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執筆者の写真makcolli

学校II


『学校II』である。山田洋次の『学校』の続編である。

舞台は北海道の養護学校。

そこで教師の西田敏行と永瀬正敏は、生徒である吉岡秀隆と神戸浩の行方が分からなくなったという情報を聞き二人を探し始める。

二人はライトバンで二人を探してゆくのだが、そこへ入学式からのエピソードが挿入されてゆく。

入学式。

はやくもやってくれたのは、重度の知的障害者である神戸浩であった。神戸浩は頭にヘッドギアを着け、教室での入学式が終わると、はやくも、

「おかあさーん!」

とわめきながら、脱糞しつつ母を追うのであった。ある教師は神戸のクソをぐんにゃり踏んでしまった。なんとか神戸を制止しようとする新米教師、永瀬正敏。

神戸浩は公衆電話の受話器を永瀬正敏の頭に叩きつけるなど、暴れに暴れる。

それを見た母は、ここでは息子を預からせることは無理なのではないかと思うが、女教師のいしだあゆみに諭され、学校を後にするが、とにかく神戸浩の脱糞、失禁は後を絶たず、さらに教室で暴れ、音楽室に入ってはノイズを巻き起こし、書道をやっている教室では墨汁を撒き散らす、という知的障害者に接したことがない人なら、そんなオーバーなと思われるかもしれないが、実にリアルな知的障害者を演じている。

で、神戸浩が印刷室に乱入して、印刷用紙をばら撒き始め、それを止めた永瀬正敏にションベンを浴びせた時、ついに永瀬の中の安全装置が外れた。

「てめえー!何回も何回も俺にションベン引っ掛けやがって!いい加減にしろ!この野郎!」

神戸浩の襟首を掴み黒板に頭を叩きつけたのち、神戸の腹に蹴りを入れる永瀬。

「なにしてるの!どうしたの!」

そこへ西田がやってきて、永瀬を止める。すると西田は神戸に印刷用紙の束を渡して、好きなようにさせるのだった。用紙を破いては、ばらまく神戸。

「なっ。あの顔見てみろよ。楽しそうにしているだろう。今、あいつはあの行為に集中しているんだよ」

そんなこと言われても新米の永瀬には、神戸を大きく包み込む余裕などあるはずもなかった。

そのあと神戸は西田の膝の上に乗ってきたが、やはり脱糞をしていた。

その後、永瀬は神戸とマンツーマンの関係を強いられた。 それでいしだあゆみに愚痴をこぼしても、逆に生徒に対する態度がどうかしていると言われるのだった。

俺の場合は養護学校で働いていたわけではなくて、施設で働いていたことがあるのだが、やはり利用者の行動に追い詰められて、何人もが頭おかしくなって辞めていった。

このあと永瀬は経験を経て、良き教師となっていくのだが、逆に神戸の行動、言動に追い詰められ、やはり頭おかしくなって教師を退職するということになっても、それはそれで映画的には面白いものができたであろう。

また、この作品には吉岡秀隆、神戸浩以外の生徒としてモノホンの皆さんが出演していることから、かなりのリアル度を上げている。

そういった細部のディティールを細かく描いていることは、認めるし、養護学校という特殊な空間を描くことにも成功していると言える。

だが山田洋次は『学校』でもそうであったように、学校というものを本来、人が安心できる場所、人が帰ることのできる信頼できる場所というように描いている。

そこにいる教師は根の優しい、生徒思いの人たちで、生徒は教師を厚く信頼している。そこには笑いもあり涙もある。という構造を描いている。

そこでは決して生徒のために人格が崩壊して、人生の闇に佇むことになった教師などは登場してこない。

『学校』がなぜ見るに耐えることのできる映画だったかというと、そこが夜間学校で肉体労働者を演じる田中邦衛が、真っ黒いクソを垂れて憤死したからである。

『学校II』も山田洋次にとっては本意ではないだろうが、神戸浩の脱糞行為というものを持って、見るべき作品とすべきだろう。

行方不明になっていた吉岡と神戸は、安室奈美恵 With スーパーモンキーズのコンサート会場に忍び込み、激しく踊りまくるスーパーモンキーズの姿を見て、狂喜乱舞していた。

ワゴン車を飛ばしている時、永瀬は吉岡の部屋にスーバーモンキーズのポスターが飾ってあったこと、そしてきょうがそのライブの当日であったことを思い出し、車を会場に向けて飛ばした。

その間も思い出のシーンが挿入されて、吉岡が北海道の青年作文コンクールにて準優勝し、母である泉ピン子は涙を流し、帰りのワゴン車の中でみんなしてなぜか、ザ・ブームの「風になりたい」を熱唱したこともあった。

そんな吉岡の前途は順風満帆のように見えた。

就労体験で吉岡はクリーニング工場に西田も同伴していたがやってきた。社長の話を聞いたあと、工場の見学をした。規則的に動く機械、テキパキと作業をこなす従業員。大型のアイロンが音を立てる。

実習生ということで工場で働くことになった吉岡だったが、仕事を教えてくれることになったのはチャラいやつで、何回も同じことを説明しなくてはいけない吉岡に苛立っている模様。

昼の休憩で吉岡が薬を飲もうとすると、そいつが、

「ふーん。いろいろ飲むんだなあ」

なんて言っていたら、一緒にいたパートのおばさんが、

「ちょっと。やめときなよ」

なんて言って、さらに同じ部屋にいたオヤジが、

「この薬、お前が飲んだほうが頭の具合良くなるんじゃねえのか」

と、本人たちは何気ないつもりで言っても吉岡の心はハートブレイクに十分過ぎることを言って、さらに爆笑までした。

その夜。

吉岡は寮の一室にて号泣した。

次の日。

いつものように工場の先輩は、細かく指導をしていた。

「またボタンが外れてないじゃんかよ。何回言ったらわかるんだ。それにポケットの中もよく確認するんだよ。ボールペンでも入っていて、インクが漏れたら他のものにもついちまうんだぞ」

「なんでそんなにガミガミ言うんですか・・・」

「なんだあ。そんなこと言うなら仕事しなくてもいいんだぞ。あっち行ってろ」

西田はなんとか社長に頼み込んだが、吉岡はクビにされてしまった。

その帰り道、

「腹減ったろ。ラーメンでも食うべ」

ということになり、食堂に入ったが、吉岡の様子がどうもおかしい。

「先生。〇〇(神戸のこと)は自分がバカだっていうこと知らないんだろ」

「ど、どういう意味だ」

「だって俺、もっとバカだったらよかったよ。自分でもわかるんだよ。仕事覚えられなかったり、計算間違ってばかりいるから、みんなが俺のことバカにしているのが」

パニックになり暴れ出す吉岡。それを抱いてやる西田。

「そんなに辛かったのか。もっとはやく迎えに行ってやればよかったな」

時制はまた現在に帰る。

永瀬はスーパーモンキーズのライブ会場を見渡してみたが、そこには吉岡と神戸の姿はすでになかった。

ちなみに吉岡と神戸が仲良くなったのは、神戸がまだバリバリに脱糞なぞを繰り返していた時、突然、

「やめろー!勉強をするんだー!」

と神戸を注意したことが、きっかけだった。それ以来、神戸は吉岡を兄ちゃん、兄ちゃんと言って慕うようになったが、それまで一言も発したことがなかった吉岡に西田たちは驚いたのである。

繰り返しになるが、この作品で重度の知的障害者を演じている神戸浩は熱演もので(素地がすでにそうなのかもしれない)、この年の日本アカデミー賞最優秀助演賞を受賞している。

夜9時を回っても二人を見つけられない二人は、ビジネスホテルに宿を取って、学校で待機しているいしだあゆみのもとに連絡を入れた。

その頃、例の二人はあるホテルのロビーにいた。

このホテルで養護学校の先輩が働いているのだ。吉岡はホテルの係り人に頼んで先輩に合わせてもらうことにした。

先輩は厨房の床をデッキブラシで掃除していた。

係りの人にもう上がっていいと言われても、

「あと3分やりますから」

と、律儀な先輩なのであった。

再会した三人はホテルの大浴場で、貸切状態で湯船に入っていた。

そこで神戸浩は、

「ボッキした。ボッキした」

と言って、二人に自らのイチモツを見せるのだった。山田洋次にしては、かなり下ネタを入れてくるなあと思ったが、実際知的障害者が下ネタが大好きなのは事実である。

先輩は言った。

「明日、4時から仕事だから、あと15分だけ話して寝よう」

電気を消したあと吉岡が、

「でも先輩はいいじゃないですか。彼女がいて。今でも電話しているんでしょ」

と聞くと先輩は、

「ある日電話したらさ。彼女のお父さんが出て、もううちの娘には電話しないでくれって言われたんだよ」

と言った。聞こえてくる先輩の嗚咽する声。

よく朝、吉岡と神戸はホテルの裏口からそっと出て行った。

そしてどう移動したのか、あたり一面銀世界の中に二人は立っていた。

そして近くにある公衆電話から吉岡は、学校に連絡を入れた。

いしだあゆみが受話器に出たが、吉岡は自分は学校には帰らず、神戸だけを帰らせると言う。

「〇〇養護学校までよろしくお願いします」という紙を神戸に渡し、神戸をパスに乗せた吉岡だったが、バスは程なく進むと停車し、そこから神戸が、

「お兄ちゃーん!」

と叫びながら降りてきた。

俺はこのシーンでも神戸が興奮のあまり、脱糞していたと思っていたが、そんなことはなかった。

物語が進むにつれて、神戸の脱糞度も下がっていくというのは、どうも解せないものがある。

逃げる吉岡。追う神戸。

雪原の中を、ひっくり返ってもっくり返って追いつ追われつしている間に、吉岡は神戸に対してマウントの体勢を取り、その顔面に拳を振り下ろしていた。

すると雪原の向こうから巨大な熱気球が現れたのである。

その頃、西田たちにはいしだあゆみから連絡があり、二人は昨夜、ホテルに泊まっていたということが判明したと伝えられた。

ホテルに向かった西田と永瀬だが、当然そこに二人がいるはずはなかった。二人は郊外の雪原の方に向かうことにした。

雪原でケンカして倒れ込んでいた二人の近くに、一台の車が止まった。

「ねえねえ。君たち何やってるの?」

「寒いから車に乗せてやれよ」

二人は熱気球を楽しんでいるグループのメンバーであった。

「メロンパン、食べる」

そう女が言うと神戸は奪うように、そのメロンパンを口の中に頬張った。

「おいしい?」

「しあわせ」

「アッハハハハ」

吉岡もサンドイッチをもらった。

吉岡と神戸も気球に乗ってみるかということになり、乗せてもらった。俺は神戸が興奮のあまり、もしくは恐怖心ゆえ気球の中で脱糞して、一同パニック状態に陥るのかと先の展開を予測したのだが、そうはならなかった。

やはりそれが山田洋次の限界であろうか。

西田と永瀬は凍結した道路の上を、二人を探して車を走らせていたが、次第に西田が、

「あの時、やっぱりホテルに行けばよかったんだよ。それを君がつまらない教育論をふっかけてくるもんだから」

とか、

「そもそも何であの子たちを普通高校と切り離して、養護学校に入れるんだ。そんなにあの子たちが邪魔なのか」

と、ボディーヒートしてくると、車はそのまま雪原の中に突っ込んだ。

なんとかして車から脱出しようとする永瀬だが、西田はじっと固まったままでいる。

「先生。どうしたんですか。大丈夫ですか」

「〇〇が空から呼んでいる声が聞こえる」

「なに言ってんですか。衝撃で頭おかしくなったんじゃないんですか」

だが次第に永瀬にも神戸の声が聞こえてくる。サンルーフを開けると、空には気球が飛んでいて、ゴンドラの中には吉岡と神戸の姿があった。

着地する気球。

「先生ー!」

雪原の上を走ってくる生徒二人。

「なにが先生だ。心配かけやがって。もう」

まあ。それで生徒と先生は抱きしめあった訳だな。それで校長先生からは、きついお叱りを受けた訳だな。

んで、卒業式には西田は涙で言葉にならなかったんだな。

だから永瀬が、

「みんな泣いている場合じゃないぞ。明日からはみんなも社会人だ。社会に出れば辛いこと、泣きたいこと、嫌なこともいっぱいある。そんな時にはいつでも学校に帰ってこい。俺が話聞いてやるから」

と言って、廊下に出て、やはり泣いたんだな。

体育館での卒業式。

歌を斉唱するみんな、とそこへエンドロールが被さってくる。えっ。これで終わりかい、と思った。

ストーリーの要所ようしょに泣けるトラップは用意してある。

だが、それがかえって山田洋次のあざとさのようにひねくれ者の自分には感じられた。

神戸浩がどこまで脱糞を繰り返すのか、期待していただけに残念である。

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