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執筆者の写真makcolli

銀蝶流れ者 牝猫博奕


東映の首脳陣は、尾上菊五郎を心底怨んだに違いない。

看板女優の藤純子を「取られた」からだ。そんで寺島しのぶが生まれた訳だが、とにかく岡田茂はじめ、東映の首脳陣は尾上菊五郎を心の底から怨んだに違いない。

その頃、日活はロマンポルノへ方向転換寸前。スタッフや監督たちの多くは、そのまま日活に残る者が多かったし、逆にロマンポルノで大きく才能を開花させた柛代辰巳のような人もいる。

しかし役者の中には、やはり脱ぎたくなくて、あるいは俳優の場合はケツをスクリーンにさらしたりしたくなくて、日活を辞める者も多かった。

梶芽衣子もそんな女優の一人だった。

で、東映に移籍し、初主演の作品となった『銀蝶渡り鳥』なのであるが、梶さんによると初めは女版のハスラーの映画だからということで出演することになったが、ラストシーンに近づくに連れてどんどん任侠映画になっていき、戸惑ったそうである。

さらに予告編で和装姿で、

「東映にては初お目見えになります。梶芽衣子と申します」

と仁義まで切らされて、本当嫌だったそうである。

そんな梶さんの心など露とも知らず、東映首脳陣はどうやら梶さんをポスト藤純子と目算していたようだ。

「銀蝶」シリーズ第二弾、『銀蝶流れ者 牝猫博奕』は、そんな梶さんをさらに戸惑わせることになったのではないのか?

そもそも日活という会社はモダンな会社であったし、俳優たちもわきあいあいとやっていたようだ。例えれば文科系サークルのようなものだ。それが三角マークの東映にあっては、筋金入りの体育会系に他ならない。

すべては伊香保温泉に向かう温泉芸者志願の女たちを乗せたマイクロバスから、確か絵美とかいう女が逃げ出し、追っ手のやくざから梶さんが助けたことから始まった。

流れ者の女賭博師梶さんは、伊香保の町で開かれていたボンの場で、とうがらしの紋次郎(もちろん木枯らし紋次郎のパロディ、演じるのは我等が山城新伍)のいかさまを見破る。

一足先に東京は銀座にやってきた梶さんは、昔友だちの賀川雪絵(女川谷拓三の異名を持つ)がママを務めるクラブで絵美を預かってくれないかと依頼する。

絵美の父親、伴淳三郎はかつては名うての賭博師として鳴らしていたが、今ではすっかり落ちぶれていて、娘を温泉芸者に売り飛ばす始末であった。

梶さんは探していた。かつて名賭博師であった父を死に追いやったイカサマ師を。伴淳はことの真相を知っているようだったが、お茶を濁してしまった。

銀座界隈を牛耳っている愛星興業のボンに顔を出すことになった梶さん。そこはゴーゴークラブの地下室で、サイケな音楽が若者の心をムンムンに掴んでいたが、隠し窓からさんしたが覗くと、そこには伊香保の町で絵美を逃がし、さらに自らに痛い目を喰らわした梶さんが座っていたので、若頭の室田さんに一部始終をちくるのであった。

監督は『銀蝶渡り鳥』から続いて、山口和彦である。あの『ウルフガイ 燃えろ狼男』の山口和彦である。しかし今作の山口和彦は快調だ。

賭場のシーンではローアングル。ファーストシーンの吊り橋で梶さんが絵美を助けるシーンでは大きく引きを使ったと思えば、アップに持ってきたり、趣向を色々使ってテンポよく撮っている。

愛星興業のボンには千葉ちゃんがいた。梶さんが別嬪だと見ると、和装の胸に腕を突っ込んで痛い目を喰らった。さらにすってんてんになると、

「ち、ちくしょう!こ、こ、こ、これを賭けるからも、もうひと勝負でえ!」

と強烈にどもりながら、スボンを脱ぎ、そのズボンを賭けるという。

「馬鹿野郎!てめえのズボンなんか何の価値もねえよ!」

「そ、そ、そ、それならこの腕時計でどうでえ!」

終始一貫してどもっている千葉ちゃん。この山口和彦の演出も非常に高得点を叩き出している。

そんな千葉ちゃんのもとへ、ストンと札を落とす梶さん。

「ね、ね、ね、姉ちゃん。粋なことしてくれるじゃねえかよ。あ、あ、あ、ありがとよ。お、お、俺はザギンで何でも屋をしている隆治ってんだよ。困ったことがあったら訪ねてきなよ」

その千葉ちゃんの相棒で喫茶店のマスターが由利のお父さん。葉巻をくわえていることからスモーキンと呼ばれていて、むっちゃアドリブかまして笑いを根こそぎさらっていく。

愛星興業も賀川雪絵ママのクラブを使って、売春を斡旋しているのだが、千葉ちゃん&由利のお父さんの強烈タッグも愛星興業の目を盗んで、売春斡旋に精を出しているのだが、そんなパンパンに向かって由利のお父さんが、

「ノーパンビラビラ。OKね」

とかますのには爆笑した。由利徹ここにありである。

そんな中、とうがらしの紋次郎(ただ頬にとうがらしのペインティングをしている田舎やくざ)こと山城新伍は、梶さんを姐さんと慕って上京してくる。

それでもやくざ風を吹かしている新伍は、靴磨きに蛇革の雪駄を磨けといい、雪駄なんか磨けるかとケンカになる。その靴磨きが渡瀬恒彦で、このワンシーンのみの出演。

前作、『銀蝶渡り鳥』では梶さんの相手役を務めていたよしみか。

由利のお父さん。新伍。伴淳と、それだけで芸達者のゴールデントライアングルを形成しているのだが、伴淳は単身、愛星興業に乗り込んだ。

実は愛星と伴淳とは古くからの縁で、伴淳は梶さんの父を殺したイカサマ師は愛星だと知っていたのだ。事の真相を公にしたくないなら二千万払えと迫る伴淳。

「そんなことで俺を脅そうとしているのか?」

と愛星。

「きょうの俺は本気だ。てこでもここを動かねえ!」

伴淳がそう強気に出ると、愛星は20万ぐらい伴淳に渡して、

「まあ。きょうのところはこれで帰ってくれや」

と言う。

伴淳が部屋から出て行くと、

「やろう。あとあと面倒ですから殺っちまいましょうか?」

と室田さんが言い放つ。

その頃千葉ちゃんはバスタブの中で、泡風呂に入っていた。外から梶さんが訪れ、声をかけると千葉ちゃんは、

「なんだよ。用があるならさっさっと入ってこいよ」

と言い放ち、実際梶さんが入ってくるとびっくりして立ち上がり、チンポを丸出しにするのであった。余計なことかも知れないが、実際その時の千葉ちゃんのチンポも種馬のように立ち上がっていたのかも知れない。

ここで恥じらいを見せる梶さんがいい。

「いつまでそんな格好してるんだい。風邪引くよ」

と照れながら言うのがいい。

これだけ三角マークの熱い、そしてアクの強い漢たちに囲まれて、梶さんの存在感が薄まってしまうような気がするが、それがそうではなくて、どうみても任侠映画にコメディの要素を強引にぶちこんんだような作品でも、梶芽衣子という女優は画になってしまうから不思議なのである。

代表作の「さそり」にしても、あれだけの責め苦や拷問、レイプ、成田のミッキーの腕ぶった切って逃げるなどの行為を普通の女優がやったら、きわものになってしまうと思うのだが、掃き溜めの中の鶴なのか、持って生まれた天賦なのか、どの作品を見てもやはり梶芽衣子は凛としているのだ。

例えばそれは、ライフワークになっていた「鬼平犯科帳」のおまさ役でも見せる魅力だし、その不思議な魅力にタランティーノも取り憑かれたのではなかと思う。

という梶さん論はさておいて、梶さんがチンポ丸出しの千葉ちゃんのもとを訪ねた理由は、父の敵を一緒に探して欲しいというものだった。

しかしその頃、インチキな日本語をしゃべるスモーキンこと、由利のお父さんはサイケな衣装を着て、いまだパンパンをけしかけていたが、そこへ愛星興業

の連中が乗り込んで来て、パンパンたちを強制連行し、千葉ちゃんが大事にしている顧客リストまで持って行かれるのだった。

絵美がクラブで働いていると、同僚のホステスが、

「絵美ちゃん。これなんか酔っぱらっているおじさんが、絵美ちゃんに渡して欲しいって持ってきたわよ」

と札束の入った封筒を手渡すのであった。

絵美が急いで表に出てみると、そこには千鳥足で歩いている伴淳がいた。

「どうしたのお父さん?このお金?」

それは伴淳が愛星から巻き上げた20万であったが、もちろん伴淳は金の出所を絵美に言う訳もなかった。

「いいんだよ。お父さん、お前に親らしいことしてやれなかったからな。銀座のホステスっていうのは、衣装に金もかかるんだろ。取っておけよ」

と言い立ち去ってゆくのだった。

千鳥足でそのまま街を歩く伴淳に千葉ちゃんが、

「おう。おやじ元気か?」

と言ったら、

「ほっとけ。バーカ」

と悪態つき、やっぱりヨッパライの役やらせたら伴淳の右の出る者はいないなあ、と思ったらそのまま車にひき逃げされた。

その頃、梶さんはその賭博師の腕を愛星興業に買われ、専属にならねえかとスカウトされたが、

「私はねぐらを持たない渡り鳥なんでね。気ままにやらせてもらいますよ」

と、やんわり、でも嫌みも込めて断った。断られた時の室田さんの顔がさらに憎々しい。

そのことにより梶さんは、より愛星興業に目を付けられる。

と、伴淳は集中治療室にぶちこまれた。かけつける絵美、千葉ちゃん、梶さん。命は取り留め快方に向かいつつあったが、なぜか仕込みのステッキを抜き自決。

遺書には愛星が梶さんの父を殺した真相と、絵美への謝罪の言葉が述べられていた。

フォーカスがぼやけたネオンの街。その柳通を梶さんは何かを決意したかのように歩いてゆく。そこへ千葉ちゃんが現れ、

「や、やめとけよ。殴り込みなんて。愛星、こ、殺すにゃ刃物はいらねえよ」

と、どもりながらも気の効いたことことを言うのであった。

絵美の女の操はとっくに奪われていた。絵美に入れあげているハゲの客は会社の重役かなんかで、愛星にどうしても絵美を抱かせて欲しいと申し入れ、そのハゲと癒着している愛星は賀川雪絵にプレッシャーをかけ、さらに賀川雪絵は伴淳が死んだ見舞金だと絵美に金を渡し、ハゲと寝るように迫ったのであった。

千葉ちゃんは逆にそれを利用した。スモーキンに女装をさせ、つまり絵美の変装をさせ、ハゲをおびき出した。この時の由利のお父さんが最高過ぎる。ミニスカートを履き、ケバい化粧、編み上げのブーツを履いてハゲを誘ったかと思うと、千葉ちゃんと一緒にハゲを責め上げ、愛星興業と企業との癒着の実態をテープに録音する。

そのテーブを持って愛星興業に乗り込む千葉ちゃん。

「お、俺が、け、消されたら全部警察にバレる仕組みになっているんだぜ」

な、なんか、おっと俺までどもり出した。なんかこのへん面白過ぎて覚えてないんだけど、梶さんは一度愛星興行にとらわれの身となり、おっとそうだ。昔仲間の賀川雪絵に話があるとか言われて、地下室に呼び出されたんだ。

それで捕まり、さんしたどもに竹刀で叩かれたりするのだが、そこに、

「姐さん!姐さん!今助けにめえりやしたぜ」

と新伍が登場。

「はやく!はやく!逃げておくんなせえ!この関所は俺が守ってみせらあ!」

とか言ってる間にドスで土手っ腹刺されて絶命。

こういう時に見せる新伍の演技って、本当秀逸。

その後は東映セオリーよろしく、テープをバスタブのなかに隠していたスモーキン由利が、愛星興行に乗り込まれ抵抗したものの絶命。

「お、おい。で、電気ぐらいつけろよ。スモーキン」

と言って千葉ちゃんが部屋を見たら、バスタブのなかでスモーキンが息絶えていた。

「スモーキン・・・」

愛星興業の花会賭博で、愛星は素人さん相手にさしの勝負をしましょうとか抜かした。

受けて立つ相手がいないボンに梶さんが現れ、愛星と勝負したがいかさまによって愛星をはめる。そしてそのいかさまネタをばらす。

「てめえ!どういうつもりでえ! 」

「覚えていないのかい?13年前、お前のこのネタで因縁を付けられ殺された男を。その娘が私なのさ!」

愛星の脳裏に13年前の記憶。そしてその場にいた女の子の姿が浮かんだ。

「かまわねえ!やっちめえ!」

襲い来るさんしたどもをドスで片付けてゆく梶さん。その次に殴り込んだのは、ズボンの下にさらしを巻いた千葉ちゃんだった。

長ドスで愛星の連中を切りまくり、梶さんから預かっていた親父さんの形見の拳銃をパスする。その拳銃をぶっ放す梶さん。

室田さんは千葉ちゃんに袈裟懸けに切られる。その血にまみれた死に顔がいい。

追いつめられた愛星を梶さんは一刀両断にする。

夕景。海。そこにたたずむ梶さんと千葉ちゃん。梶さんは父親の形見の鈴を波に流す。

「務めを終えてから、また銀座に帰ってくるんだろ?」

「うん。その時はつがいの渡り鳥になってね」

夕陽に「終」の文字が赤く染まった。

梶芽衣子のフィルモグラフィーから見れば、エポックな作品でもないし、取るにたらない作品かも知れない。しかしここには、「さそり」でもない「修羅雪姫」でもない梶芽衣子がいる。

任侠、サイケ、コメディ、etc。もしかしたらそんな作品を撮れるのは山口和彦だけかも知れない。

そのなかでやはり凛としている梶芽衣子。その目力だけで見るものを惹き付けてしまう彼女の魅力が、確かにここにも焼き付けられている。

さすがにラストシーンの千葉ちゃんは、どもっていなかった。

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