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執筆者の写真makcolli

夜の最前線 女狩り

某日。ラピュタ阿佐ヶ谷でレイト特集中の「盛り場最前線 男と女のブルース」のなかの『夜の最前線 女狩り』(69年)を観てきた。

日活作品なのだが、65年ぐらいまではあった明朗で闊達な日活調というのは微塵もなく、夜にうごめく男と女の諸事情をモンドな感じで描き出している。

田舎から東京に憧れ出てきた和田浩二と緑という女は、純情であったが、連れ込み旅館にしけこみお互いの体を求め合っていた。

そして新宿は花園神社の境内を歩いている時、地元のやくざ東声会にからまれ、和田浩二はボコボコに、緑は拉致される。女を連れ去られた和田浩二は逆上し、ラーメンの屋台のおっさんが静止するも、とにかくやくざの顔面をアスファルトに叩き続け、半殺しの目に。

そして収監され、四年の刑期をくらうのであった。

ここからタイトルバックになるのだが、その短い時間の中で、和田浩二はムショの生活を耐え忍び、緑はやくざの女に堕ちてゆく模様が描き出され秀逸。

そして俺が本当に驚愕したのが、このタイトルバック、そして劇中の挿入歌として流れるのが、「夜のワーグナー」の異名を持つ作曲家・藤本卓也の作品、歌うはその門下生・矢吹健の「あなたのブルース」であったり、「真っ赤な夜のブルース」、「うしろ姿」などであるという事実であった。

こういった系統の作品を見る時、どんな歌手が出てきて挿入歌を披露するのかというのが一つの見所なのであるが、あまりにも人間の業を深く焼き付けた藤本卓也の歌、そしてそれを歌唱として具現化した矢吹健が登場するとは予想だにしていなかった。ちなみに矢吹の曲はどれも中毒性が高いが、なかでも俺の脳内で繰り返し鳴るのは「夜は千の目を持つ」である。

このディーブ&ソウルな歌唱がスクリーンから鳴り響いてきただけで、俺の満足度は120%を迎えていたのだが、蛇足になるが藤本卓也は録音時竹刀を持っていて、納得がいかないと、スタジオ内で矢吹健をめった打ちにしたそうである。

そんな血の滴るようなヘビーさが矢吹の唄には刻印されている。だがまがりなりにも映画の挿入歌として曲が採用されるということは、ほんの一瞬かもしれないが「矢吹健の時代」というものがあったのかもしれな

い。

そんで映画のほうなのであるが、出所した和田浩二はすっかりやさぐれていた。そして新宿の街に舞い戻り、この街でのしあがってゆくことを目論んでいた。

まずはムショにいる時も面会に来てくれたラーメン屋のおっさんの屋台へ挨拶に行った。そこでおっさんに緑と言う女を捜しているということをぼやくと、同席していた藤竜也が、

「緑・・・。そう言えばベラミっていうスナックにいたんじゃねえかな」

と教えてくれたのであった。藤達也はかつて新宿を取り仕切っていた組の構成員だったが、新興勢力の東声会に圧倒され、組は解散。現在は新宿の街でくすぶっているのだった。

ベラミにやってきた和田浩二は、その女が人違いだったことに気づく。しかしことのついでだとばかりに女の誘いに乗り、「連れ込み旅館でヒーヒー」(by 三上寛)ということになった。

そこにベラミのバーテンが現れ、

「お客さん。これはどういうことなんです。うちはホステスとの同伴はお断りなんですけどね。おいっ!払うもの払ってもらおうじゃねえかよっ!」

と凄むのであったが、

「払ってやら。その封筒の中に俺がムショを出る時にもらった三千円があらあ」

と言ってのけるのであった。その姿は、かつて青春ものでさわやかに決めていた和田浩二がやさぐれたというリアル感がありありなのであった。

「てめえ!最初から銭払う気はなかったんだな!」

「それよりおめえんとこの社長に会わせろよ」

和田はまるで押し売りのようにスナックに転がり込み、強引にマスターに就任。ここから和田の新宿乗っ取り作戦が開始されたのだった。

ベラミの社長もじゃんじゃん売り上げを伸ばす和田の手腕を信用し、バーテンも、「マスター。マスター」

と和田のことをおだてるのであったが、和田はじゃんじゃん酒を仕入れ、その収支報告所をちょろまかし、さらに売上金をポッポッするというダーティーな側面も持っており、そうかと思うと流しの役で実際に出演する矢吹健をなにかと目にかけてやったりと、面倒見のいい側面も見せるのであった。

ある日、和田が花園神社を通りかかると、どっから見ても田舎者カップルがフーテングループに絡まれていた。そいつらに鉄拳制裁を加え、カップルを救う和田。うちの店で働けよ、とまたしても面倒見のいいところをみせる和田。しかしカップルは荷物をフーテンに取られてしまったと言い、和田はフーテンたちが根城にしているアングラクラブに潜入することに。

そこではおっぱい丸出しの女が、蝶々の形のアイマスクをして、ギター抱えながら、

「♫ 命短し 恋せよ 乙女」

と歌っているのであった。俺、こういう映画好き。

フーテンのリーダーは「ゲバラ日記」を読んでる岡崎二郎で、葉巻をふかし通称カストロと呼ばれる学生運動崩れの男だった。ことの経緯は省くとして、このカストロと和田は意気投合し、さらにそこへ藤竜也が合流し、三人で新宿でどでかいことをしてやろうと息巻く。

そこへ名前は失念したが、トルコ王の異名を持つ華僑が、どでかいキャバレーを開くという情報が入る。トルコ王と渡りをつけた和田は、一人五万円の手数料という約束でホステスになる女をかき集めてくるという約束をする。

和田はベラミのホステスを大量に引き抜き、カストロはフーテンの人脈を使って、藤達也はやくざの流儀で、ときには金を使い、時には性戯を使って女をたらし込んでゆくのであった。そのなかにはデパートガールやジュクの街で退屈そうにしている家出娘もいた。

そして開店したキャバレー・メッカのステージには、流しから這い上がった矢吹健が堂々と「うしろ姿」を歌う姿が。

しかしトルコ王は東声会と繋がっており、東声会の幹部から、

「あの野郎はうちの若い衆を半殺しの目にあわせて、四年もくらいこんでいたヤツですぜ」

という忠告を受けると、和田のことを警戒し、和田が約束の金を取りにくると、一人五万円のところを三万円に値踏みするのであった。言い争うトルコ王と和田。

それをシャワールームで聞いている一人の女がいた。

和田が帰ったあと、シャワールームから腰にバスタオルを巻いて現れたのは緑であった。そのタオルをトルコ王がはぎ取ると、そこにはしっかりと装着された貞操帯が!緑は完全にトルコ王の性の奴隷となっているのであった。

貞操帯の鍵を外し、彼女の肉体をむさぼるトルコ王。俺、こういう映画好き。

その頃カストロは国税局に電話をし、ベラミの社長が脱税をしていると通報するのであった。逮捕される社長。すべては和田、カストロ、藤達也が仕組んだベラミ乗っ取り計画であったが、和田一派の新宿でのこれ以上の台頭を危惧した東声会は、まず藤竜也を罠にかけムショ送りにし、和田を襲撃。これ以降和田はビッコになった。

そしてベラミにいたカストロも襲撃。しかしボコボコにされた岡崎カストロは、

「助けてくれ!仲間にしてくれ!」

と懇願。だがこれはゲバラがボリビアに潜り込んだように、東声会の内部に入り込むという岡崎カストロのスパイ作戦であった。

出所した藤竜也は和田に、

「カストロの野郎!裏切りやがって!許せねえ!」

と息巻くが、そこへカストロが登場。東声会の重要な資金源になっているのがコールガールを斡旋していることを掴んでくる。ここを叩けば東声会は相当なダメージを喰らうだろうと、三人はまたもやフーテン、やくざの人脈を駆使して、コールガールのビラを新宿中の電話ボックスにばらまく。そして客が連れ込み旅館でヒーヒー言っているところへ、

「おい!おっさん!これどういうことなんだ!」

と因縁をつけ、

「文句があるなら東声会に言うんだな!」

とすべての責任を東声会になすりつけるのであった。

その頃、緑は監視の目を盗み、花園神社で和田と逢い引きをしているのであった。しかしそのことがトルコ王にバレ、貞操帯姿で縛り付けられ、その肌にナイフの刃を当てられ、その肌から赤い血を滴らせるのであった。俺、こういう映画好き。

いよいよ和田一派を潰さなくてはと乗り出してきた東声会とトルコ王は、カストロの女と藤竜也の妹を拉致するのであった。

任侠映画よろしく単身、敵地に乗り込んだ藤竜也はボロ雑巾のように殺された。

キャバレーメッカに杖突いてビッコ引きながら乗り込んだ和田をかばうために緑は狙撃され死んだ。万事休すかと思われたが、そこへ岡崎カストロ率いるフーテンたちが、ヘルメットにゲバ棒、火炎瓶を持ってなだれ込んできた。

岡崎カストロはゲバラの「ゲリラ戦争」を読んだことはあったのだろうか?

やくざとフーテンたちのくんずほずれつの戦いがキャバレーで展開される。そして緑の亡骸を抱きすくめる和田。

「緑!緑!」

ここまできて、メロドラマ調なのかよ、とも思う。これが梅宮の辰兄だったらトルコ王に向かって冷たく、

「ふん。そんな売女てめえにくれてやるぜ」

と吐き捨てたに違いない。ここにロマンポルノとしてしか生き延びれなかった日活と、70年代に突入してからもパワフルでアグレッシッブな作品を生み出し続けた東映との違いがあると言ったら大げさになるだろうか。

結局、東声会の組長とトルコ王は警察に捕まったと思う。そして岡崎二郎とその女は北海道に行くということになり、

「あんたはどうするんだい?」

の岡崎の問いに和田は、

「転んでもただじゃ起きない男さ。この街でなんとか生きてゆくさ」

と言い。新宿の雑踏の中に消えてゆくのであった。

やくざな世界とスケコマシ、そしてアングラ文化。昭和元禄な1969年の世相。そんなものがごちゃまぜになった佳作であった。

俺、こういう映画好き。

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