傑作はいついかなる時、どの方角からやってくるか分らない。だから映画を観るのは、やめられない。
九州の現在では使われなくなったボタ山が、寂しく町を見下ろす中、スト続行中の幟を立てた何台ものバキュームカーが道路を疾走してゆく。
便所にいけなくなり困った町の人たちは、野グソをする者が続出。そんな労働者権利に目覚めた清掃業者の一人が渥美清であった。
が、渥美清のもとへあるオバちゃんがやってきて、とにかく糞尿の匂いで、ご飯もろくにのどを通らないから、なんとかしてくれと頼みにくる。
「そんなこと言われてもなあ。役所の連中が俺たちの賃金上げてくれるまではなあ」
「そこをなんとか頼みますよ。お金は弾みますから」
「そうだ。ただでやってやるよ。そうすりゃ働いたことにならないんだし、スト破りじゃないもんな」
だが翌日。渥美清は清掃業組合の連中からつるし上げを喰らっていた。
「てめえだけいい目みようたってそうはいかねえぞ!」
「だから俺は善意でだよ。善意で汲み取ってやったんだよ」
「クソ汲み取るのに善意もなにもあるかよ」
そう言って笑い出すみんな。
「みなさんは不思議ですね。自らが清掃業者であるにも関わらず、そんなにクソのことをバカにするんですか?俺はね。あのクソの匂いを嗅ぐと、ボタ山で汗水たらして働いたおじいやおとうのことを思い出すんだよ」
他の者が汲取を、ただ単に仕事として割り切っているのに対し、渥美清は糞尿そのものに愛着を感じているのであった。
清掃業者から干された渥美清であったが、俺は自分の道をゆくと、おじいやおとうが働いたボタ山に穴を開け、そこにバキュームカーで汲み取ってきた糞尿を注ぎ込んでゆくのであった。
「この下は一千メートルは空洞になっているんだ。どれだけクソ流し込んだって、一杯になることはねえさ」
だがその一年後。このボタ山近くにゴルフ場ができ、そこでプレイしているものは一様に、
「なんか臭いますなあ」
「臭いですなあ」
と、口にするのであった。そこで自衛隊に出動命令が下り、匂いの源と目されるボタ山を爆破することになった。
ダイナマイトが炸裂する。さすがにウンコは飛び散りはしなかったが、そこにもんもんと立ちのぼったのは、パープルヘイズならぬイエローヘイズであった。
煙は瞬く間に町全体を覆い、ウンコの匂いにやられた住民はパニックに陥った。
警察から出頭要請を受ける渥美清。
「おりゃなにも悪いことしてねえよ。ただおじい、おとうの掘ったボタ山にウンコ流し込んだだけじゃねえか!」
「とにかく本署まできてもらう!証拠品として押収するので、バキュームカーを運転してついてこい!」
だが、そのまま渥美清はバキュームカーで逃走を図った。高速道路を突っ走るバキュームカー。そして辿り着いた場所が、大阪は釜ヶ崎であった。
「俺はこの街に、あのボタ山に染み付いた汗と糞尿の匂いと同じものを感じたんだ」
一方、大阪の役所では露口茂が掃除のおばちゃんから、ビニール袋一杯に入ったシケモクを内緒でもらっていた。
「こんなシケモク。あんたが吸いよるの?」
「まあ。そこらへんは詮索せんといて」
だが役所の福祉課に務めるケースワーカーの露口は、上司からいつも叱責されていて、その度に生返事をしていた。
かといって、やる気がない訳ではなく、ウンコ舟に住んでいるミヤコ蝶々に、生活保護を受けてはどうかと勧めるが、買っている犬のリリーだけが生き甲斐の蝶々は、
「なにい!われぇ!こうみえてもワシは、まだ月のものがあるんじゃあ!自分ひとりなんとか生きてゆくわ!」
と現役であることを宣言し、露口を追い返すのであった。
そして彼はバラックに住んでいる左卜全と、その母親に例のシケモクを届けてやるのであった。
「いつもすんまへんなあ」
「ええって。ところであんたのおかん、いつくになってん?」
「そうですなあ。わいが70やから、おかんはもう90は超えてますやろ」
「そないか。いつまでも長生きしてな」
このシーンで一言も発せず、シケモクをくゆらせている婆さんの姿がいい。
そのあと露口は担当している一家に来て欲しいと言われ、その家に向かう。
この家がまたすごいバラックで、窓は運河に面していて、天井は電車の高架下にあり、電車が通るたびにガタガタ揺れる。
松竹のこの手の作品を見ると、スラムやバラックのセットには目を奪われるものがあり、松竹の美術さんがスラム、バラックの作り込みに命を懸けていたことが伝わってくる。
で、その家の住人が笠智衆夫婦に娘の宮本信子。
笠智衆は露口の前で、実は遠い田舎に親戚があり、その財産分与で土地が手に入ることになり、そこにアパートを建てて暮らしていけることになったと言う。
「いやあ。ほんまか。なんや夢みたいな話やなあ。でもよかったわ」
「これもすべてあなた様のおかげです」
そういって笠智衆夫婦は粗末だが、夕飯を食べていってくれと露口に料理を差し出す。
宮本信子の首には火傷のあとがある。
露口と二人きりになった笠智衆は、お願いがあると言い出す。
「どうかあの娘に思い出を作ってやってくれませんか?」
「お、思い出って・・・」
事態を飲み込めない露口。
「昔の風習が残る田舎では、火傷のあとがある女は火事を呼ぶなどといいまして、嫁のもらい手がないのです」
「で?」
「あの娘を抱いてやってくれませんか?」
「そ、そ、そりゃいけしません!そんなことが分ったら、新聞にでも淫乱ケースワーカーが保護家庭の娘に手を出した、なんて書かれますやん!」
「その心配はいりません。すでにあの娘も承知のことなのですから」
すでに宮本信子は奥の部屋で、白い浴衣に着替えて寝ている。
「わたしたちはちょっとこのあたりを歩いてきますから、よろしくお願いします」
電気が消された屋内。露口は少しずつ宮本信子に近づいてゆく。
橋の上を歩いている笠智衆夫婦。
「これであの娘にも思い出ができてよかったですねえ」
「そうだな。でも政夫はかわいそうだった。女も知らないうちに戦死してしまったからな」
暗がりの中に映る露口と宮本信子の目のアップ。なにかそれが叙情的なものを生み出している。画面右手から露口が映り込んできて、宮本信子に詫びを入れる。そして宮本信子も映り込んできて、首を横に振る。
次の日。新聞には「一家三人。貧困苦の末、無理心中」という見出しが載っていた。
役場に辞表を提出する露口。笠智衆一家は最初から無理心中をする気でいたのだ。そして、せめてその前に娘を女にしてやりたいと、露口にその身を任せたのだった。
歩道橋の上にいる露口のなかを複雑な感情が入り乱れる。
なぜあの一家を助けられなかったのか。だが、自分がケースワーカーとして本当に人の役に立つことができたとすれば、あの娘と寝たことだけではないのか。
複雑な心中を抱いたまま、露口も釜ヶ崎に辿り着いた。
「ああ。なんや懐かしい匂いがするわ。わいが好きな人間の匂いがするわ」
その頃横浜の山下公園では、小沢昭一がくず拾いをしていた。
だが彼にはポリシーがあった必ず人が落としたくずしか拾わない。いたずらに人が金を落としても拾わない。彼はくずそのものを愛しているのであり、彼がくずに対する愛を語る時、それは中原中也の叙情詩のような文学性をたたえているのであった。
そんな彼のくず愛は常人から見れば、常規を逸している部分もあり、公園の植垣のなかに捨てられていたコンドームに、人間の営みのはかなさのようなものを感じ、その上に石を積んで供養塔のようなものを作り、毎日その前を通っては、
「やあ。どうだい。きょうも元気かい?」
などと声をかけるのだった。
しかしある日、そのコンドームを違うくず拾いが持って行こうとしたことから、ケンカが発生。ビルの屋上にくず屋の仲間、そして役所の衛生担当者が集まり、話し合うことになった。
だが、くずに美的価値を見いだしている小沢昭一は、今のくずもごみも落ちていない公園は逆に清潔過ぎて、人間味がないと、現代管理社会への警鐘を鳴らす。
困った役人はそんなにごみが好きならと、ドリームアイランド、つまり夢の島への移動を小沢昭一に命じる。
そこは見渡す限りごみ。山のように溢れ返るごみ。逆に小沢昭一はそのなかで、陶酔感、恍惚感を覚えてしまい仕事にならずクビに。やはり辿り着いたのは釜ヶ崎であった。
「人は汚らしいなんていうけど、僕にとっては理想郷のような街だなあ」
釜ヶ崎の街で知り合った三人は、大衆酒場のカウンターで飲んでいた。
そこに中二階のようなところで飲んでいる三木のり平がいて、三人に一諸に飲まないかと誘ってくる。怪しいと思いつつも三人はのり平の席へ。
「お宅はなにをしてらっしゃる方で? 」
と渥美。
「わしかあ。わしゃ医者じゃよ」
「なんだあ。ヤブか?」
と露口。
「わしゃヤブなんかじゃない。れっきとした国立病院の医者だったんじゃよ」
「それがどうして釜ヶ崎なんかに?」
「そこじゃよ。君たちは安楽死というものを知っておるかね?」
「安楽死ねえ?」
「末期の患者がいたずらに苦痛を抱えて生きるよりも、薬を投与することによって安らかに眠ってもらう。このほうが人道的な医療と言えるんじゃないかね。しかし安楽死を実行しようとした時、医学会はもとより、法律界、宗教界からも猛反発が起こった。そこでわしは親友だった医師に、お互い死期が近づいたら安楽死をほどこそうと約束したんじゃ」
だがその医師は自身が白血病になると、のり平が約束を実行するのではないかと妄想に取り憑かれ、のり平が診察に訪れると狂乱状態になり、そのまま階段から落ちて死んだ。
そして医学会に失望したのり平は、流れ流れて釜ヶ崎に辿り着いたのだ。
そんな四人の邂逅。意気投合した四人は協力してスクラップ業を始めることにした。
釜ヶ崎ではお互い本名は名乗らず、呼び名、ニックネームで呼び合うのが流儀。のり平はそのままドクター。露口はケース。小沢昭一はドリーム。渥美清はバキュームカーを運転していたことからホースと名乗ることにした。
そして四人は前途を祝して、酒を飲みながら気勢を上げた。酒に酔いながらもドクターは、レーゾンデートルがどうのこうのとか哲学的なことを口にする。
スクラップ事務所は笠置シズ子の助産院の隣で、電話がなかったので、助産院の電話が鳴ると、そこの娘である奈美悦子が鈴のついているロープを鳴らし、それが合図で渥美清が現れるという仕組みになっていた。
だが産婆である笠置シズ子はスクラップ業なんかには反対であった。
そもそも奈美悦子が18年前に助産院の前に捨てられていた捨て子だった。さらにその彼女が抱いている赤ん坊も3日前に、捨てられていたのだ。
「そんなスクラップ、スクラップなんて言うて、人間までほかしてしまう世の中おそろしいわ」
だがスクラップ業は四人の予想を上回る繁盛を見せ始める。そこでドクターは釜ヶ崎にいても頭打ちと、東海地方進出を目論んだ。
その会議というか、飲みの場で、「軍艦マーチ」や「天然の美」を歌いながらさらに気勢を上げる四人。そこに焼酎の差し入れを持って現れる奈美悦子。彼女は渥美清に気があるようだった。
早朝。左とん平がトラックを運転していると、前方に謎の巨大な物体が転がっている。トラックを停めてとん平がよく見ると、それは象で道路の真ん中を完全に占拠していた。
とん平が警察に通報したことにより、噂が噂を呼び、見物人が殺到するわ、マスコミがやってくるわで大騒動に発展していった。
だが警察も消防も保健所も、うちの管轄外だと言ってお互いに責任をなすり付け合う。業を煮やした市長は誰か解決できるものはおらんのか、と叫んだが、そこに現れたのがダンプに乗ったあの四人で、格好が自衛隊の制服とゴレンジャーをミックスした感じ。
ちなみにのり平がブラック。露口はオレンジ。小沢昭一はパープル。渥美清はイエロー。
「なんなんだね?君たちは?」
そう市長がのり平に聞くと、
「誰もこれを片付ける人がいないんでしょ。私たちがやりますよ」
と答え。渥美清は手際よく、クレーン車を誘導し、象をつり上げそのまま運んで行こうとする。
「どこに持って行くんだ?」
「市庁舎の裏にでも置いておきますかな?」
「それは困る」
「ではうちのスクラップセンターで処理しますから、ついてきて下さい」
スクラップセンターに到着すると、市長、警察署長、消防署長の前で象の解体が始まった。長刀のようなもので渥美、小沢昭一、露口の三人が象の死体を解体しはじめると、その体から血がドバーッと吹き出し、返り血を浴びる。さらに内蔵がどぼどぼと流れ出す。
血まみれの渥美清が電ノコで、象の足を切断してゆく。
久しぶりに映画見て、椅子から転がり落ちるんじゃないかと思うくらい笑った。あれだけスプラッターな、まるで月岡芳年の無惨絵のような渥美清は他の作品では、見ることはできないだろう。とにかく血まみれの渥美清!
のり平は切断した象牙を市長に渡し、
「市長閣下!これは本日の解体ショーの記念品として贈呈致します!」
と言う。市長が帰ったあとに現れたのは、サーカスの関係者で、実はあの象は衰弱死したものをのり平が買い取った、つまりすべてはのり平が仕組んだ芝居だった。
「あれだけカマかけておけば大丈夫だろ。スクラップ業は役所への申請とかやっかいだからな。それにおたくらも死んだ象の処分に困っていたことだし、一挙両得だっていうわけだ」
この頃からのり平の何かが変わり始めていた。スクラップの買い取りには下働きとして、よぼよぼのじいさんたちを安い金で使っていた。
じいさんたちと白黒テレビの買い取りに露口が行った時、入れ替わりにカラーテレビが搬入されてきて、露口はそのカラーテレビの色彩に目を奪われた。
そこには変わりゆく時代が、象徴されていた。
ある日、スクラップセンターに奈美悦子が突然訪ねてきた。しかも妊娠しているという。
「ねえ。ホースさん。この子のお父ちゃんになってくれへん?」
「お父ちゃん?お父ちゃんったって、俺には身に覚えはないよ!」
「ホース君。君もなかなかやるなあ。仕事もそれくらい熱心に頼むよ」
「ねえ。ええやないの。頼むわ~」
「そんな簡単に言うけど。困ったなあ」
「そんなに困るんなら、いっそその腹にいる子もスクラップにしてしまえばいいんじゃないか」
「そりゃないよ。ドクター。あんた最近、スクラップのことになるとキチガイじみてるよ」
と小沢昭一。
「なにを言っているんだ。最近わしは街を歩いていてもビルを見たり、電柱を見ても、全部スクラップにしてやりたい気になるんだよ!そのうちわしの思い一つで、世の中のすべてがスクラップになる日がくるんだよ!」
とのり平は訳分んないことをわめき出すのだが、スクラップセンターのテレビCMでも、
「国家の根幹はスクラップから!スクラップが世界を変えるのです!」
とヒトラーのような形相で力説するのであった。
そして渥美清が九州の炭坑町出身であることを知ると、そのボタ山を観光施設として再開発することを命じる。すでにスクラップセンターの主導権は完全にのり平が握っていた。
あとこの時、小沢昭一が渥美清に言った、
「あんたボタ山の中にウンコ隠したんだってな」
という台詞が忘れられない。
こうしてオープンした炭坑観光施設、ブラックダイヤモンド・パラダイス。
トロッコに乗って地下に向かうと、さまざまな趣向があって、渥美清が吹き込んだテープの音声ガイドが「落盤でーす」と言うと、上から岩の作り物が落ちてきて、若いカップルをどきどきさせ、そのまま照明を落とし、ムードを盛り上げ、キスに持ち込むという粋な計らいがなされていた。
このブラックダイヤモンド・パラダイスに、秘宝館の要素があれば完璧だったが、最後の岩盤を開けるとそこはゴーゴー喫茶になっていて、室内装飾は田名網敬一のイラストと見紛うばかりのサイケなもので、ジュークボックスからタイガースの「シーシーシー」が流れる中、ヤングなみんなはペプシを飲みながら、または髪を振り乱しながら踊り狂うのであった。
「岩盤が開くとそこには自由しかないのです。ここは誰にも邪魔されることのない自由な地下世界(つまりアングラのことか?)なのです」
という渥美清の声が流れる。しかしその本人は、訪れていた露口に向かって、
「俺は自由の意味っていうのは分らないな」
とこぼす。
スクラップセンターに戻った露口にのり平はショッキングなことを告げる。雇っている老人たちを突然解雇すると言い出したのだ。
「そんな殺生な!あの人たちかて、スクラップセンターのために働いてきたんじゃないですか!」
「あんなポンコツたちもう役に立たんのだよ。これからはなんでも合理化の時代だ」
「せやかて突然すぎるやないですか!働くとこも行くとこもないんですよ!」
「そんなことわしゃ知らんよ。どこへなりと勝手に行ったらいいじゃないか」
「そうですか。せやったらわいも辞めさせてもらいます。あんたいいましたな。ビルでも電柱でもなんでも、思い通りにスクラップにしてみせると。わいもそんな時代がくるような気がします。せやけどわいはポンコツ人間が好きなんです」
「君。そんなバカな!」
「あんたも戦争を体験しているはずです。せやったら物の大切さが分るはずやないですか?」
「戦争?大いに結構だね。そのぶんスクラップが増えるんだから」
「バカヤローッ!」
そのまま露口は老人たちを連れて、スクラップセンターを出てゆく。
「行こう!みんな!なんとかなるわい!」
その頃、小沢昭一はごみの山の中で寝ていた。そこに何匹ものネズミたちが這っていて、「あのおっさん食べ殺してやろうか」とか話し合っている。
それは詩人のような感性を持つ、小沢昭一にしか聞こえない声だったのだろうか?
彼は目覚めると、狂乱状態になり、ごみの山のなかを逃げ回り始める。
このシーンが実にいい。引きのアングルで長回し。そのなかで飛び跳ね、転げ回り、怯え続ける小沢昭一が素晴らしい。
小沢昭一が仰向けで息絶えると、その死体が白骨に変わり、そして彼岸花に変わる。
この一種の詩情。監督は田坂具隆という人で、名前は聞いたことあったし、もしかしたら、いままでにも何作か見たことがあるのかも知れないんだけど、ちょっと調べてみたら、戦前から撮っている名匠と謳われる人だった。しかも68年のこれが遺作。
波が打ち寄せる浜辺。そこにテントを張り、海を見つめている露口。そのうしろには老人たちがいるが、彼の視線はぼんやりとし、表情もやつれているように見える。
そして彼は波打ち際に、あの死んで行った宮本信子の幻影を見る。
ボタ山の町では奈美悦子が産気づいていた。
「神様頼みます。無事に赤ん坊が生まれてきますように」
そう祈る渥美清。そして男の子が誕生した。そのあまりの嬉しさにてんぱった渥美清は、
「俺は無学だからよ。ボタ山行っておじいとおとうにいい名前決めてもらってくるよ」
と奈美悦子に言い残し、ブラックダイヤモンド・パラダイスに降りてゆく。
「おじい!おとう!赤ん坊が生まれたんだよう!いい名前教えてくれよう!」
静かに地鳴りの音がする。
「おじい!おとう!どこにいるんだよう!」
地鳴りの音がする。
渥美清がゴーゴー喫茶のコーナーに入った時、落盤が発生。ものすごい量の土砂が渥美清を襲う。「シーシーシー」が流れる中、彼は帰らぬ人となった・・・
どのくらい経ったのだろう。成長した男の子がボタ山を登ってゆく。
その姿にエンドマーク。
別に深く考える必要はないだろう。しかし、この作品には高度経済成長期の日本で、右肩上がりの日本で、顧みられることのなかった、そして時代の波から取り残された人間の哀感が描かれていることは間違いないだろう。
それを喜劇として描き出しているところが、素晴らしい。
そして露口茂がそう宣言したように、俺もポンコツ人間を愛す。