全身に金粉塗られたり、鈴木則文監督の「女番長」シリーズでは、さんざんぱらやさぐれ、ズベってきた賀川雪絵がねんねじゃあるまいし、かまととぶっても通用しねえんだよ、と思ったが物語が進むに連れてなにゆえにこのキャストだったのかが分った。

監督は山口和彦。この日記でも何回か綴っている山口和彦。『サーキットの狼』とか救いがたき駄作も作っているが、大信田礼子の「ずべ公番長」シリーズとか見応えのある娯楽作をものしている才人でもある。

そして、この作品でもその演出は冴えている。

外人社長の秘書をしているという賀川雪絵を、さっそくアパートにたらしこむ辰兄。そして一回戦に突入。その横のベッドではゆたが寝ている。

この作品、面白いのは辰兄がその状況に従って、「心の声」を発することにある。

辰兄がそのシンボルを賀川雪絵に挿入させると、雪絵は、

「Oh! No!~」

とか言って、喘ぎ声をあげる。すると辰兄は、

「なにがOh! No!だ。このスケ、相当外人と寝てやがるな」

と、心の声を発するのである。これが随所随所で効いている。

翌朝。雪絵が目を覚ますと、そこには辰兄の姿はなく、ゆたかがタバコをふかしている。さらに雪絵の服もない。

「えっ!あの人は?私の服は?」

「さあね。あの人が持って行ったんじゃないの・・・」

「ちきしょう!おめえら、最初からグルだったんだな!」

そういって東映セオリーに従って、キャットファイトに突入!ゆたかはジーパンにセーターを着ているが、雪絵はパンティ一枚だけ。パイオツ丸出しで、ゆたかと一進一退の膀胱、いや攻防を繰り広げる。

しかし、ゆたかが「女・川谷拓三」と呼ばれる賀川雪絵と互角に渡り合う姿は、これがデビュー作とは思えない程見事。

これ。今の女優とかだったら、これから売り出そうと、ホープとして売り込もうとしている女優だったら企画段階でアウトでしょ、てなもんで、武井咲とか剛力綾芽なんかにも、このずべ公精神は多いに見習って欲しい、って無理な話だが。

しかし。今の面白くもなんともない邦画の現状を鑑みるに、「あの時代はよかったなあ」という一言ではすまされないものがある。

とにかく、映画を女、子供から取り返せ!ということは声を大にして言いたい。

そんで雪絵はパンティー一枚のまま玄関から追い出され、アパートの廊下で人々の耳目にさらされるのだが、そこに優しく毛布を差し出したのが荒木一郎。

そのまま向かったのがお座敷キャバレーという、現在なら近代化遺産にも登録したいぐらいの風俗なのだが、業務形態がよく分からない。すると、またしても辰兄の心の声が聞こえ、

「要するに。風呂桶のないトルコっていうこと」

と、ストレート過ぎる解説を入れてくる。そこに雪絵を強制連行した荒木は、さっきまでジェントルだった態度をひるがえし、雪絵を平手打ちし、そのシンボルをまたしても雪絵の秘壷(そんなたいそうな表現のものではなく、賀川雪絵ぐらいのやさぐれ女優だったらマンコとなんのてらいもなく言ってしまえばいいのだろが)に挿入。

このお座敷キャバレーの社長が辰兄の母親で、辰兄はゆたかと共謀してこの風俗に女を送り込み、そのバックマージンを得るというせこいしのぎをしていたのだが、その辰兄の前にマンションオーナーの娘というパピーみたいに可愛い渡辺やよいが現れ、逆玉を狙う辰兄は、

「マドモアゼール」

とか言って、ぐんぐんやよいに入れあげてゆく。それに反比例して、ゆたかには冷たくなりだす。お座敷キャバレー社長の母と、マネージャーの荒木一郎は肉体関係にあったが、一郎も次第に雪絵とねんごろの仲になり、店の売上金を持ち逃げしようという計画を巡らせ始める。

また、ワンシーンながら辰兄の親父として登場するエロ坊主役の殿山のおやっさんもナイス!

そんな雪絵であったがおぼこい新人の振りをして、ある客であるエロオッサンの前に出たら、

「あっ!おまえ!泡踊りに宇宙遊泳が得意な○●やないか!」

と、トルコ界では相当鳴らしてきたずべ公であったことが発覚。

そのエロオッサンは金に物言わして、辰兄からゆたかを金で買い上げた。そんで辰兄も金欲しいから、それをドライに了承。

お座敷キャバレーの一室にはすでに布団がセッティングしてあり、そこでオッサンはそのシンボルを無理矢理ゆたかに挿入させようとしたが抵抗され、ゆたかは窓から川へダイブ。

早朝。人気のない街。ずぶ濡れになったゆたかは一台のタクシーを拾う。

「恵比寿まで・・・」

その運ちゃんが小林稔侍。しかし車はどんどん山道に入ってゆく。

「なに?道が違うじゃない!」

すでに稔侍は発情していた。そのシンボルはキンキンに起っていた。車から降り逃げ出すゆたか。それを追う盛りのついた稔侍。新人の美人女優を演技とはいえいただける。

現在、老境に入り、すでにそのシンボルは使用不可能かどうかは分らないが、かつてのいきり立ちはなくなっているだろう。だが、おそらく当時30かそこらだったはずの稔侍のシンボルはこの時ぞとばかりにピンコ起ちしただろう。

そしてゆたかは捕まり、その秘局に稔侍のシンボルは挿入された。

ぴんからが「女のみち」を熱唱するキャバレーに、ゆたかはもの凄いケバい化粧をして現れた。その姿を見て、ぴんからたちは、

「なんや。雰囲気ぜんぜんちゃうで。なんぞあったんかいな?」

と怪訝がるが、一方、辰兄は逆玉作戦続行中で、ゆたかにやよいといちゃつく姿を見せつけるのだった。そして、やよいは言う、

「私、この人と結婚するわ♡」

店がはねたあと、ブランデーを飲みながら、グランドピアノにしなだれかかり、「女のみち」をポロンポロンと弾くゆたかの姿がそこにはあった。

店の専属であるぴんからは、仕事終わったから出ていこうとしたが、ゆたかのただならぬ様子に足を止めた。そして、宮史郎は言った。

「わいを男にしてえな」

宮五郎、並木ひろしのふたりははけた。

「ゆたかちゃん(役名忘れた)。なにをそんなにしょげとるの?ゆたかちゃんがそないに悲しい顔していると、わいまで悲しくなるやんか」

そう言って、ゆたかに口移しで水を飲ませようとする。すると、すかさずビンタが宮史郎のほほを見舞った。

しかし、俺は辰兄のドライに女をたらしこんで金ずるにしようとする姿勢よりも、むしろこの不器用で純な宮史郎の姿勢、いや男としての在り方に共感する。

「そうや。そうやな。わしみたいな男しゃあないもんな」

そう自分を卑下する宮史郎に、

「ごめんなさい・・・」

と、ゆたかが謝ったのにはまだ救いがあったが。

そこに辰兄が、ゆたかを迎えにきたと言って現れる。

夜の道を助手席にゆたかを乗せ、車を走らせる辰兄。

「私、絶対あなたと別れないから・・・」

そう、ゆたかはつぶやく。そこにあの辰兄の心の声が、

【ああ。この女、死なねえかなあ】

これには爆笑した。本当、ここまで鉄面皮なスケコマシやらせたら梅宮辰夫の右に出る者はいないだろう。ジゴロとか好き者とかじゃなく、どこまでもビジネスライクに女をたらしこむ、どうしようもない男。ある意味で言うと人間のくず。それを辰兄は、

「なにが悪いの?」

とばかりに演じてゆく。それこそが役者、梅宮辰夫の醍醐味。

と、思っていたら、ゆたかがハンドルを握り出し、

「一諸に死んで!」

とわめきながら、アクセルを踏み込んでゆく!

「や、やめろよ!落ち着けよ!」

と、ハンドルを奪い返そうとする辰兄!夜の道で車は左へ右へ、大きく蛇行を繰り返す!

はたして、ふたりの運命は!?

とにかく、ゆたかの頑張りを見て!

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