それは昭和22年、嵐の夜のことだった。
「これは純度99%のものだっせ。あんじょうサバイテや」
渡瀬恒彦は闇屋である東映が誇る怪優・汐路章にそう言ったが、振り向くと汐路は拳銃を握っていた。
「楽にあの世へ送ってやるさかい。心配すな」
すわっ。渡瀬恒彦、万事休すかと思われたが、雨が激しく叩き付ける窓ガラスを蹴破り、我等が男の突撃列車・松方弘樹がとっこんでくると、汐路の拳銃を奪い容赦なく彼と、その女を射殺した。
ごっそり恒彦&松方のコンビはヤクやウィスキーなどを強奪し、豚づらかましたが、速攻で捕まり、松方さんはムショ送りになってしまった。
タイトルバックで描かれるカンカン踊りや、オカマ掘りなどのムショの赤裸々な実態の数々。そこにディープ過ぎるほどにかけられたフランジャーやファズをかましたギターの音が、脳内に響き軽い卒倒を覚える。
広島刑務所に送られた時、すでにその刑は20年であって、松方さんは自身の人生にもう光が射すことはない、と面会にくる妻にも、
「わしはもう死んだと思ってつかいや」
などと自暴自棄ぎみになっていた。
それでも20年もこんなところにいられるかと、脱獄のチャンスを虎視眈々と狙ってもいた。
医務室。
「こいつ。腹下していて、医務室連れて行け言うてきかんのですよ」
「ああ。どうせ仮病じゃ。もう作業に連れて行け」
背後では清掃係の若山富三郎(以下、トミー)が廊下をモップがけしている。そして窓からは奇妙な建物が見える。
「あれはなんない」
「おう。教えてやれ」
トミー。
「あれはオイナリ監房言ってな、懲罰喰らった懲役があのなかで、ようけ死んだんやわ。それでその亡者が夜になると恨めしゅうてコーン、コーンって鳴く言うことからオイナリ監房言うんですわ」
「(松方さん心の声、以下N)これや」
「ようっ!先生!診察もしないのに、よくなんでもないと分るじゃないの!はよ!診察せえっ!診察せえーっ!」
さらに机の上にあったメスを振りかざし、暴れ回る松方さん。トミーは何事起こっていないかのように床をモップがけしている。
狙い通り、松方さんはオイナリ監房に直送された。
オイナリ監房の床に見える便所の裂け目。一気に松方さんの目つきがぎらつく。
その腕に着いている手錠で床の便所を破壊してゆく松方さん。まさにその姿はデストロイヤーであり、クラッシャーである。
夜、便所の肥え取り口から松方さんの頭がにょきっと現れ、そのまま上半身も現れる。
ドヤ顔をする松方さん。勝利を半分手に入れたかに思えたその時、腰の骨が木枠につっかえて下半身が出てこない。下水、肥、ウンコの上で足をバタバタさせる松方さん。なにこれ、そんなバカなという表情をする松方さん。ゆであがったタコのように顔面を紅潮させて、なんとか肥え取り口から抜け出そうとする松方さん。もう。はやくしないと監守がきちまうじゃねえかよ、と焦る松方さん。とにかくこの時の松方さんの演技、醸し出す雰囲気は素晴らしい。
「もうええ。もうええんじゃ。腰から下がなくなってもええんじゃーっ!」
松方さんがそう腹をくくり、一気に力を入れると、その下半身は抜け出たが、代わりに腰の肉が削げていた。
だがそれにひるむことなく松方さんは、闇にまぎれ、ムショのなかにあった棒を繋ぎ合わせ、塀にかけると、そのまま夜の中に消えていった。
松方さんが直行したのは我が家であった。
しかし妻が脱走してきた松方さんに驚いている間もなく、キツい一発を決め、そのバックスタイルのまま、
「金はあるんか。わしゃ大阪に飛ぶからに」
と言って、大阪で落ち合ったのが恒彦であった。恒彦は松方さんに拳銃を手渡した。
「なにも心配はいらんよ。あんたがあの時、ゲロせんかったから、わしはこうして暮らしておられるんじゃから」
恒彦から拳銃を受け取った松方さんは、夜の街に繰り出し、映画館の便所の鏡の前で拳銃を持ち、一人悦に浸っている。するとそこへ一人の男が現れ、拳銃を持っている松方さんに驚く。
「われ。この便所でカツアゲされたことないんか。被害届けが出てるでの。まあ。気をつけていけや」
「はい」
「(N)大丈夫じゃ。どっからどうみてもサツの人間や」
松方さんが意気揚々と映画館から出ようとすると、さっきの男が警察を連れて、松方さんを指差している。とっさに松方さんは映画館の中に戻ろうとするが、終演後なので続々と人が出てきて中に入れない。焦った松方さんは夜空に向けて、発砲する。
警察も含めてパニックに陥る映画館前。
図に乗って次から次に発砲する松方さん。そこには片岡千恵蔵の『七つの顔を持つ男』の看板が飾ってある。
「(N)どうじゃー。千恵蔵かて、こないにはいくまいにーっ」
するとそこへジープに乗ったMPが到着する。
「(N)いかん!あいつら本当に撃ちよる!往生じゃ!アウトじゃー!」
こうして再び松方さんのムショ暮らしが始まり、さらに刑は加算されてゆくのであった。
「担当さん。担当っ!糞担当ーっ!そこでカバチたれてんじゃたら、わしの言う通りにせーっ!糞担当ーつ!!!」
「あの野郎」
「まあ。待ってくれまへんか。なにしろ気が立ってますさかいに。わしがよう言ってきかせますよって」
とトミー。
「おまえ。そないにいきり立ってもしゃあないやろ」
「なんじゃ。われ。シャバじゃどこぞの組長さんか知らんが、腕章なんかつけて監守の手先になりくさりよって、そんなにいい子になりたんか。ようっ!こんなところに24年も座ってられるほどわしのケツの皮は厚ないんじゃーっ!!」
バシャーッ!おもむろにバケツの水を松方さんに浴びせるトミー。
「われ。それ以上言ってみい。そのドタマ切り落とすぞ。なにされても、かにされても腹のなかじゃ赤い舌出していればええんやないか。なあ」
「(N)ひゃー。すごい貫禄じゃわい。一辺で頭が醒めてしもうたわい」
その頃、同刑務所に収容されている梅宮の辰ちゃんも突破モンぶりを発揮していた。
見張り塔に監守の人質を取り、奪った拳銃でムショ関係者に無理難題を押し付けていた。
「根性があるヤツもいるもんよのう」
松方さん。
「根性があるのもええが、その代わりわしらは飯抜きよ。やるせないわい」
と西村晃。 結局、辰ちゃんは所長である金子信雄に土下座させ、カンカン踊りまでさせるというキャリア公務員としては、これ以上ないという恥をかかせてやったが、だまし討ちを喰らい懲罰房にぶち込まれた。
だが辰ちゃんの存在に松方さんは希望の光を見いだした。
ムショの中で顔の効くトミーに相談し、辰ちゃんを自分と同じ房に移させた。
面会にやってきた恒彦。
「なあ。監守はん。法律にも情けいうもんがありまっしゃろ。固いこと言わず、まあこれ受け取っておくれやっしゃ」
恒彦が差し出したのはタバコの箱で、その中には札束が入っていた。それを確認した監守にして東映の絶倫帝王・名和宏は、
「一口だけだぞ」
と言うと、面会室の入り口に立ち始めた。恒彦が目で合図を送ると、松方さんは弁当を貪り始めた。そしてその天ぷらのなかに、刃物が入っていることに気づいた。
昼。庭で野球をしている時、ボールが塀を超えて飛んで行ってしまった。
「すんまへん。ボール、返してくれんかのう」
西村晃がそう言うとボールが飛んできたが、それを割ってみると、そこにはタバコがどっさり詰まっていた。ムショのなかでは、タバコが現金代わりらしい。
松方さん、辰ちゃん、西村晃の三人は同じ房の人間に、自分たちが脱獄するということを明かした。その代わりタバコをみなに配り、計画に協力しなくてもいいから、黙っていてくれと告げる。
その夜、飛ぶはずだった。
しかし恒彦から渡された刃物は役に立たないことが分り、途方に暮れる三人であったが、辰ちゃんが窓の格子をはめている木枠が案外古いことに気づく。
それを三人でぎゅうぎゅう回しながら外すのに一週間かかった。そして三人は肩車をし、最初に辰ちゃんが塀に登頂するのに成功。続いて松方さんが成功。しかし年寄りである西村晃はロープを使ってもなかなか登ることができない。ゼスチャーでロープを体に巻き付けろ、と指示を出す松方さん。それでもなかなか登ることができない西村晃。
その模様を偶然、就寝前の房の窓から見てしまったトミー。
見廻りの監守が三人に近づいてゆく。房のみんなを叩き起こしたトミーは、電球をショートさせムショを停電にするというナイスサポートをした。
が、突然ムショに警報が鳴り始めたため、パニックに陥る西村晃。ロープで体が結ばれているにも関わらず、右へ左へ逃げようとする。塀を登れば落ちる。登れば落ちる。やはりこういう時に見せる西村晃の演技には、最高と感じさせるものがある。
次にトミーが窓から塀を見た時、そこに三人の姿はなかった。
朝。草むらにケツを沈めている三人。
西村晃。
「ああ。もうピーピーやー。たまらんわー」
辰ちゃん。
「夕べ食った鳥が悪い病気持っていたんだよー。ああ。きったねえ」
松方さん。
「それより。どないだ。このへんで別れようや。三人でおっても目だってまうし」
「それもそうだな。じゃあこのへんでおさらばしようぜ」
三人は互いに別々の路を歩き始めた。
だが辰ちゃんが山から降りてみると、林道に西村晃が立っている。
「なんだ。おっさんまた会ったな」
「なんだじゃありゃせんがな。おまえいい歳して一人歩きもできんのか」
「おっさんこそ、こんなところでなにしてるんだよ」
「まあ。見てろってアメチャンの車止めてみせるさかいに。ヒッチハイクや」
「ほう。おっさん、英語しゃべれるのかよ」
「ペラペラのぺーや。任せとけって」 そこへ本当に米軍のトラックがやってくる。
「おいでなすった。ヘイ!ヘイユウ!ヘイ!ストップ!ストップ!」
おっさんは辰ちゃんの見ている前で、何事もなかったかのように米軍のトラックに轢かれて死んだ。血まみれになって、目をカッと見開いた西村晃の顔のドアップ。
中島貞夫監督&松方弘樹の脱獄シリーズが素晴らしいのは、唐突にやってくる〝死〟と、その死んでゆく者の死顔の最高さにあると思える。
『暴動島根刑務所』で便所で糞垂れている時に、松方さんに頭叩き割られて血みどろになって死んだ金子信雄の死顔。豚が飼えなくなって投身自殺した田中邦衛の死顔。そして米軍トラックにひき殺された西村晃の死顔。どれを取っても最高過ぎる。まるで金太郎飴のように、どこから取り出しても最高の死顔が現れる。
と、そのころ、松方さんは生まれ故郷である四国の山間地にやってきた。その村には妹である大谷直子が住んでいた。
土間のすみに隠れている松方さん。
「あんちゃん。あんちゃんなの」
「飯。喰わしてくれや」
松方さんが便所行っているうちにか、忘れたのだが、ちゃんちゃんこを着て、手ぬぐいを頭に巻いた室田日出夫が現れ、大谷直子にやけに馴れ馴れしく接する。
「和ちゃん(大谷直子のこと)。和ちゃーん。きょうも仕事させてもらいたいんやけど、ええかな」
「ああ。ええよ」
室田日出夫が家の裏手の林のなかに行くと、そこにはさらに川谷拓三と志賀勝がいて、繋いでいる牛の眉間にハンマーを振り下ろす。さらにその場には、のこぎりや大小様々な包丁が用意してあって、彼らは血みどろになりながら、牛の死体を素早く解体してゆく。
その様子をやぶのなかからじっと眺めている松方さん。室田、川谷、志賀の三人は無許可で牛を屠殺し、解体しているのだった。
家に戻った室田は、大谷直子に金を渡すと、血まみれのエプロンを外し、
「和ちゃん。和ちゃーん。きょうは、なっ、ええやろ」
とビンコ起ちになっている下半身を、コントロールできない様子であったが、大谷直子は、
「きょうはやめといて。なっ。お風呂涌いてるによって」
と室田を拒絶し、風呂にうながすのであった。
そこに松方さんが現れる。
「和子。おまえ、いくらもらっとるんじゃ」
そう言って松方さんが大谷直子のポケットを探ると、出てきたのははした金であった。
屠殺現場に戻り、解体された肉が入っている箱をぶちまけようとする松方さん。
「あんちゃん。やめて!そんなことしたら殺される!あいつらはここらで幅を効かせている三国人なんよ!やめて!」
「おまえ。あいつらにうまいよう使われているだけなんじゃ。みちょれい」
その騒ぎを聞き、川谷、志賀、さらに風呂から飛び出してきた素っ裸の室田がやってきた。
「なんじゃい。おまえは!どこぞのもんじゃい!」
「どこぞのモン言うてよ。この娘(こ)の親類筋のもんじゃがのう。あんたらこの娘に安いショバ代払うてよ、鑑札なしのハクい商売しとるじゃないの。見逃してやるから3000円出せや」
「出さなかったら、どうする言うんじゃ」
「この荷を押さえるまでよ」
「アホぬかせーっ!」
襲いかかってくるピラニア軍団トリオ。
「このガスタレどもがーっ!一人残らずぶち殺しちゃるんぞーっ! 」
角材を振り回し、ピラニア軍団をめった打ちにする松方さん。素っ裸の室田はさすがに、これには降参するしかなかった。
その後、四人共同で闇の屠殺に精を出す松方&ピラニア軍団。
血まみれ、血みどろになって牛や豚をばらしてゆく様は、まさにスプラッター。無造作に捨てられた骨が小川に転がり、その流れが真っ赤に染まる。
まさに中島貞夫監督のアナーキーな側面が全面展開される。夢にまで見た悪夢のようなシーン。それでいて屠殺っていうのは、こういう風にやるんだというリアルなシーン。
こうして松方さんと大谷直子は、闇の屠殺でがっつり稼いでいったが、調子に乗った松方さんは女郎屋で喧嘩を起こし、再び逮捕されることに、しかし自由の匂いを満喫した男の突撃列車が、そんなことであきらめる訳がなかった。
「お巡りさん。よう。手錠と手が擦れて、かゆくて仕方ないんじゃ。メンソレでもいいから塗ってくれんかのう」
「メンソレなんて、どこにあるんじゃ」
「机の引き出しじゃ」
お巡りが机の引き出しを覗くと、松方さんはそのケツに蹴りを入れ、そのまま遁走した。
そしてそのままある邸宅に忍び込むと、そこで目にしたのはごつく飾ってある甲冑であり、松方さんの頭の中にあるアイデアが閃いた。
やがて警官がやってきて、邸内に潜んでいるはずの松方さんを探し始める。
「ほう。立派な甲冑もあるもんじゃのう」
その警官が目の前からゆくと、甲冑の面を外し、大きく息をする松方さん。とそこへ、別の警官が現れ、その警官と目と目が合う。数秒間、間が空く。
「いたどーっ!ここにおったどー!」
一斉に集まり、松方さんを押さえ込む警官たち。
「アーッタタタタタ!痛っ!」
またもや刑務所に戻された松方さん。
第六工場で働いている時だった。
「これあいつがあんたにって預かったものですけん」
そう言って松方さんは、遠藤太津朗にこっそり手紙を渡した。
「あいつはわしがもう捨てたアンコじゃけん。そがなもんいらんわ」
手紙を読み始める松方さん。
「あなたに捨てられたあの日から、わたしの胸は小鳥のようになり、ご飯もろくに食べられないのです。どうかわたしを捨てないでください。ちゃっ!やってられんわい!」
その頃、辰ちゃんも再び捕まり、広島刑務所に収容されていた。
小松方正に呼び出しを喰らう辰ちゃん。辰ちゃんなんかが脱走している間に、第八工場はシャバでは組長である小松方正の手に落ちていた。
「どうや。おみゃーさん。シャバでは按摩やってたそうやないの。毎日、わしの肩を揉んでくれんかのう」
倉庫内には、方正の手下たちもいる。
「どこで聞いたか知らねえが、おりゃ按摩なんかやってねえよ。第八工場はあんたのもんだ。そのことにケチ着けるつもりはねえ。だけど俺にはかまわないでくれよ」
「そんなこと聞いとりゃせんがな。わしの肩を揉めん言うのか」
「ああ。揉めねえよ」
辰ちゃんがそう拒否すると、積んであった一斗缶が崩落し、大けがを負わされた。
「(N)もう20年喰らっとるんじゃー!それが30年になり40年になり、50年になり、80年、90年。もう死んでももう同じことじゃーっ!」
そう心のなかで呟くと、松方さんは小松方正の元へ直行し、隠し持っていた刃物によって、ハレーションが起こる白昼、方正をあっさり刺殺した。腹からどっぷり血が溢れかえった方正の死顔が素晴らしかったのは
言うまでもない。
数日後。
教導の時間、坊さんがみんなの前で説教をしていると、松方さんの後ろに伊吹吾郎が座り、
「わたしはあなたに殺された坂戸(方正のこと)の舎弟のモンです。あなたには怨みもつらみもありませんが、ここであなたに会って何もしなかったとあっては、わたしも極道としてこの後、食べてゆくことができません。勝負してくれませんか」
「ああ」
「じゃあ次のめんようび(?)ということで」
「(N)ありゃ。ほんまの極道じゃー。次は負けるかも知れん。勝ったら勝ちじゃー。今時、男らしく正々堂々と勝負もあるけーっ!」
そうアナーキー過ぎることを、内心で呟く松方さん。
懲役の入浴時間。
それは男たちが横一列に並んで、一斉に湯船に入り、一分足らずでまた一斉にそこから出る。その列の中にごつい彫り物をした伊吹吾郎がいた。その背後にすっーと近づく松方さん。
「ワレ勝負するんけえ」
「だからそれは次のめんようびに」
「めんようびもクソもあるけえーっ!」
またもや隠し持っていた刃物で、伊吹の土手っ腹を突き刺す松方さん。湯船が血の海に変わる。ケツさらして逃げようとする伊吹の頸動脈を切り裂き、とどめを刺す松方さん。
当然、パニックに陥った風呂場であったが、伊吹を殺害したことによって松方さんの刑は41年七ヶ月にふくらみふくらんでいた。
猿ぐつわを噛まされ後ろ手に拘禁された松方さんは、ドブネズミが這いずり回る地下房に叩き込まれた。だが、不屈のフリーダムファイターである松方さんは、飲料用のアルミカップを足で成形すると、それをカッターにして、拘束具を切っていった。
少しは反省しただろうと、警務課長たちが様子を見に行くと、そこには猿ぐつわも、拘束帯も外した松方さんが、ニヤッと笑っていた。
警務室に移された松方さん。
「貴様は人間じゃない!反省というものがないのかっ!」
「わしが人間じゃなかったら、それを扱うあんたも人間じゃないのう」
言うやいなや、机の上にあった刃物で警務課長の顔面を斬りつけるデストロイヤーであり、クラッシャーである松方さん。
「殺せ!責任は俺が取る!殺せーっ!」
椅子とかでめった打ちにされ、どつかれ蹴られするする松方さんは頭から流血し、血まみれになる。だがことごとく、道徳や秩序を破壊する男の突撃列車・松方弘樹の存在は、権力にとって脅威、恐怖以外のなにものでもなかったであろう。
裁判所の待合室で座っている松方さん。
窓越しに若くてぴちぴちしている女の姿が見える。
「(N)この時みえたんじゃーっ!あきらめかけた社会への窓が見えたんじゃーっ!」
またもや心の声に従った松方さんは、ランナウェイを決めこんだ。
再び四国の山間地。
ふいに現れた松方さんにびっくりする室田日出夫。
「なんや。あんたまた脱走したんか。こりゃどうも日本のジャン・バルジャンみたいじゃのう」
「あっちのほうはどうなんじゃ」
「それがサツがうるさくてのう。さんざんなんじゃ。どうや。また手伝ってくれんかのう」
「ああ。やったる」
「ほうか。ほうか。そりゃええわ。あんたがいれば鬼に金棒じゃ。じゃあ。あとで和ちゃんの家でな」
その後、松方さんに待ち構えたものとは果たして?
だがラストカットは線路の上を、大根をかじりながらカメラに向かって歩いてくる突撃列車の姿であった。
貞夫&松方の脱獄DAYSは永遠に続く。