なんでこの映画、海外で公開されたの?
映画を観る時の姿勢として賭けというものがある。ギャンブル性というものがある。
ふたを開けてみなければ、吉と出るか凶と出るか分らないものがある。
特にプログラムピクチャーの場合、二週間に二本立てで興行が組まれていた訳で、玉石混淆合い混じるものがある。そのなかでお宝を拾うこともあれば、石ころを拾うこともある。
あらかじめ監督は鷹森立一だと言うことは知っていた。「キイハンター」のメイン監督だったから千葉ちゃんとは気心が知れているはずである。たが、その鷹森立一の本編映画でお宝を拾ったことは一度もない。
さらに共演が渥美マリだという。あの大映が倒産寸前になって、急速にモンド作品を連発するなかで、『いそぎんちゃく』とか『しびれくらげ』、『でんきくらげ』などの軟体生物シリーズで人気を博した女優である。
千葉真一×渥美マリ×鷹森立一=? はたしてこの方程式から、どのような答えが導き出されるのか、それを目撃したくてシネマヴェーラ渋谷で開催されている「チバちゃん祭り!」目指して電車に乗った。
冒頭、どう見ても日比谷公園でしょ、って言う場所に「1973年ニューヨーク」というテロップが入り、ニューヨークマフィアのボスは、腕に北斗七星の入墨が入ったイエローマフィアに暗殺される。
その頃、日本を目指す機上では、室田日出夫が、
「われわれはブラックエンペルだ!この飛行機をジャックした!おとなしくしろ!」
と声を張り上げたが、速攻で千葉ちゃんにぶちのめされた。室田さんの出番はここだけで、惜しくも思えたが、このあと熱過ぎる男たちがパレードのごとく登場してくるので、それも取り越し苦労であった。
乗客を救ったということで、千葉ちゃんは空港にて記者会見に臨んだ。
「あなたのとった行為は人道主義、ヒューマニズムにのっとったものですか?」
「いや。違うな。コマーシャリズムのためだよ」
「コマーシャリズムというと?」
「君、コーラを持ってきてくれないか」
そういうと千葉ちゃんの前に、コーラの瓶が運ばれる。それを前にし、関根勤がものまねでやる千葉ちゃんみたいに、
「ハァ~ッ!」
と言って気合いを入れたかと思ったら、手刀でコーラ瓶をまっぷたつにした千葉ちゃん。
「これは牛殺しで有名な鉄心会の技じゃないですか!?」
「そう。君たちはわれわれのことを、牛殺しとレッテルを貼る。しかし、われわれの凄さはそんなもんじゃないんだ!」
鉄心会というのは言うまでもなく、極心空手のことであり、千葉ちゃんがとうとうと演説をぶつ間に、ゴッドハンド・マス大山が鍛錬に励む姿がインサートされるのも嬉しい。実際千葉ちゃんは極心の黒帯を持っている。
「で、あなたの目的はなんなのですか?」
「このテレビを見ているみなさん。わたしをボデーガードとして雇いませんか?鉄心会の強さを証明します。あなたの命を守ります。コマーシャルは長いと嫌われるので、このへんで」
そういって千葉ちゃんは消えた。
ちなみにこの作品で、千葉ちゃんも含めて登場人物がみな、ボディガードではなく、ボデーガードと発音しているところがみそ。
夜の教会の全景。その屋根裏部屋が千葉ちゃんのねぐらで、そこにはパピーみたいに可愛い妹の渡辺やよいがいる。
「わたし。いやよ。そんなボデーガードなんて。商業主義そのものじゃない」
「これからの鉄心会は広く世の中にアピールしなくちゃだめなんだ。ここを俺のオフィスにする。おまえは今から秘書だ」
そんな会話をしていたら、階段を上ってくる足音が聞こえてくる。千葉ちゃんが扉をあけると、そこにはマネキンのような渥美マリが立っていた。
どこで千葉ちゃんのねぐらを嗅ぎ付けたのか分らないが、
「わたしのボデーガードになって下さらない。4日間でいいの」
と切り出してきた。
「500万で引き受けるぜ。その代わり命の保証はする」
「そちらにいるお嬢さんは?」
「俺の妹だ」
「お嬢さんも腕が立つのかしら」
と言われると、渡辺やよいはミニスカートから蹴りを千葉ちゃんに繰り出す。このへんはさすがに「プレイガール」の一員であっただけはある。
「クックク。腕を上げたな」
「分ったわ。契約しましょう。小切手でいいかしら。車のダッシュボードのなかにあるの」
そうマネキンみたいな渥美マリが言うと、千葉ちゃんは渡辺やよいに取ってくるように命じた。
渡辺やよいが車に近づくと、安岡力也を含むイエローマフィアの連中が襲いかかってくる。それに応戦する渡辺やよいだが・・・
「遅いな」
そういって千葉ちゃんが窓の外を覗くと、渡辺やよいの裸体の上に十字架の影が重なっている。このへんの鷹森立一の演出は冴えているんじゃないか?
急いで外に出て、渡辺やよいを抱きかかえる千葉ちゃん。その一命は取り留められていた。が、このシーンにおける渡辺やよいのパイオツもろみせには潔さをも感じる。
そのあと話は渥美マリが高級ホテルのスイートルームを借り、そこで千葉ちゃんとイエローマフィアの攻防が展開され、千葉ちゃんはマフィアの片腕を弾きちぎったりする活躍を見せるのだが、なにか物足りなさを感じる。
こういうボディガードものというのは、今でも作られている一つのパターンだと思うのだが、そのなかでは主役であるボディガードはもちろんのことなのだが、守られるヒロインというのも魅力的でないと映えないと思う。
だがこの作品では、そのヒロインである渥美マリがぜんぜん魅力的でない。渥美マリが演技まったくだめな大根女優であることは、大映作品で立証済みなのだが、そのなかにも彼女にしか放てないフェロモンの魅力のようなものがあった。
しかしこの作品では、旬が過ぎていたのか、って渥美マリの旬がいつだったかなんて分らないのだが、二重あごのデブになっているし、この人を守ってあげなきゃ、という感じが涌かないんである。
話は東京の組織、内田良平が出てきて、さらにアクの強いものになっていき、渥美マリは昔パンパン同然の女で、その後内田良平の女になり、そのまま玉の輿に乗り、ニューヨークマフィアの愛人になったというものだから、渥美マリに場末感は必要なのだろうが、現在の地位にいるエレガントさというものがまったくなく、ドブ板通りのスナックに入ってみたら、チーママとしてなんの不自然もなく働いているかのごとく場末感100%なので、可憐さや清楚感がなく、繰り返しになるが、この人を守ってあげなきゃ、という感じが涌かないんである。
それならそれで、千葉ちゃん、もしくは内田良平とベッドの上で、キツい一発に及ぶかのかというとそれもなく、そのためのキャスティングでしょ、というところを見事に裏切らる結果になった、とこれほど渥美マリに関して熱く論理を展開している俺も俺でなんなんだとは思う。
スローモーションやストップモーションを多用する鷹森立一の演出も冴えているなか、渥美マリのせいで駄作に終わるかと思った作品だが、ここから意外な挽回を見せ始める。
B52が轟音を立てて着陸する米軍基地がある街。その街にベースの音はひたすら呪術的なリフを繰り返し、ファズギターの音が耳をつんざき、ドラムの原始的なリズムが聞く者の理性を奪うというニューロックが流れる店のなか、黒人とのハーフのような女がエロくTバックを履いてダンスを披露し、その店に集った米兵たちの馬のようなあそこを刺激する。ほんと、この女のほうが渥美マリより10倍はエロい。
このシーンで流れているニューロックを聴き、マジでこの作品のサントラ欲しいと思った。
で、この店を経営しているのが、さらにアクの強い山本轔一、郷瑛治、坊やみたいな三兄弟。兄弟は暴力でパンパンを支配し、米兵にあてがい暴利をむさぼり、米兵が持ち出してくる拳銃を密売し、さらにハイエナのようにおいしい話を嗅ぎ分け食らいついてくる。
とにかくマタギみたいな格好して、潰した猪の頭をしゃぶっている山本轔一。怪獣みたいな顔をしている郷治が最高。
渥美マリと千葉ちゃんは、その街へやってくる。渥美マリは内通していた白人兵に3000ドル渡し、車ごと夜の基地へ入ってゆく。行き着いたのは死体安置所で、そこには東映の黒人俳優と言ったらこの人、ウィリー・ドーシーが待っていた。
渥美マリがバックで車をつけると、ウィーリーはそのトランクに棺桶を入れた。
「ベトナム戦争も停戦だ。これで最後の仕事になるぜ。ボーナスはあんたの体で払ってもらいたいな」
そういって性欲のかたまりであるウィーリーは、渥美マリに襲いかかったが、即座に千葉ちゃんにぶちのめされた。
基地から出てゆく二人。しかし、しばらく行ったところで車を停める千葉ちゃん。
「棺桶のふたがはずれているぜ。直さなくていいのかい」
「・・・」
千葉ちゃんが棺桶のなかの死体を確認すると、その服の懐からヤクが出てくる。
「こういう仕掛けだったのか・・・」
そのヤクを追って、イエローマフィアは渥美マリを追っていたのだ。さらにおいしい匂いを嗅ぎ付けて、そこへ例の三兄弟。そして東京の組織である内田良平と混戦模様を呈していく。
ウィーリーはヤクの密売をして金を手に入れた、そしてベトナム戦争が停戦して国に帰れるという嬉しさから兄弟の店で、羽目を外して喜んでいた。その時のウィーリーの姿が黒熊のようでもありかわいい。
しかし白人兵のほうは、そんなに騒ぐなとウィーリーのことをたしなめる、がウィーリーはほろ酔い加減で店の外に出て、車に乗り込んだら後部座席に隠れていたイエローマフィアに絞殺された。
一方、白人兵は兄弟に捕まり、リンチを加えられ、ボコボコにされたが最後までヤクのことはゲロしないで、気づいたら死んでいた。
一連の米軍基地の街のシーンを見ていて、日活ニューアクションの「野良猫ロック」シリーズを思い出した。やはり米軍基地の街という設定。そのなかで暴れ回る郷瑛治。
なにかこの作品が不思議な感じがするのは、千葉真一・東映、渥美マリ・大映、郷瑛治・日活という五社協定とか崩れ始め、数年前だったら顔を揃えることがなかったであろう顔ぶれが揃っているところにあろうか。
だが、この作品が「野良猫ロック」のような洒落たアクションであろうはずもなく、空中飛び蹴りを悪人めがけ喰らわす千葉ちゃん。マタギみたいな格好してショットガンぶっ放す山本轔一に三角マークがきつく刻印されている。
さらに渥美マリが車に乗ると、床に布で覆われた物体が?なにかと思って布を取ると、そこにはウィーリーの生首が!!東映イズム全開である。
その後、イエローマフィアは全滅。兄弟は内田良平を巻き込み渥美マリが握っているヤクをものにしようとするが、内田良平にも腹づもりはある。そして千葉ちゃんは渥美マリを守るのか、それとも法を守るのか。
逗子マリーナの取引から、荒崎海岸への決闘へ。決戦を迎える我等が千葉ちゃんと、怪獣みたいな顔した郷瑛治。
原作は梶原一騎の漫画である。だがその漫画を生身に置き換えてしまう身体能力の高さと、存在感が千葉ちゃんにはある。
ちなみにこのふたりと佐藤允の三人が、空手映画の形を借りて破壊度100%のギャグを連発する『直撃地獄拳 大逆転』も見ておきたいところ。監督は異能の人、石井輝男!!
最後空港にて会見し、鉄心会をさらに海外で発展させるために千葉ちゃんは機上の人になったが、結局最後までパイオツさえさらさなかった渥美マリには納得できなかった。
そのためのキャスティングでしょ!!