話はかなり入り組んでいる。
ルポライターであるところの京マチ子は、警察から入手した情報をもとに刑事であるところのSの不正を雑誌に掲載した。
ところがそれを読んだ菅原謙二は、イニシャルで書いてあるが、自分のことが書いてあると思い、雑誌社に乗り込み抗議した。
すると京マチ子はクビにされてしまう。
自分のアパートでふてくされていた京マチ子のところに、旧知の北林谷栄がやってきて、京マチ子自身が失踪して、その体験をルポに書けばいいという。
さらに二人はその企画を「週刊ニッポン」という三流週刊誌に持ち込み、京マチ子が失踪している一ヶ月の期限内に、彼女を見つけることができた者には懸賞50万円を出すということになった。
さらに京マチ子は、第億銀行という銀行に失踪に用いる資金を借りに赴くのだが、そこで応対した船越英二は、すでに週刊誌を読んだのか、京マチ子がこれから失踪するということを知っていた。
ここで面識を得た二人は以後、懇意になるが実は船越英二と、銀行の支店長、山村聰、そしてもう一人の男、六井は銀行の金、2500万円を横領しようと企んでいたのだ。
そして船越英二が、女の行員の中から京マチ子にそっくりな女に、さらに変装をさせ、本物の京マチ子が失踪している間に横領を完遂し、この偽京マチ子に罪をなすりつけるという計画を取った。
失踪期間に何度か京マチ子は、船越英二に会ったが彼は懸賞金50万円を得ようとしなかったことから、京マチ子は船越英二に対して警戒心は持っていなかった。
しかしある日、船越英二が指定した廃屋のような所へ行ってみると、自分とそっくりな女がいて、次第に自分がはめられているということに気づき始めた。
六井の所を訪れると、彼はすでに死んでいて、その部屋に六井の妹が現れたことから、京マチ子は六井殺しの犯人と勘違いされ、菅原謙二が捜査に乗り出すことに。
京マチ子は山村聡の所へ行き、ことの真相を確かめようとするが、山村聡は椅子に座りながらライフル銃を持っている。
「それで私を撃ち殺すつもりなのね」
「違いますよ。これは私の趣味でして、手入れをしているんです」
しかし銃声が響き、京マチ子は床に倒れた。だが彼女は自分が生きていることに気づく。
部屋を見てみると、ピストルを持った船越英二がそこにいた。
山村聡を射殺したのは船越英二であった。しかし彼が発砲したのは、京マチ子を助けるためではなく、横領金を独り占めするためで、あくまで彼女を最後まで利用しようという魂胆によるものであって、そのことは京マチ子もわかっていたのである。
船越英二は、その部屋から航空会社に電話をし、翌朝の北海道行きの切符を二枚手に入れ、京マチ子にも一緒に行こうという。
船越英二は船越英二で、京マチ子はまだ自分のことは疑っていないと思い込んでいた。
だが京マチ子は言葉たくみに、 「先に行っておいて。私、後から行くから」
なんて言って、部屋にある大きな花瓶で自らの頭を叩き失神をした。
次の朝、船越英二は警察に任意同行された。通されたその部屋には、京マチ子がいた。
「なんで私が警察なんかに連れてこられなくちゃいけないんだ」
「昨夜、第億銀行の支店長さんが殺されたんですよ」
と菅原謙二。
「ねえ。君。君だって僕がそんなことする人間じゃないって知っているだろ」
と船越英二は京マチ子に聞く。
「あなた誰?私、最初からあなたなんて知らないわ」
部屋の中で船越英二が体を動かしているうちに、そのコートから拳銃が床にこぼれ落ちた。
「これはどういうことなのかね」
「・・・」
「この拳銃をすぐに鑑識に回せ!」
鑑識の答えは早かった。
この拳銃から発射された弾と山村聡の体の中に入っていた弾が一致したのだ。
いよいよ言い訳が効かなくなる船越英二。
さらに船越英二が持っているアタッシュケースを開けてみると、そこには2500万円の大金が入っていた。
逃げようとする船越英二。捕まえようとする警察。もみくちゃになっているうちに、船越英二は窓からダイブして死んだ。
ストーリーのあらましはざっとこんなものである。
人物の相関関係や、展開がだましだまされと二転三転してゆくので、そこだけを追っていくと、なかなか難しい映画のように感じてしまう。
しかしその中で、失踪を続ける京マチ子が七変化のように登場してくるのは見もの。
ある時は娼婦のようで、ある時は田舎娘、ある時はハイソな感じのモダンガール。ルポライターの時は、まるで化粧っ気なしの女などなど。
そのどれもにうまく化け切っている。
さらに行き場をなくした京マチ子が、ヒロポン中毒者を装って雑居房に入って喚いているのには笑った。
そして偽物の自分と対面した時は、キャットファイトに臨む。
こういう体を張った演技を演じたのは、京マチ子が日本の映画至上においては初めてじゃないと思うのだが。
さらに京マチ子は自分が犯人に仕立てられそうになっていることから、横領計画を暴いていくのだが、その2500万円は東京駅の荷物預かり所にあるということを突き止める。
その荷物の伝票が割り符のように三分の一になっていて、その一枚ずつのありかを突き止めてゆくという推理的要素も入っている。
だがその荷物の伝票を集め、荷物を取りに行き開けてみると、そこにはただの新聞紙しか入っていなかった。
ダミーだったのである。しかし京マチ子が、その新聞紙をよく見てみると、あることに気づいた。それは一枚一枚決まって、株式欄が切り取られていたのである。
あとで船越英二の部屋に行き、何気ない会話をしていたら、京マチ子は船越英二が新聞の株式欄を切り取って集めているのを目にしてしまった。
それは京マチ子が、船越英二こそが横領の犯人と気づいた瞬間であり、このような工夫が作品の随所に施されている。
また菅原謙二というとおとなしかったり、優しいような役どころが多いという印象を受けるのだが、この作品の刑事の役どころは、熱血漢といったおもむきで、珍しく発奮している菅原謙二を見ることができる。
ここまでこの作品に関することを書いてきて、今更のような印象を受けるかもしれないが、京マチ子という人は美人だろうか、チャーミングだろうか。
そんなことを度々思うのであるが、この作品の京マチ子はすこぶる魅力的であった。
七変化のように様々な表情を見せ、自分をはめた男たちを逆にはめて行ってしまう。
1957年の作品ではあるが、まったく古びた感じはなかった。そこが市川崑のすごさだろうか。
天海祐希なんかを主演にして、リメイク作品を作ったら面白いだろうに。そんなことを感じた作品だった。