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執筆者の写真makcolli

河内のオッサンの唄


76年。ミス花子というおかしな名前の歌手の、「河内のオッサンの唄」という曲がヒットしていた。

時あたかも、東映の大部屋俳優達の中でも、一癖も二癖もあり、個性の塊としか言えない男たち、ピラニア軍団ブームが到来しつつあった。ふたつの時代の波を東映が見逃すはずはなかった。

という訳で某日今は無き、銀座シネパトスで特集上映中の「川谷拓三映画祭」に行ってきた。

ヒット曲にあてこんで映画が作られるというのはよくあることだが、『河内のオッサンの唄』は以外に面白かった。

ピラニア軍団の象徴的存在であった川谷拓三を主演に据えた作品だが、拓ボンが河内ではちいと名のしれた徳松という、賭け事大好き、酒も大好き、血の気の多い河内男を好演している。

やはり拓ボンはテンション上がっている芝居が最高であり、随所に見せ場、笑いどころが用意されている。

闘鶏のライバルには室田日出夫。最初は反発していたが、ひょんなことから拓ボンと結婚し、支える妻を夏純子がやっていて、この演技がいい。アホでドジであるが憎めない拓ボンをけなげに支えるという役どころ。

東京もんを嫌悪しているババアをミヤコ蝶々が演じており、これがまたいい。キャンディーキャンディーみたいな可愛い図柄の水筒を首からぶらさげて、そのなかに酒を入れておいて、絶えず飲んでいる。そして三輪車をマイカーにしている。

やはりミヤコ蝶々は大女優だ。

そんなミヤコ蝶々と拓ボンがやりとりするのだが、拓ボンといえば体を張った演技、テンションいっちゃっている演技で頭角を現してきた訳だが、この蝶々とのやりとりのなかで見せる視線の配り方とかが非常にうまいのだ。

俳優・川谷拓三のなかにはいろいろな引き出しがあったことが分る。川谷拓三著『3000回殺された男』のなかにも本人は人間観察が好きで、わざわざ街に出てやくざにケンカを売り、ぼこぼこにされるという実体験までしたということが書いてあるから、この人の役者バカは本物であるとしか言いようがない。

他にも蝶々の娘で、東京でモデルをやっているという奈美悦子や、ピラニア軍団では志賀勝、野口貴史、片桐竜次、成瀬正、岩尾正隆など70年代東映がストライクゾーンど真ん中という自分としては、「あっ!やつが出てきた」と嬉しい限り。

そんな口ぶりや、やることは荒くれの河内男たちのなかにある日、東京からダンプに乗って岩城滉一がやってくる。岩城はどさくさにまぎれて、拓ボンの家の台所に持っていたヤクを隠し、さらに拓ボンとドライブしている時、窓からヤクを破いて捨てる。

実は東京でモデルをやっているという奈美悦子はやくざの女で、ちんぴらだった岩城は奈美悦子と逃避行したが途中ではぐれ、河内に辿り着いたのだった。

河内にやってきた岩城は当初東京もんということで、なかなか仲間に入れてもらえなかったが、風呂屋の娘で河内のスケバンである女と、デスコへ行ったりなんかしているうちに肉体関係を結び、やんごとなきなかに。

しかし岩城のゆくえを探していた東京の組織はやつを発見。黒塗りの車で河内に現れ、岩城とスケバンを拉致しようとする。

そこへたちはだかった蝶々であったが、そのまま車に轢かれ、拓ボンの家に担ぎ込まれたが、

「我が子はモデルということにしとってくれ。やくざの女ということをみんなには言うてくれるなよ」

という言葉を遺し死亡。荼毘に付される蝶々。その燃え上がる炎を見て、拓ボンは単身上京することを決意するのだった。

新幹線の中で何の脈絡もなく平尾正晃が現れて、

「おっ。あんた平尾正晃さんでっしゃろー。テレビでよく見ておま」

とか拓ボンが言いつつ、その弁当をしっかりパクっているというのも嬉しい。

さらに東京へやってくると、拓ボンと同じ衣装をきているガッツ石松がプラカードを持って現れて、そこには「河内のオッサンの唄。絶賛上映中」と書いてある。

こういうサービス精神こそ映画の醍醐味ではないか。

拓ボンは、蝶々を殺った組織の事務所で、シャブ中になっている奈美悦子を目撃する。そして岩城とスケバンを奪還しようと奮戦するが、ぼこぼこにのされてしまう。

表に放り出されたところに上から水が落ちてきたのだが、拓ボンはとなりでションベンをしていた成瀬正が自分に黄金水をぶっかけたと勘違いしケンカに。拓ボンの顔に黄金水をなすりつける成瀬正がグッジョブ。

さらにケンカはエスカレートし、屋台のたいやき屋まで巻き込むことに。そこにあったメリケン粉を見た拓ボンは、それを事務所に持って行き、

「ここにヤクあるでー!」

と雄叫びを上げるが、すぐに偽物だということがばれてさらにボコボコに。

床に鍵が落ちているのを見てとっさに、

「これは東京駅のロッカーの鍵やー!そこにほんもんのヤクはあるのやー!」

と言って、そのまま鍵を飲み込んでしまう。

「くくく。これで明日まで鍵はわいの腹のなかや」

と言ったのも束の間。やくざはなんとか拓ボンに糞をさせようと、ブリーフ一枚にした上、イスに縛り付けその口にラーメンやカレーを詰め込み、さらにビール瓶をそのまま流し込むという荒技に打って出た。

窒息しそうなぐらいしこたま飯を喰わされ、ビールを流し込まされる拓ボンの姿はやはり画になる。とにかく有無を言わさず体を張った演技になると、この人は本当に魅力を発揮するから不思議だ。

その後なんとか拓ボン、岩城、スケバン、奈美悦子は脱出したが、シャブ中の奈美は病院送りに。

朝の空が白々と色を見せる時間、拓ボンは往年の東映任侠映画よろしく、ひとり事務所に殴り込みを掛けに行こうとしている。

そこへ岩城が現れ、

「水臭いぜ兄貴。だいちやつらはヤクの取引のために港へ行ったぜ」

と言う。そこへ河内から室田日出夫も駆けつけ、拓ボンは、

「あ~。三人になったか。よかった」

と本音を漏らす。

岩城のダンプに乗り込み、港の倉庫に突入する三人。やくざとの肉弾戦の末、幹部を追いつめ、ヤクと金を空にばらまいてしまう。

そこへ警察が駆けつけ、拓ボンと室田も御用に。パトカーのなかで、

「重要参考人て、そんなに偉いんけ?」

「あたりまえやがな」

という二人でラスト。あー。やっぱこてこての東映娯楽映画はいいわ。

併映は『喜劇 特出しヒモ天国』。松竹の監督・森崎東の才能と東映イズムが融合した快作。

京都を舞台に、車のセールスマンだった山城新伍がストリップ劇場の支配人に。そこで繰り広げられる踊り子とヒモのひきこもごもを描いている。

性転換ストリッパーのカルーセル麻起と、そのヒモの川地民夫。劇場の隣は寺で、そこから殿山泰司の読経の声が絶えず響いてくる。森崎東の生と死は隣り合わせというメッセージか?

振り付け師を50年間やっている藤原釜足はペーソスを感じさせ、聾唖者の夫婦がストリッパーを目指すというヒューマンドラマも挿入してある。

山城新伍は東映の脱ぎ脱ぎ女優・池玲子のヒモになるが、この作品では池よりもアル中の踊り子を演じている芹明香のほうに目がいってしまう。

とにかくしょうもないアル中女で、ステージでションベンを漏らしてしまうが、度胸があるというか、すでに人生捨て鉢でこれ以上なくすものなどないという開き直りが、彼女を特出し行為に及ばせる。

拓ボンはもともと警官で、ストリップ劇場に潜入捜査していたのだが、芹明香にステージに上げられ、スボンを降ろされ場内は混乱し、なんや分らなくなっていたら逆に警察に捕まり、そのまま首。結局はアル中女のヒモになるという情けない役を演じている。それもグッジョブ。

永遠の役者バカ。川谷拓三よ。永遠なれ。

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