またしても神代辰巳の作品、『黒薔薇昇天』を見る。
そして気づいた。なぜ神代作品が自分の感性、映画の見方になじまないのか。
妙な技法を多分に使っているのだ。例えばこの作品なら、長回しが多い。セオリー通りに撮ると、カットで割って行くところも、逆に割らないで、ほとんどワンシーンワンカットのような長さで撮っている。
あとこれは編集で行っていると思うのだが、時制をかなり飛ばしたりしている。現在の中に未来があり、すぐ現在に戻り、次のシーンではその未来に続いているというように、構造的にはかなり難解にできているのだ。
神代辰巳のそういったロマンポルノでありながら、かなり前衛的手法を用いるという姿勢を評価する者がいるということは分るのだが、東映育ちのプログラムピクチャー好きな自分としては、そういった一種の芸術性を指向した作品には違和感を感じてしまう。
ただロマンポルノという枠組みは、濡れ場さえ用意しておけば、そういったことも許された訳で、まだまだ未開拓なロマンポルノ作品は見て行きたい。
物語的にはすごく単純で、その単純なところを、芸術的に、しかもポルノなのに、撮っているので余計に違和感を感じる。
岸田森はブルーフィルムの監督で、南紀白浜で撮影にいそしんでいた。男優と本番にいそしむ芹明香。またしてもだるい芹明香。
ブルーフィルムの撮影の模様を、ドキュメンタリー的にポルノ映画が撮っている。それもまた不思議な感覚である。
いつでも汗だくになっている岸田森が印象的。「帰ってきたウルトラマン」からロマンポルノまで、本当にこの人はなんでもやるんだなと思った。
そんで芹明香は、男優のタネを宿してしまい、腹ぼてになり、使い物にならなくなってしまった。
岸田森は熱弁を振るう。
「わいらのやっていることは芸術なんや!セックスの解放や!どんな生き物かて見てみい!花でもそうや! 雄しべと雌しべがファックするから新しい生命が生まれるんやないか!ファックを記録してなにがいけないんじゃ!」
「そなこと言うたかて、わいもう使い物にならへんし、この仕事辞めるわ」
だるく芹明香が言う。
岸田森は風呂敷に録音機を偲ばせて、動物園で動物の鳴き声を録っていた。それを加工して女のあえぎ声にするのだ。そういったアナログ時代の映画作りを見れるというのも、まあ面白い。
そんである日、歯医者で歯を削られている谷ナオミの声を密かに録っていたら、岸田森はきづいてしまったのである。これはとんでもない上玉だと。そんでなんとか谷ナオミをブルーフィルムに出演させられないかと、作戦を決行。
「わい。だんなはんから依頼された探偵社の者でんねん」
「な、なんですか?探偵社って?」
「いや。だんなはんが奥さんが浮気してないか調べてくれ言うもんで」
「そんな。あの人が。私、精一杯尽くしてますのよ」
谷ナオミが夫のアナルをなめている映像がインサートされる。
和服に日傘をさした谷ナオミ。貞淑でいいとこの奥さん風の谷ナオミ。そんでも、もうおじいちゃんではあろうだんなのアナルをなめている谷ナオミ。
初めのアタックではナオミに逃げられてしまった。遊園地のカプセルのような観覧車のなかで、なおも迫る汗だくな岸田森。そんでなんとかナオミを自宅兼、撮影スタジオ(スタジオと言っても川っぺりの掘建て小屋なのであるが)、兼編集所に呼び寄せることに成功した。
「わて、探偵社の仕事の他にも仕事してまんねん。昔、鴨川プロダクションいう映画会社がありましたやろ。あっこ潰れてもうて、まあ活動屋のはしくれですわ。そういってもやってることは芸術でっせ。大島渚はんや今村昌平はんにも負けしまへんで」
とか言って、
「わいの作品、見て下さい」
とか言って始まったのが、おそらくスウェーデン産のポルノ映画。
「この金髪の娘、わいがスカウトしましたんや。そらもう苦労しましたで」
とか、嘘か誠か分らないことを並べ立てている。まあ、嘘なんだけど。
ナオミのほうは、
「なんやのこれ?止めて下さい」
とか言っている。そんでもう岸田森は、辛抱たまらなくなって、ナオミを押し倒し、自分の珍棒を握らせ、
「こいつをどうか。どうかなんとかしておくれやっしゃ」
とか汗だくで言っている。そんでもって、暗幕を貼った暗がりの部屋で、ポルノ映画の灯りが明滅する中、岸田森とナオミのくんづほぐれつが始まっただが、タイミングを見計らって、カメラマンと照明が突入。そのままブルーフィルムの撮影が決行されたのであった。
ナオミのほうは完全に面食らって、あわてふためいたが、岸田森としてはここで逃してなるものかと、ファックを継続。汗だくの岸田森の腰のグラインド運動に、ナオミは果てるしかなかったのであった。
「どういうことやのこれ!?私をだましたの!?」
「アホ抜かせ!このガキャ!わしがお前みたいな女に惚れたとでも思っとんのか!」
岸田森は態度を豹変させ、ナオミの頬にビンタを喰らわしたのであった。
「なんなら二回戦したろっか!よお!」
神代辰巳の撮り方やなんかには、大いに違和感を感じるのだが、この岸田森の演技は素晴らしいと認めざるをえない。
その後、二回戦に突入。すでにナオミは岸田森の性の奴隷になっていて、廊下をふたりでローラースケート履いたままファックするのは、神代流ギャグか?
そんでもってごっつええポルノ女優を手に入れたと、岸田森以下、数名のスタッフは南紀白浜に意気揚々と乗り込んでくる。そこについてくる腹ぼての芹明香。なにしろ夫が男優。
撮影がスタート。ビール瓶のケースをアクリル板の四隅に置いて、下から撮ったりしている。それを狙っているカメラマンを映したり、逆にカメラマンの主観になって、アクリル板越しにナオミのケツのアップを撮ったりしている。
「ええどー。ええどー。まだや。まだいったらあかんどー。横やん(なんかカメラマンの名前)もっと回り込んで、引きからいこか」
「あんた。いったらあかんよ。私の女以外でいったらあかんよ」
「お前は黙っとけ。横やん、今度は下から狙おか」
「これはふたりだけの約束なんや!」
バックからナオミを突いているうちに、どんどんヒートアップしてくる男優。
「いったらあかん!いったらあかんて! 」
「まだや!まだや!」
「ああ~。ああ~」
「はっ!うっ!」
宇宙の果てまでいってしまった男優にして、芹明香の夫。そのケツに蹴りを入れる岸田森。
「アホか!このガキャ!まだや言うてるやろ!」
「まだ5分と回ってないがな。これじゃ使いもんにならへんで」
と、横やん。
芹明香に問いつめられて、素っ裸のまま、階段から転げ落ちる男優。
部屋には恍惚の表情を浮かべた谷ナオミと、それを優しく愛撫する岸田森の姿があった。
「大島渚はんや今村昌平はんにも負けしまへんで」
と、言っているブルーフィルム監督の岸田森とは、神代辰巳の分身なのではないのか?神代辰巳はロマンポルノという与えられたフィールドの中で、芸術を作らんとしていたのではないのか? だから密かに大島渚や今村昌平に対抗心を燃やしていたのではないか?
しかし自分はしがないポルノ監督。それが岸田森演じるキャラクターに投影されているのではないのか?
まあ。自分の中で、なぜ神代辰巳が苦手なのか、はっきりしてきた作品だった。