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執筆者の写真makcolli

血と砂

更新日:2022年12月10日




某日、ラピュタ阿佐ヶ谷の「伊藤雄之助特集」における『血と砂』(65年)を見てきた。

戦争末期の北支戦線。上官を殴ってばかりいる問題曹長の三船敏郎と、音楽学校を出たばかりの軍楽隊の少年兵たちがいた。

この少年兵たち。軍楽隊なのだが軍歌は演奏せず、「聖者が町にやってきた」とかをやっているニューオリンズ・スタイルのブラバンなのである。

そんなバカなことがあるかと思うが、このキャラクター設定が物語が進行してくるにつれて、ぐんぐん効いてくることになる。

三船と軍楽隊は、仲代達矢隊長の部隊に転属となるが、その部隊では敵前逃亡を図ったとして、ある兵隊が銃殺されていた。

そのことに頭に来た三船は仲代隊長をぶん殴り、営巣送りとなる。またその兵隊を銃殺した調理兵の佐藤允は、職人肌の元板前で、「きょうは気に入れねえから夕飯作んねえ」とか言って、ほかの兵隊とケンカになり営巣行きに。

この佐藤允演じる調理兵。かなり跳ね返った態度で、

「軍隊ってところは年季がもの言うんだ!俺は天下の七年兵様だぞ!」

と誰にでも喰ってかかる。この一癖あるやくどころを佐藤允が見事に演じている。

我等が伊藤雄之助は、徴兵される前は葬儀屋をやっていて、戦地でも死んだ兵隊を埋葬することばかりやっている通称・葬儀屋。

銃殺された兵隊を墓に埋めてやり、葬儀屋はこう言う。

「なあ。靖国神社だけには行くんじゃねえよ。あそこ行っても他の神様にバカにされるだけだからな」

そんな葬儀屋。軍楽隊が「赤とんぼ」を演奏しているうちに眠り込んでいた名古屋章から鍵を奪い、三船、佐藤を逃そうとして自分も営巣送りに。

営巣のなかには他者とのコミュニケーションを拒むもう一人がいて、三船が鳥の丸焼きを差し出すが、

「どうせお前ら憲兵だろ!戦争なんてしょせん人殺しじゃないか!」

などとわめいている。それを見て、佐藤允は頭のところで指をくるくる回す。

賑やかに楽の音を奏でていた軍楽隊だが、仲代隊長に「軍隊にあんな音楽はいらない!」と言われ、楽器は没収され、軍歌を歌うように命じられる。

陣地に野ざらしにされた楽器に雨が降り注ぐ。

さらに物語に絡んでくるのが、「お春さん」と呼ばれている従軍慰安婦。金山春子という名前。そして言葉遣いから朝鮮人慰安婦と思われるが、この女が三船にぞっこん惚れていて、終始追いかけてきて物語にアクセントを加えている。

また陣地の中では、

「ソ連が満州に侵攻してきたらしいぜ」

と言う噂が流れていて、戦局が逼迫していることが描かれている。

軍法会議にかけられるはずだった三船だが、共産ゲリラに奪われた砦を奪回する任務を命じられる。部下には誰を連れて行ってもいいと言われ、少年軍楽隊と営巣のなかの三人。佐藤允。伊藤雄之助。ディスコミュニケーションなやつの三人を連れて行くことにする。

しかし軍楽隊の少年たちは、楽器の演奏はできても、ほふく前進や手榴弾の投げ方も分らないトウシロウばかり。そこで作戦実行前に三船が猛特訓をほどこす。

仲代隊長は少年兵たちに作戦の実行に当たり、楽器の携行を許可する。

だが、しょせんは実戦経験のない少年兵たち。途中で農民に化けたゲリラ兵二、三人に襲撃されただけでパニックになってしまう。

そこからゲリラの小隊との戦闘になるのだが、結局戦力になるのは三船と佐藤允だけであった。しかしこの戦闘で三船たちは、少年兵たちと同じ年頃の中国人捕虜を拘束したのだった。

目的の砦が見渡せる場所までやってきたが、ここをどうやって攻略するか三船は頭を悩ます。砦は寺院を改造したようなところで、その寺院をトーチカにして、外に堀を巡らし、要塞のようになっている。

三船と佐藤允が双眼鏡で敵陣を覗くが、見張りの兵士が立っているだけで、敵の勢力の全貌は分らない。と、その時、低音を担当するスーザフォンがふいに「ブッー」と吹いてしまった。

その音に驚いた敵兵はぞろぞろと砦内に現れた。

「うーん。少なく見ても50人はいるな」

「50対17か。さて、どうしたものですかね」

「このなかで野球の経験のあるやつはいるか?」

と三船曹長。

「はい。僕甲子園の一回戦まで行きました。エースで四番です」

「よし。お前は手榴弾を持って俺についてこい」

敵陣内で三船たちが暴れ出したら、佐藤允率いる一隊が後方から援護射撃を始め。味方がトーチカの屋上で旗を振ったら、伊藤雄之助率いる一隊が突撃を始めるという作戦を決行することになる。

「そんな突撃なんて嫌ですよ・・・」

という葬儀屋に、

「バーカ。そのころにゃ死体の山の中を突撃してくるだけだよ」

という佐藤允。

この作品のキャラクター設定が面白いのは、少年兵たちを名前で呼ぶのではなくて、楽器のパートの名前で呼んでいることだ。三船と一緒に敵陣に入るのは、楽隊の指揮役でピッチャーをやっていたところから、ピッチャーと呼ばれている。

堀と砦内を繋ぐ唯一の通路は跳ね橋で、そこまで三船とピッチャーはほふく前進。敵を二人殺し、その服を着て水汲みのふりをして跳ね橋を降ろさせ内部に侵入。そこでさらに衛兵を殺し、手榴弾を投げ始める。

しかし要領が分らないピッチャーは、当てずっぽうに投げてしまう。それを見ていた三船は、

「なにやっているんだ!レフトだ!次はセンターだ!ライトに投げろ!」

と指示を出す。

砦内で手榴弾が炸裂しはじめたのを見た佐藤允は、

「よーし!おっぱじまったぞ!ついてきやがれ!」

と少年兵を引き連れて、機関銃を撃ちながら前進を始める。さらに大太鼓と小太鼓がロケット弾を敵陣めがけて発射。

「くそう!俺は気がみじけえんでえ!お前ら後ろから援護しろ!」

と佐藤允は言って、小銃を手にさらに前進を急ぐ。しかし少年兵たちは機関銃の操作の仕方さえ分らない。誤って佐藤允めがけて撃ってしまう。

「このトウシロー!人殺しー!」

その頃、三船とピッチャーはトーチカの内部に侵入していた。上階を目指していた二人だが、ピッチャーは瀕死の状態になっている敵兵を発見。その兵士にとどめの一発を見舞うことを躊躇してしまう。そしてその兵士に狙撃され絶命してしまう。

佐藤允隊も三船と合流。トーチカを陥落させ、屋上で旗を振る。それを見た葬儀屋は、

「み、みんな俺についてこい!」

と突撃を開始。このシーン。伊藤雄之助がものすごく必死な形相をして突撃してくるのが、スローモーションで映し出されるのだが、それを見ていた佐藤允は、

「バーカ。もうぜんぶ終わっているよ」

と言う。

砦は奪取したものの、気づけばピッチャーと大太鼓が戦死していたのであった。戦友のそして音楽仲間の死に号泣する少年兵たち。

「わずか20年も生きられなかったんだ。こんな時にしめっぽい音楽なんてやっても無駄だ。お前ら得意のディキシーで弔ってやれ」

と三船。葬儀屋が墓を作っているなか、賑やかに「聖者が町にやってくる」を演奏する少年たち。

だがそこへ次々と砲弾が着弾する。

「トーチカのなかへ逃げ込め!」

この砦の近くにはさらに敵の陣地があり、そこから大砲が撃ち込まれているのであった。

少年兵たちが戦争の最前線で、ブラバンを演奏する。一見すると荒唐無稽な話しだが、戦闘のシーンが非常にリアルなので、見ていてまったく違和感がないのである。

この作品の監督は岡本喜八だが、この世代の映画人はスタッフもキャストも含めて、大なり小なりの戦争体験があったと思う。だからいたずらに戦争を美化したり、逆に思い切り大上段に構えて「反戦」とやらずに(やった人もいたとは思うが)、もっと「生きている兵隊の、戦争の実像」のようなものを描けたのではないかと思う。

敵陣の存在に気づいた三船と佐藤允は夜になるのを待って、砦から伸びている電話線をたぐって敵陣に忍び込み砲弾に破壊工作を仕掛けた。

夜になって砦内で演奏をしていると、近くの稜線で爆薬が弾ける模様が始まった。

「ありゃなんだ?」

「砲弾のなかにもう一つの砲弾を入れて発射したらどうなる?」

「自爆します」

「そうだ」

「そうか曹長たちがやったのか。でも花火みたいに奇麗だな」

その頃、折の中に入れられた中国人捕虜は、見よう見まねで置いてあったフルートを吹いていた。それを聞いたフルートは捕虜からフルートを奪い取り、

「てんででたらめじゃないか!こうやって吹くんだ!」

と流麗に吹き始めた。

部隊のなかのディスコミュニケーションのやつが実は通信兵だということが分り、本体にモールス信号を送ると、明日にも支援隊を送るということになり、みんなは特に少年兵たちは作戦は成功したと大喜びする。

さらにその部隊にはお春さんも随行してくるという。

少年たちはそれぞれ、もう経験は済んだのかとか、あれってやる時どういう感じがするんだとか、俺はもうしたことあんだぜとか、弁慶は生涯で一度しかやったことがなかったとか、慰安婦であるお春さんがくるということに期待を高鳴らせているのだった。

そこへトラックが到着。みんなは喜びトラックに手を振ったりしていたが、三船はトラックの窓ガラスが割れていることを不審に思った。が手遅れ。トラックの荷台からは敵兵の銃撃が!

その後、双方の銃撃戦の末、なんとか敵兵を撃退したが、フルートが戦死。またディスコミュニケーションのヤツも銃剣を持って突撃し戦死。

「なんだかんだ言ってお前も兵隊だったんだな」

と佐藤允。お春さんも堀の中から救い出されたのだった。

フルートの戦死に号泣する少年兵たち。

「あいつもう俺は経験があるなんて言って、強がっていたけど、本当はなんにもしらないまま死んじまったんだよ~」

葬儀屋は普段から捕虜に対して優しく接しているのだった。

「俺は支那語は分らねえけどよ。お前も戦争なんてやめて田舎帰って鍬でも握っているほうがいいと思うよ。この横笛もよ。あいつが死んじまったからお前が持っていればそれでいいよ」

そして少年兵たちは一人ずつお春さんに筆卸をさせてもらうのであった。済ませてきた少年に葬儀屋が、

「どうだった?」

と聞くと、少年が笑顔でトーチカのなかをスキップしている模様がスローモーションで映し出される。少年兵たちだけでなく、お春さんの肉体にありつこうとしているのは佐藤允も葬儀屋も一緒であった。

「ちきしょう。板前のやつやけになげえな」

そういって葬儀屋は、お春さんと佐藤允がやっている寝処へ行って、

「敵襲。敵襲」

と言うのだった。血相を変えて飛び出してきた佐藤允だったが、

「なんでえ。なにもいねえじゃねえかよ。ちきしょう。あの葬儀屋」

と言ったのだが、よく見るとほふく前進でおびただしい数の敵兵が攻めて来ている。この場はなんとか持ちこたえたが、味方からの援護もなく、確実に三船隊は追いつめられているのであった。

再びじりじりと攻めて来ている敵を前にして、なにを思ったのか葬儀屋は敵の死体を抱えて砦から出て行こうとする。三船が静止しようとしたが、すぐに銃撃戦に。

跳ね橋が上がってそれが盾になり、葬儀屋は助かったが、三船の腹部に銃弾は命中した。

トーチカのなかから少年兵たちも機関銃で応戦するが、敵はものすごい猛攻をかけてきてトランペットは目を負傷し、のたうち回る。さらにピッコロも戦死。

「ここは任せた。俺は本部と連絡を取ってみる」

と三船。

「どうしたんだ。曹長。やけに顔色が悪いぜ」

「なに。歳のせいさ」

この場も必死の応戦で持ちこたえたが、佐藤允が三船の様子を見に行くと瀕死の状態。お春さんは泣いて抱きすがる。

「こ、これをお前にやる。俺よりお前が着けているほうが似合っている」

と言って、禁止勲章をお春さんに手渡し、三船は絶命。

残った佐藤允は目を負傷したトランペットともう一人の少年兵を砦の外に出し、本部と連絡するように命じる。この時すでに佐藤允は部隊が全滅するのを覚悟していた。

砦では残った少年兵たちがブラバンをやっている。砦を見下ろせる丘に立っていた二人。トランペットが、

「ちゃんとハモっているか?パンチは効いてるか?」

と聞く。それに応えてもう一人が、

「だめだ。だめだ。やっぱ俺たちがいなきゃだめなんだ」

と言って砦に戻ってしまう。

「なんだ?てめえら、なんで戻ってきやがった?」

「ハモってないからですよ」

「ハモって、って一体なんなんだよ?そんなことが分らないで死ねるかよ!バカヤロー!」

その頃、お春さんは三船の墓をせっせっと作っていた。

「なあお春さん。一つ聞きたいことがあるんだけどよ。なんで曹長は本部で銃殺されたやつのことに、あれほど頭にきていたんだ?」

「あの死んだ人。曹長の弟だったからね」

「じゃあ俺は曹長の弟を・・・。曹長のバカヤロー!俺に余計な心配かけまいと思ってなにも言わないでー!」

三船を墓に入れる時、またもや雨あられのごとく砲弾が砦に着弾しはじめた。そして雪崩を打って突入してくるゲリラ兵たち。そのなかには敵前逃亡したはずの日本兵の姿が、

「てめえら~・・・」

襲いかかってくる敵兵の前に佐藤允も死亡。

それでも少年兵たちは壕の中に入り、「聖者が町にやってくる」を演奏し続ける。しかし次第に飛び散る土砂で楽器は壊れてゆく。それでも必死で演奏を続ける少年たち。

一人のものが死んでゆくと、そのパートの音がひとつずつ消えてゆく。

「おっかさん!」

そう言って死んでゆく者。

「もっと演奏がしたかったよ!」

そう言って死んでゆく者。最後に残ったのはトランペットと葬儀屋だけだった。

そこへあの捕虜が走ってくる。その姿を見て葬儀屋はライフルを構え撃ち殺してしまう。捕虜の手には紙が握られており、そこには、

「戦争は終わりました。日本の兵隊さん、仲良くしましょう」

と書かれてあった。

トランペットと葬儀屋も直後に背後から機関銃で撃たれ死亡。

半分土砂に埋もれたお春さんだけが生き残り、

「みんな死んでしまったの?」

と言う。そしてテロップが出て、

「その日は八月十五日だった」

で終わる。

基本的には活劇である。しかし随所に戦争というものが、いかに惨いものであるかということを描いている。そして全編に渡って岡本喜八の演出が冴えに冴え渡っている。

素晴らしい作品に出会ったときは、「素晴らしかった」の一言で終わればいいのかも知れないが、持って生まれた気質なのか。その素晴らしさを駄文にしてみなければ気が済まなかった。

映画に乾杯。そんな一本だった。

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