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執筆者の写真makcolli

賞金稼ぎ


某日、池袋新文芸座にて特集中の、「勝新太郎VS若山富三郎」のなかの若山富三郎(以下トミー)主演作『賞金稼ぎ』(69年。小沢茂弘監督)を観に行った。

勝・若山兄弟に関しては東映命の俺としてはどうしても、トミーのほうに肩入れしてしまう。『不知火検校』から「座頭市」シリーズ、「兵隊やくざ」、「悪名」と主演作を連発していた勝新に比べ、トミーはなかなか役にありつけず、新東宝や大映など各社を転々としていた不遇の時代が長かった。

が故に、役の幅はすごく広いのである。悪役からコメディアンも顔負けの三枚目、シリアスな役まで貪欲に演じていったという点に関しては、トミーの方が一枚上手であると俺はみている。

さらにプライベートに関しても勝新は天才であり、変人であったということはよくいわれるが、実はトミーのほうが遥かに変人であったらしい。このへんのことは山城新伍著『おこりんぼさびしんぼ』に詳しく記されている。

まあ、勝新にしてもトミーにしても社会性という部分に関しては、著しく欠落している部分があったが、こと演技に関しては誰が見てもうならされるものがあった。今はそういった本当の意味での役者バカがいないのが寂しい。

で、『賞金稼ぎ』なのであるが、江戸時代後期を舞台にした時代劇である。突如神奈川沖に出現したオランダ船は、最新式のゲーベル銃100丁を幕府に渡すことを条件に、無条件講話条約を結ぶことを要求するが、時の将軍(鶴田浩二)はこれを拒否。するとオランダ船は南下し、鹿児島は薩摩藩にゲーベル銃を買わないかと申し入れる。

この動きに危機感を抱いた鶴田将軍は、町医者のトミーを城に密かに呼び出し、薩摩に潜入して、この動きを阻止することを命じる。トミーは町医者であるから髷も結ってなくて、髪型はオールバック。しかも将軍のことを「上様」とか「公方様」などとは呼ばずに、「大将」と呼んでいることから見ると、鶴田将軍とはマブダチらしい。

竹筒を利用した仕込みの杖(ある時には望遠鏡にもなる)、腹に革製のあらゆる武器を装着できるベルトを巻き、草履にも手裏剣を仕込んだ人間凶器であるトミーは一路薩摩を目指すのであった。

こういう時代考証的には無理がある設定というのも面白い。時代劇を作る場合、史実に基づいていればそれで面白いものができるかというとそうでもなく、少々ぶっ飛んでいるほうが見ていてわくわくするものである。

その頃、薩摩藩江戸家老である片岡千恵蔵もことを察知し、なんとか薩摩藩がゲーベル銃を購入しないようにと鹿児島を目指していた。薩摩がゲーベル銃を買うと言うことは幕府に対する謀反の意思を示すということで、ひいては日本が内乱になってしまうということを阻止したいがためであった。

薩摩を目指す片岡千恵蔵の駕篭に襲いかかる一団が出現したが、人間凶器であるトミーはバタバタとそれを殺し、片岡千恵蔵家老を助ける。片岡千恵蔵の命を狙ったのは、薩摩藩の倒幕急進派・薩摩山岳党であった。

山岳党の死体が累々と並ぶなか、人間凶器トミーのお手並みに度肝を抜かれてた間抜け武士がいた。この間抜け武士は以後トミーのあとをしつこくついてくる。

大井川までやってきたトミーであったが、雨で川止めになり渡ることができない。暇を持て余していると、川人足と女(野川由美子)が賭け事を始めたがもめ出し、「このアマ!なめやがって、痛い目見せてやる!」と乱闘に。

しかし野川由美子は、ばたばたと男どもをのしてしまった。それを見ていたトミー。野川由美子を連れ出し突如襲いかかった。

空手であろうか。柔道であろうか。ふたりが闘う模様はストップモーションで展開され、結局トミーが勝利を収め、野川由美子が幕府の老中が放った密偵(お庭番)であることを暴く。

桜島の遠望が映し出され、トミー、野川由美子、間抜け武士の三人は薩摩にやってきた。望遠鏡で関所をのぞいてみると、首をくくられた死体や通行手形がないばかりに惨殺される者が見えた。

「どうやって抜けるの?」

と野川由美子。

「おれに任せておけ」

トミー。

どうするのかと思いきや、トミーは堂々と関所の門に立ち、役人が「通行手形はどうした!」と問うと、「そんなものはねえ。それに俺は幕府の密偵だ」と堂々と宣言。

「であえ!であえ!くせ者じゃー!」と関所がパニックになっている隙に、仕込みの刀、そして隠し持っていた拳銃を乱射しどしどし敵を倒し、さらに野川由美子の活躍もあり、関所はまたたくまに殲滅させられていったのだった。

ここで野川由美子という女優について書きたい。60年代。野川由美子という人は珍しく、恐らくフリーであったのだろう、各社を問わず出演していた。とりたてて美貌の持ち主という訳でもない。また演技が傑出しているという訳でもない。

しかしこの人は役を選ばない。仕事を選ばない人である。楚々としたお姫様から、一癖も二癖もあるあばずれまでやってのける。そういった身のこなしの軽さが、当時の邦画界で重宝がられたのではないか?

またそれがゆえに大女優と呼ばれもせず、現在テレビ通販の番組にて大きなリアクションをあげている彼女を見ると、それも仕事を選ばないという一種のプロ根性を感じるのだが。

そのあとトミーと野川由美子は別行動を取ることにする。その別れ際、トミーは野川由美子に被せる歯を渡す。

「いざという時はこれを思いっきり噛め。そうすれば半日は死んだ状態になる」

野川由美子と別れたトミーは、薩摩山岳党の根城に潜入するために山岳党の娘にめくらのふりをして接近する。

ここらへんのシーンは、「座頭市」のパロディのようで面白かった。

山岳党のリーダー天津敏は罪人を集めてきては逃し、それをゲーベル銃で撃ち殺すという冷徹な男だった。娘と接近したトミーは山岳党の根城に潜入し、探索やついでに娘の体もいただいちゃたりしていたが、天津敏に正体を見破られ、首にムチを絡ませられ馬で引っ張り回されるという刑に。ムチを切ったトミーであるが、崖に追いつめられ転落した。

その頃、野川由美子は薩摩に根を降ろし、漢方医として身をやつしていた幕府の密偵と連絡をとる。しかし薩摩を探索していると、先に入った幕府の密偵はことごとく殺されていることに気づく。

実は漢方医に化けていた密偵こそは薩摩に寝返った裏切り者だったのだ。ほどなくして野川由美子も山岳党に捉えられ、下半身を火あぶりにされてしまったのだった。それを見て笑う天津敏。野川由美子の口からは血がしたたり落ち、「むっ!舌を噛み切ったか?」という天津敏。

裏切り者の密偵は、「どうかこの女の死体の処理は私に任せてください!ねんごろに弔ってやりたいのです!」というと、天津敏は、「情け心が出たという訳か。裏切り者の末路はこうなるのじゃ!」と密偵を槍でひと突きし、殺してしまうのであった。

崖から落ちたトミーであったが、死んではいなかった。あの間抜け武士が助けていたのだった。

「おまえ、ただの間抜け者ではないな?」

「ははは。ばれ申したか。拙者薩摩藩江戸家老の家来で申す。小田原からずっとあなたの様子を見張っているようにと殿に言われていたのです」

回復した人間凶器トミーは、まずは死んだと思われていた野川由美子を救い出した。野川由美子はトミーからもらった被せ歯で仮死状態になっていたのだった。しかし体の火傷はひどくトミーに手当をしてもらうのだった。

その頃、薩摩藩ではオランダからゲーベル銃を購入し、倒幕すべしという天津敏派と穏健派の片岡千恵蔵の意見に藩論が別れていたが、薩摩の殿は関ヶ原の戦い以降辛酸をなめていた薩摩にとって、今こそ立ち上がる時はないと腹をくくってしまい、殿がそれまで言うならと片岡千恵蔵は自身が交渉に赴くことを決意する。

トミーから絶対安静を言われていた野川由美子だが、琉球の踊り子に扮してオランダ人船長カピタンの前に登場。カピタンは野川由美子を気に入り、オランダに連れてゆくと言い出し、彼女はオランダ船に乗ることに成功。

一方トミーは穏健派の片岡千恵蔵が、オランダとの交渉に望むことを知り愕然とする。そして天津敏に捉えられ、網のなかに入れられて処刑場に連行される。しかし人間凶器であるトミーは手首の関節を外し、忍ばせていた刃物で網を破り、天津敏の手下どもをびしばし殺し、ついに天津敏を絞殺。

その足で片岡千恵蔵が乗っている駕篭を襲撃。

「あんたに交渉にいかれちゃ困るんだぁ~!」

トミーと片岡千恵蔵のタイマン勝負に。しかし片岡千恵蔵は剣術の達人で、切っ先を合わせている間もトミーの、

「このままでは負ける。どうしたらいいんだ?」

という心の声が聞こえてくるのだった。だがほどなくすると片岡千恵蔵の腹部が赤く染まり出し、血がしたたり落ちてくるのだった。

実は千恵蔵はすでに死を覚悟していたのだった。トミーに運んできた笈のなかを見てくれと言う。それを開けてみると大量の爆薬が入っていた。千恵蔵はオランダ船に乗り込み、その爆薬でゲーベル銃ごと木っ端みじんにするつもりでいたのだ。

だが今やそのミッションを果たせるのはトミー一人となっていた。爆薬が入った笈を背負い小舟に乗って仁王立ちしながら現れたトミー。怪訝がるオランダ人にトミーは、

「俺は交渉人なんかじゃねえ!この船ごとみんなぶっ飛ばしてやる!」

と爆薬の導火線に火をつけたのだった。

「せめてゲーベル銃だけは!」

と言う野川由美子に、

「バカ言ってんじゃねえ!」

と二人して海に飛び込むトミー。

夕暮れ。岸に辿り着き寝転がりながら、

「大将。平和を守るのも楽じゃねえな」

と言うトミー。あとから辿り着いた野川由美子。無言で転がっているトミーを見て、

「死んじゃったの?」

と言う。トミーは眼を開けて、野川由美子を抱きしめ、ふたりは結ばれるのだった、というところでエンドマーク。

時代劇なんだけれど、スパイ映画を見ているような秀作であった。併映の『五人の賞金稼ぎ』(工藤栄一監督)は、この作品の続編のような感じで、タイトルから分るように少し集団劇になっている。

今回仕事を依頼してくるのは将軍ではなく、キチガイ領主・小池朝雄の圧政に耐えかね一揆を起こした嵐寛寿郎以下の百姓たち。彼らは砦を築き幕府の巡察使がやってくるまで、抵抗を続けようと決意。その助っ人にトミーをはじめとする五人の賞金稼ぎを雇う。

圧巻なのはどこでどう手に入れたのか、トミーが使う大型マシンガン。これを砦に構え、攻め込もうとする武士を蜂の巣にしてゆく。

あれこれあって、キチガイ領主は砦めがけ大砲を撃ち込んでくる。まさに虐殺が展開されるが、トミーたちの必死の抵抗により小池朝雄も死亡。

累々と死体が並ぶなか巡察使が現れ、トミーにことの仔細を聞かせてくれ。私は公平な判断を下さなくてはならないと言う。

それに対してトミーは涙を流しながら、

「この死体の数を見れば、この光景を見ればわかるじゃねえか・・・。なにが政治だ!なにが平和だ!」

とディープな雄叫びを上げる。

娯楽映画であるが、そのなかにも権力批判を描いたなかなかの作品であった。

両作品ともにトミーは時にアクロバテックに動き回り、時にすごみを利かせ、時に笑いを誘い、時に発奮しているという独自のダンディズムを感じさせるものであった。

永遠の役者バカ・若山富三郎よ。永遠に。

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