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  • 執筆者の写真makcolli

喜劇 爬虫類


その映画はこんな感じで始まる。

金髪に青い目をした白人女がストリップを披露している。食い入るようにそれを見つめる男たちの目の接写。

「みなさま~。ご当地に初お目見えいたしまするこのメリー・ハローは、本物のストリッパーではございません。アメリカ合衆国はペンシルバニアの生まれで、現在はかの名門コロンビア大学に在学中のれっきとした女子大生なのであります。そのメリー・ハロー。訳あって帰国資金ができず、本日このようにみなさまの前で踊っているのであります。アメリカン・ストリップ・ドント・タッチ・プリーズ」

そう名調子で口上を述べる渥美清。それだけでラピュタ阿佐ヶ谷の館内は笑いに包まれた。そして始まるタイトルバック。

特集「西村晃MAGIC」の中の『喜劇 爬虫類』(68年)を某日見ていた。監督は松竹のドリフものなんかを数多く手がけた渡辺祐介。

この特集は「世紀の大怪優2」と銘打たれていて、その第一弾は伊藤雄之助であったが、西村晃も負けず劣らずの怪優である。西村晃と言えばお茶の間では「水戸黄門」としてあまりにも有名だが、それだけで語るにはあまりにももったいない役者である。

今村昌平監督の『赤い殺意』のような社会派映画から、中島貞夫監督の『脱獄・広島殺人囚』では男のフリーダム松方さんと脱獄するものの、米軍トラックを「ヘイ!ヘイ!ストップ!」と停めさせようとしたところ、そのままひき殺されて死ぬ、という最高の演技まで見せつける強者である。

元教師の先生(渥美清)、特攻崩れのソロモン(西村晃)、アメリカかぶれのメリケン(大坂志郎・あまり知らない役者であったが、なかなかの芸達者であった)。その三人に奴隷のようにこき使われる五郎という若者の四人は、白人女のメリーをプロモートというか、飯のタネにしながら全国のストリップ劇場をどさ回りしていた。

先生は主に会計を担当し、ソロモンは一行の用心棒、メリケンはメリーの世話。五郎は雑用係であった。

ある地方にやってきた一行。渥美清は地元の警察に挨拶に行こうと署へ行き、風紀担当の刑事を訪ねるが、

「やっこさんなら出ているよ。とにかく人一倍仕事熱心な人だからなあ」

と、のんきに将棋なんかさしている警官に言われる。

シーン変わってストリップ劇場の中。かぶりつきで踊り子を見ている男こそ伴淳三郎であった。次第に肌をあらわにする踊り子。男たちから歓声が飛ぶ。しかし踊り子はブラジャーを外すところで、踊りをやめてしまう。

「なにやってるんだあー?はやく見せろよー!」

「きょうはここでおしまい。なにしろ小屋の中にデカがいるからね」

「なに?デカがいるだと!」

騒然となる場内。

「デカどこだー!畜生!庶民のささいな娯楽をとりあげやがってー!」

苦し紛れにそうわめく判淳こそが渥美清の探していた刑事なのであった。

楽屋。渥美清VS伴淳。伴淳は風紀担当の刑事とはいっても、根っからのすけべでストリップが大好きなオヤジなのであり、渥美清に、

「おめえんとこ。今度このブロンドの踊り子入れたらしいじゃねえかよ。あれ、本当の白人なんか?」

と聞き、

「旦那。疑ってもらっちゃ困りますよ。正真正銘、間違いなく白人女ですよ」

と渥美清が答えると、

「それじゃあ、おめえよ。許可だしてやる代わりによ。俺を毎日、ただで小屋に入れろや。なあ」

と職権を乱用し、

「困っちゃうな。旦那も。その代わりちゃんと見逃して下さいよ」

と渥美清が苦笑いしながら言うと、

「分ってるって。それとあれあるだろ。そのメリーっていう女のブロマイド。証拠としてもらっていくからよ」

とメリーのブロマイドもちゃっかりいただいていくのだった。

例の口上に合わせて、メリーがストリッブを披露すると、物珍しさも手伝ってか客は大入りをみせるのであった。

だが楽屋ではメリーには毎晩ビフテキが振る舞われていたが、あとの四人の男たちはいちぜん飯を喰っている有様だった。特に奴隷のようにこき使われる五郎の待遇はひどく、ついに反撃に転じて、先生、ソロモン、メリケンの三人のめしの中に洗剤を混入させたのであった。

深夜。腹の具合が悪くなり、便所に入れ替わり立ち替わり入る三人。そのなかで渥美清は間に合わなかったのか、

「あっ。ああ~っ・・・」

とか言って、ウンコもらしちゃたようなもらさなかったような演技を見せるところはさすが。

メリケンはとにかくアメリカにかぶれていて、メリーのパンティーをせっせっと洗う毎日。だがメリーのパンティーが一枚ないと気づき、ソロモンにそのことを告げると、

「なんでえ。なんでえ。パンティーの一枚や二枚でがたがた言いやがって。俺が怪しいとでも言うのかよ!」

と切れ気味に言うが、そのジャンパーの懐からパンティーがぽろり。

「野郎!メリーのパンティーを盗みやがって!」

パンティー一枚を巡って取っ組み合いのケンカを始めるメリケンとソロモン。その模様を冷ややかに見ている五郎。

そんな中、渥美清は伴淳に呼び出しを受け、

「俺最近、課長に睨まれていてよ~。点数上げなくちゃならねんだ。頼むからよ~。茶番につき合ってくれや」

と言われ、取り調べを受ける羽目に。

「きさま~。メリー・ハロー?こんな白人女に卑猥な踊りやらせやがって」

「やらせやがってって言ったて、旦那だって大好きで毎日見てたじゃないの」

しらけた表情でそう言う渥美清。

「(小声で)頼むからよ~。辛抱してくれや。(一転して)ふざけるな!本官はきさまらの卑猥行為を潜入捜査していたんだ!」

取調室には課長も同席している。

「だからただで通わしてくれって言ったのは旦那のほうでしょ。困っちゃうな~」

「(ウインクをしながら)困っちゃうのはこっちなんだよ。(一転して)きさま警察をなめるのもいい加減にしろ!この証拠写真もあるんだぞ!」

「それも旦那が欲しいからって言うからあげたメリーのブロマイドでしょ。どうかしてるよ」

「とにかくメリー・ハローのストリップは当分禁止する!」

と伴淳の都合によって、メリーのストリップは禁止となった。

しかし渥美清は負けていなかった。時代劇の衣装にズラを被りドーランを塗った渥美清は館主に寸劇風の仕立てにしてストリップを続行することを願い出る。その館主が誰あろう、やはり怪優の上田吉二郎であった。例の口調で、

「あんたそんなこと言ったて、むちゃくちゃですよ。捕り物調にしてメリーの股間に天狗の面つけさせて、グラマ天狗なんて言っても客が納得するわけない」

だがこの企画は執り行われた。「御用だ!御用だ!」とか言ってソロモンとメリケンが登場し、鞍馬天狗に扮しているメリーの衣装を取っていくのだが、結果は惨憺たるものであった。

楽屋では五郎が新聞を読みながら、

「アメリカが北ベトナムに空爆を開始か~」

と独り言を言っている。それを受けてメリケンが何の気はなしに、

「なんてたってアメリカはスケールが違うよな。なんでも最前線でも兵士はビフテキ喰っているっていうもんな。それに引き換え日本軍は麦飯だろ。負けるはずだよ」

と言った。それを聞いてソロモンが切れた。

「悪かったな!この野郎!こっちは大根飯喰いながらお国の為に戦ってきたんだ!戦争にゃあ負けても帝国海軍軍人としての意地は捨ててないんだよ!」

「まあ。そうがなるなって」

「うるせえ!なんだてめえら!そんなに毛唐の女のケツばっか追いかけ回して嬉しいのかよ!俺はもうこんなバカバカしいことはうんざりだ!」

「なんだ?出て行くって言うのかよ?」

メリケン。先生の渥美清は知らぬ存ぜぬを決め込み、ストリッパーとトランプなんかやっている。

「おう!出て行ってやるよ!てめえら明日から恐い目見たって、このソロモン様がいなけりゃどうしようもねえんだぞ!その時に泣きついてきてもしらねえからな!」

そう言いソロモンはバックに荷物を詰め込みはじめ、頭に血が上っているのでストリッパーの衣装まで持って行こうとする。そこに一言、渥美清が、

「みんな手癖の悪いヤツがいるから気をつけな」

と言う。

「ちきしょう~!」

出て行くソロモン。ジャンパーの裾がバラックじみた門に引っかかる。

「なんだよ!とめるなよ!」

振り向くと、ジャンパーの裾が引っかかっていただけであった。惨めさが取り残されただけであった。

渥美清には家族がいるらしく、妻子に手紙を出し、自分は参考書のセールスマンをしていて全国を飛び回っているという嘘をついている。それが元教師としての彼の精一杯の見栄だったのかも知れない。

明くる日。メリー一行は次の巡業先目指して汽車に乗っていた。わいわいやっている先生やメリケンたち。それを遠目でみているソロモン。

メリケンが便所に言ってくるわ、と言ってどんどんソロモンのほうにやってくる。慌てて便所に隠れるソロモン。

「あれっ。おかしいな?誰か入っているのかな?もしもし。もしもし」

そこから出てきたのは苦笑いを浮かべたソロモンだった。メリケンも苦笑いを浮かべる。

「便所に入っていたらさ。メリケンに会っちゃってさ」

苦笑いを浮かべる先生。結局、ソロモンはまたしても一行に加わるのだった。

次にやってきたのは山の中の飯場であった。例のごとく渥美清の口上に合わせて踊るメリーであったが、

「弁士は黙っとれー!」

の怒号のもと、ヘルメットが飛んでくる。ぶっちゃけ飯場の男たちは著しく女に飢えており、次第にメリーが踊る舞台にまで上がってこようとしだすのであった。

「No!No!」

メリーはそでに逃げた。暴動寸前状態に陥る飯場。渥美清はいち早くメリーをつれて逃げた。

「ソロモン!あとは任したぜ!」

「任したぜって言われてもどうすりゃいいんだよ!ちくしょう!」

こん棒を振り回して舞台に出て行くソロモン。

「やいやいやい!てめえら!落ち着きやがれ!なにも見せねえとは言ってねえんだ!それをてめえら盛りの着いたおす犬みてえになんでえ!俺を特攻崩れのソロモン様と知ってやり合おうって言うんだろうな!」

乱闘になる飯場。そんな中、ソロモンは現場監督の頭を殴りつけ重症を負わせた。

一行が逃げ込んだのは山の中にあるボロ旅館。そこの女将が若水ヤエ子で、あの独特の口調で爆笑を誘う。この作品が面白いのは適材適所というか、主役から脇役まで芝居巧者な人たちが揃っているということだ。

やはり強者たちが集まると化学反応が起きる。渥美清と西村晃の芝居の丁々発止を見ているだけでも面白いのに、さらにそこに上田吉二郎や若水ヤエ子のような人たちが絡んでくるんだからたまらない。

逆に言うと今、ここまでの役者バカな人たちがいないのが寂しい。

埠頭。手紙を読んでいる渥美清。それは妻からのもので、息子が喘息でどこか空気のきれいなところに住まわせてあげたいと書いてあった。

そして気づけば競輪場にて、すっからかんになっている渥美清であった。そこで昔なじみの踊り子と再会する。渥美清が競輪につぎ込んだ金は、一座がなにかのためにとこつこつと貯めた積立金であった。なにもかも打ち明けた渥美清に対し踊り子は、

「あの毛唐の女と一緒に逃げちゃえばいいのよ。そうすれば儲けは全部あんたのもんでしょ」

と告げ、渥美清の頭の中には悪巧みが思い浮かぶのであった。

その頃、劇場の楽屋では五郎も合わせ残りの三人が、その積立金のことで話し合っていた。

「先生はよう、まあ学があるってんで一座の会計をやっていてよ。積立金も管理してるけどよ。その現物を拝んだことあるかよ?」

「どこまで先生を信じていいのか疑わしいもんだぜ」

「とにかくよ。そこのところをよ。先生に確かめてみようじゃねえか」

と、そこへしゃぼくりかえった先生が帰ってきた。

「よう。先生、物は相談なんだけどよ。あの積立金のほうはどうなってるんだよ?」

「ない」

「ない!?ないってどういうことなんだよ!?」

「いまここにはないってことだよ。銀行にちゃんと預けてあらあ」

「じゃあ。その通帳みせてくれよ!」

「落としちゃいました」

「てめえ!ふざけるんじゃねえ!カバが下駄喰ったような顔しやがって!落としたで済まさせるわけねえだろーっ!探せーっ!」

パンツ一枚まで服をはぎ取られる渥美清であった。

その後、先生と残りの三人は冷戦状態に・・・。

そんな折、劇場の前ではやくざものがたむろしていた。

「ソロモン。なんだかあいつらおっかねえよ。なんか因縁でもつけようって言うんじゃねえか?」

怯えるメリケン。

「ふざけた野郎どもだ。俺がナシつけてやるから待ってろ」

そう言い肩で風切ってやくざものたちに歩み寄るソロモン。

「おうおうおう。チンピラども。昼の日中からなんでえ。話があるなら聞いてやろうじゃねえか!」

「うちの親分がお呼びなんで」

「親分?」

言われるままについて行くと、そこはソロモンが昔世話になった親分の家であった。

「親分。お懐かしうございます。その節はお世話になりました」

やけにへーこらするソロモン。

「まあいいってことよ。それよりよ。おめえに折り入って頼みがあるんだけどよ。そこのふすま開けてみろや」

ソロモンがふすまを開けてみると、そこではブルーフィルムの撮影が行われていた。

「こ、これは?」

その席にはソロモンが飯場で怪我を負わせた現場監督もいて、ソロモンに治療費10万円を要求する。あの飯場は親分の息のかかった飯場だったのだ。

「10万円?そんな金あっしには用意できませんぜ」

「バカ。あの毛唐の女をここに連れてくるんだよ。そうすりゃ10万なんかすぐできるし、お前も俺んとこの組に取り立ててやろう。いつまでもストリップの用心棒をやっていても仕方あるめえ」

ソロモンの頭に悪知恵が思い浮かぶのだった。

こうして一座はそれぞれ、表面上はなに喰わぬ顔をしていても、心の中では飯のタネであるメリーを独占してやろうという思惑が渦巻くのであったが、ある日突然、立ち入り禁止になっているはずのメリーの部屋から、メリーが男と戯れている声が聞こえてきたのであった。ドアを開け、

「誰でえ!てめえは!」

と聞くと部屋からきざったらしい小沢昭一が出てきた。

「てめえなんて言っちゃって穏やかじゃないねえ。なにね。このメリーを僕は探していたんだよ。なにしろ彼女はお得意様だからね」

「お得意様?」

「そう僕はね。米兵にさ日本人の女をあてがって二号さんなんかにしちゃってさ。米兵がベトナムなんか行っちゃうじゃん。そしたら奥さんは寂しがるでしょ。それで今度はその奥さんに愛人を紹介しちゃうわけ。これ本当のギブ&テイクだよ。それで今度、メリーの旦那がベトナムから帰ってくるってんで迎えにきたのよ」

メリーは英語で小沢昭一に向かって、

「この人たち私がいないと生きていけないかわいそうな人たちなの」

なんて言ってるが、終始ふたりはみんなの前でいちゃいちゃしている。その姿に衝撃をうけるみな。

「俺が今までそろばんを弾いて育ててきたメリーはどうなるんでえ!」

「横浜のゴーゴークラブで踊っていたメリーを連れてきたのは俺なんだぜ!」

「あの飯場で体を張ってメリーを守ったのは俺なんだ!」

そしてまた部屋に戻るふたり。渥美清はひざから崩れ落ち泣きながらこう言う。

「あれはまだ東京が焼け野原だった頃よ。俺は初恋の相手とふたりでいたのよ。そしたら後頭部にガツーンと強い衝撃が走ってよ。気がついたらあの娘は白人の男たちになぶりものにされてよ。ヤツらバター臭いにおいをぷんぷんさせやがって。それで俺はただ白人の女をこの手で自由にしたかったのよ。でも行き過ぎた反米教育のせいで教壇を追われてよー」

なかなかにディープ&ソウルなカミングアウトである。

「殺るしかないな・・・」

五郎はそう言った。

次の日、メリーの部屋を開けてみると、そこにはメリーの姿はなく、日本人の娘がベッドの上にいた。唖然とする一同。

「あたいピコっていうのよろしく」

「ピコ?あのピコか!」

「五郎ちゃん!西成で別れて以来やないの!懐かしいわ!」

その娘はピコと言い、大阪は西成から出てきた家で娘であった。このピコを演じているのは賀川雪絵。次の年から始まる石井輝男監督の異常性愛路線で、全裸に金粉塗られたりして凄い目にあいながらも、阿部定役までこなした女・川谷拓三とも言える人だが、一時期松竹にいたことは知っていたが、まさかここでお目にかかれるとは思ってもいなかった。

この作品でもほかの女優がストリッパー役でもオッパイさえ見せないのに対し、チラ見せではあるが、ためらいもなくオッパイをさらすのはさすがと言いたい。

その頃、メリーは米軍基地にて帰還した夫と再会していた。彼女に取ってはストリッパー体験は、ちょっとしたアバンチュール気分のものであったのだろう。

だがそのことを知らない一同は小沢昭一抹殺計画を立てる。小沢昭一をバーかスナックみたいなところに呼び出すソロモン。小沢昭一が壁にかけてある般若の面なんかを、

「なんだあ。これは?」

なんて言っているうちに、その注いだビールのなかに粉末の睡眠薬をぶちこむソロモン。しかし小沢昭一はいっこうに眠たくなる様子がない。すると小沢昭一は小瓶を取り出し、錠剤をボリボリかじりだした。

「なんなんですか?それ」

「僕は異常体質の持ち主でね。これくらいの睡眠薬かじってもぜんぜんラリんないの」

という衝撃発言に西村晃は、

「ええーい。こうなったら野となれ山となれだーっ!」

と言って、自らのビールに睡眠薬をぶちこみ眠りに落ちて行くのだった。

だがさすがに眠り込んだ小沢昭一を残りの一同はライトバンに乗せ、線路に向かったのだった。

「俺、怪しまれるといけねえからよ。ライトバン返してくるわ」

と言って、渥美清は行ってしまった。

「わー。なんやしらんけど私ぞくぞくしてきたわ」

と言うピコ。これから眠っている小沢昭一を線路の上に寝転がして、列車が通過するのを待ち殺してしまおうというのだ。

「おい。五郎。こいつの体運ぶの手伝えよ」

と言うメリケン。しかし五郎は寸前で怖じ気づき走って逃げてしまった。遠くて聞こえる警笛の音。残ったメリケンとピコは焦りながら、小沢昭一の体を線路の上に乗せ、逃げ去った。

店に戻った一同。渥美清が聞く、

「ヤツはどうなった?」

「それがもう最期はイカのはらわたみたいによ。体がまっぷたつになっちまってよ。見られたもんじゃなかったぜ」

「五郎は?」

「途中で逃げ出してしもうたわ。私、あんな意気地のない人、よう好かんわ」

目覚めた西村晃が言う。

「ライトバンの手はずはいいんだろうな? 」

その顔にビールを浴びせる渥美清。そこへ片方の靴が脱げ、眼鏡はひしゃげて、ぼろぼろの格好になった小沢昭一が現れた。

「いやあ。僕も歳なのかな。いつもはあのくらいのことで眠るわけないんだけどなあ。なんかおぼろげに自分の真上だったか、横だったかを列車が凄い勢いで通っていったのは覚えているんだけど」

「ギャーッ!」

一斉に逃げ出す一同。

「なにがイカのはらわただよ!ちゃんと確かめたのかよ!」

「確かめるもなにも、ありゃ幽霊じゃないのか!」

「だからおまえらのやることはいつもガキ以下だっていうんだよ!」

夜の公演で子供みたいにギャーギャー騒ぐ三人。それをジャングルジムの上から見ていたピコが笑う。

「ははは。おっちゃんらのバイタリティーもそんなところで終わりやな」

水飲み場で水を飲むピコのケツを食い入るように見つめる三人。

「なあ。ピコの姉ちゃんよ。踊り子になってみる気はないか?」

そう聞く渥美清。

ステージの上、テストのために衣装を着けて踊るピコ。

「こりゃ磨けば光る宝石だぜ」

とメリケン。

「これで金髪のかつら被って、青い目のコンタクトレンズ入れりゃ立派な白人女よ。なあ俺たち親友だもんな。これからも一緒にやっていこうぜ」

そう先生が言ったところに、ピコがブラジャーを外して投げ入れる。最後はそれを奪い合う三人の姿のストップモーションでエンド。

映画館の暗がりの中で腹の底から笑いながら至福の一時を過ごしていた。こういう出会いがあるからつい映画館に足を運んでしまうのである。

渥美清と言えば、やはりなんといっても「男はつらいよ」の寅さんである。しかしこの人は天才的になにをやってもうまい。そういった意味でもこの作品は、渥美清の隠れた傑作の一つではないだろうか?

そしてギラリと光るソロモン役の西村晃の演技。今、こういうポジションの役者っていないし、もう出てこないかもしれない。小沢昭一のキャラクター造型も出色のできであった。現在の邦画界に対しては、もっと俳優を大事にしろといいたい。せっかくキャリアを積んで一癖も二癖もあるような演技のできる人でも、使い捨てにされたのではたまらん。

あと深読みというか、勘ぐりをすると、この作品で渡辺祐介監督は当時の日本の世相や、日本人そのものを描きたかったのではないだろうか?

アメリカ白人女を巡って巻き起こるドタバタは、そのままアメリカという大国を前にして右往左往する日本の姿そのものだったのかもしれない。

そんなドタバタ劇は現在も続いているのでは?

できればもう一度見てみたい傑作であった。

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