数あるGSバンドのなかでも、スパイダースは主演映画を多く残したほうだが、これが主演第一作とは知らなかった。
冒頭は大磯ロングビーチにて、ヤング&フレッシュをバックに歌う松原智恵子のシーンにて始まる。松原智恵子の水着姿は貴重かも。
ヤング&フレッシュはエレキブーム、GSブームに乗っかって日活の俳優、山内賢、和田浩二、浜田光夫などで結成されたバンドで、「青春ア・ゴーゴー」などのシングルも出していた。
「青春ア・ゴーゴー」は同名映画の主題歌でもあり、この作品ではヤング&フレッシュがジュディ・オングをボーカルに迎えて、テレビの勝ち抜きバンド合戦に出場する。だが結局ジュディ・オングだけがスカウトされて…。という青春歌謡映画の傑作!とくにガレージのような場所で、彼らが演奏する「セイ・ママ」は素晴らしい。
この映画にスパイダースはゲストのような形で出演しているし、同じ路線の『涙君さよなら』、また彼らの最大のヒット曲をタイトルに冠した『夕陽が泣いている』という作品においてもゲスト出演どまりであった。
で、『ゴーゴー向こう見ず大作戦』に至った訳だが、ここでもあくまでストーリーの主軸は山内賢と松原智恵子の恋愛であり、冒頭の大磯ロングビーチのシーンにおいて、態度が煮え切らない山内に対し、松原智恵子が「私、まっすぐ進んできてくれる人が好きだわ」と言った一言を偶然テレビ中継にて見ていたスパイダースが、とにかく刑務所だろうが、銀行強盗が立てこもっている現場だろうが、脇目も振らず松原智恵子のもとへ直進するというもので、これでは映画にならんと思ったのか、スパイダースに演技を要求するのは無理と判断したのか、とにかくストーリーの基軸のほうは山内賢と松原智恵子の恋愛という手堅い線で修めてある。
代わりにスパイダースのシーンのほうでは、とにかく直進するシーンのオンパレードな訳で、そこをナンセンスギャグとか、ちょっとシュールな展開を巡らせることでうまく見せている。
銀行強盗が立てこもり警察がそのまわりを包囲するという物々しい雰囲気の中、それでも直進するスパイダース。イーデス・ハンソンと林家こん平の間男、そしてハンソンの亭主が修羅場を繰り広げる中をものともせず直進するスパイダース。
線路に牛がいて通れないので、どけようとすると汽車がやってきて、牛と激突、牛は宙に舞い上がるが、落ちてくる時にはステーキになっていて、それを食するスパイダース。ついでにムッシュはシーン切り替わる直前に「お代わり!」と言ってのける。
突然、西部劇のセットにやってくるスパイダース。そこには郷えい治がガンマンの格好をしていて、マチャアキと対決に。マチャアキに撃ち殺される郷えい治。死に際に「こんなの台本にはなかったぜ・・・」と言い残し絶命。
あとこの時期、各社で悪役などで活躍していた内田朝雄が大学の教授として出演。とにかく直進を続けるスパイダースを若者の新しい現象として解釈する。
このネタを新聞社に持って行くが新聞社では、「あんなものただの気狂いですよ」と気狂い発言を連発。
山内賢と松原智恵子は内田朝雄の家を隔てて住んでいるのだが、その内田朝雄の家が大きな壁になっていて、なかなか行き来ができない。
金語桜、山内賢親子はついにトンネルの掘削を開始。
ついでに書いておくと俺的には内田朝雄のベスト演技は、東映映画『実録銀座私設警察』にて、豚小屋に放り込まれた死体。
直進を続けているうちに東京サマーランドにやってきたスパイダース。そこではヴィレッジシンガーズが演奏していて、スパイダースもそれに触発され「俺たちもいっちょやるか!」と演奏開始。各曲に対してセットが切り替わり、見ていて楽しい。特に「恋のドクター」の場面がいい。
なお動画のリッケンバッカーを持っているシーンは「サマーガール」を歌っているところ。この曲はスパイダースにおけるビーチボーイズ的サウンドと勝手に解釈している。
結局のところなにもないといえばなにもない映画であるが、GSファン、スパイダース・ファンには嬉しい映画である。
また『明治百年すぱいだーす七年』を聞きたくなってきた。