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執筆者の写真makcolli

ピラニア軍団 ダボシャツの天


某日。銀座シネパトスにて特集上映中の「川谷拓三映画祭」に行ってきた。ちょうど、『3000回殺された男 拓ボンの体当たり役者人生』を読了したので、グッドタイミングだった。

第一ラウンドは『ピラニア軍団 ダボシャツの天』(77年。山下耕作監督)と、『狂った野獣』(76年。中島貞夫監督)の二本。

『ピラニア軍団 ダボシャツの天』は、タイトルにピラニア軍団と付いていて、あのむさ苦しいメンバーたちが総出演ということもあって、どんだけエゲツナイ映画なのかと勝手にイメージを膨らませていたが、ふたを開けてみるとぜんぜん違っていた。

主役は川谷拓三なのであるが、この人には不思議な魅力がある。深作欣二の実録任侠路線ではズタボロに殺されてみたり、ものすごいテンションの高い演技を見せつけてみたり、時には怯える子犬のような演技をみせたりと、恐ろしくアクは強い人なのだが、どこかに憎めない可愛らしさのようなものがあるのだ。

であるがゆえに、拓ボンは単なるキワモノ俳優としてではなく、現在も熱い支持を集めているのだと思う。

それで本作のなかの拓ボンは、その可愛らしさの面が前面に出ている。大阪は通天閣界隈を根城にしている通称・ダボシャツの天はうだつの上がらないチンピラだが、いつかは男になってやろうと、金バッチをつけてやろうと奮戦する。

兄貴分の夏八木勲(彼の三枚目ぶりが非常に効いている)から可愛がられているが、やることなすことドジを踏むばかり。

夏八木勲に、

「今度わいはスナック開くことにしたんじゃ。ハクいスケの一人や二人こまして連れてこいや」

と言われ、天王寺公園でオモチャの猿を売っていたところ、偶然奈良の山奥の十津川村から出てきた夏という少女と知り合い、だまして夏八木勲のもとへ連れてゆく。

そこでは夏八木勲がふんどし一丁で、「うっしししし」と待ち構えていて、夏に襲いかかる。すんでのところで家に夏八木勲の女房が帰ってきてセーフとなったが、拓ボンは夏に売春をあっせんしてみたりするが、結局良心がとがめてしまい成功せず、

「わいはおなごの一人もこませない、なさけないやっちゃな~」

と自分でも自分にうんざりしてしまう。夏の寝顔を見ていた拓ボンは、股間をいじくっているうちに果ててしまうのであった。

ストーリーの一つの主軸は、ダボシャツの天と夏の純愛にある。うだつのあがらないチンピラと田舎から出てきた少女の恋。

だがこの作品は他の東映実録任侠路線のように、チンピラの生態を生々しく描いている訳でもない。見ているうちに、これはヤクザ映画の形を借りたスラップ・ステックコメディであると、開き直るように見ることができた。

例えば夏八木勲は敵対している組織の鉄砲玉にドスで刺されても死なない。そればかりか全身に刀傷があって、それを男の勲章だ!、と自慢している。

夏はその後、喫茶店のウェイトレスの仕事を見つけるが、

「夏ちゃ~ん!」

と言って登場した現在で言うならオネエチックな小松方正に、拓ボンが速攻でビンタを見舞ったのには笑った。

さらに夏のアパートに現れた小松方正は、夏が部屋にいないと分るとタンスからパンティーを出してきて臭いを嗅ぎ、

「かぐわしい匂いだわ~」

とか言っているところに、押し入れに潜んでいた拓ボンにまたもやぶっ飛ばされるはめに。小松方正はどの会社で、どんな役で、出没するのか予測不可能であるために登場した時になにを見せてくれるのか、という期待もふくらむ。

ストーリーはその後、関西連合と九州連合の糞尿処理の利権を巡る戦いが勃発し、ただのチンピラでしかないダボシャツの天は自費参加ということで九州に乗り込むのだった。

その前に、河原で夏との別れのシーンにおいて、夏は天が死なないようにと自身の陰毛をお守りに天に持たせるのだった。夕暮れの中で。

九州に行くと、夏八木と縁浅からぬ男、50人斬りの異名を持つ室田日出夫が待っていた。九州に乗り込んだもののこう着状態になっていたが、その均衡を破ったのは志賀勝が夏八木勲にションベンを掛けたことであって、一挙に抗争は勃発。

天も出刃包丁を振りかざしながら、

「殺っちゃるぞー!殺っちゃるぞー!」

とわめきながら、九州連合を追い回すが、味方が一人もいないということが分るとおじけだし、側溝へ身を隠すのだった。そこで夏の陰毛を拝みながら涙ぐむ天。

橋の下に辿り着いた天であったが、そこに毛布にくるまってガタガタ震えているやつを発見。毛布をはいでみると、志賀勝であった。川のなかで戦い始める拓ボンと志賀勝。

そこに夏八木勲と室田日出夫の決闘がインサートされる。夏八木勲と室田日出夫の息を飲むような戦いには落雷が落ちた。

拓ボンと志賀勝の戦いは、ガキのケンカのようになっていて、お互いにお互いの顔を引っ掻いたりするような子供じみたものになっていた。それを半べそで行う二人。

シーン変わって明くる朝。夏八木と室田の姿は爆発したドリフのコントみたいになっていた。

河原では志賀勝が泣き濡れていた。

「ど、どないしたん?」

と聞く天。

「わし本当は小心者なんでごわす。だから夕べも毛布にくるまってションベンちびってたんでごわす」

「小心者ならワイも一緒や。ほんまは戦争なんてしたくないねん」

こうして二人の間には奇妙な友情が芽生えるのだった。

九州連合と関西連合の組上層部は手打ちを決め、今回の出入りは中止ということになった。

それでも武闘派の夏八木勲は全身を包帯でぐるぐる巻きにされながらも、

「雲の上で何が話し合われたかは知らんがわしは最後まで戦うぞー!」

と言ってはみたものの、機動隊に包囲され大阪へ帰ってゆくのだった。

そしてダボシャツの天と夏が、通天閣の下で元通り平和に暮らすというところでラスト。

東映も天から降って湧いたようなピラニア軍団ブームを、黙って見逃すことはないと思って製作したのだろうか?

拓ボン主役抜擢はある意味快挙であったが、拓ボンも含めやはりピラニア軍団はスクリーンのはじっこでゴミくずのように殺され、その殺されぎわをいかにアピールするかというところに本領を発揮するように思う。

頭の中からっぽにして笑うには、ちょうどいい映画ではあったが。

この日はトークショーもあり、ピラニア軍団陰の参謀と呼ばれた(?)俳優の野口貴史さん。また生前から拓ボンと親交のあった編集者・演出家の高平哲郎さん。そして拓ボンの息子にして俳優の仁科貴さんによって、おいしい話を聞くことができた。

拓ボン伝説、ピラニア伝説はあまたあれど、それが本当の話で、また聞き伝わっている以上にすごいエピソードなので爆笑してしまった。

例えばピラニア軍団は酒癖の悪い連中として知られているが、撮影中、二日酔いでセットの裏に行ってはげーげー吐いていたなど。

併映の『狂った野獣』は、東映のミッドフィルダー中島貞夫監督による何回見ても飽きることのない傑作ノンストップバイオレンスアクションムービー。

銀行強盗に失敗した拓ボンと片桐竜次は、バスジャックを決行。そのバスには宝石強盗犯である渡瀬恒彦が偶然にも乗り合わせていて、その手に持つバイオリンケースの中には宝石がどっさり入っていた。

フォーク喫茶で「小便だらけの湖」を熱唱する三上寛。京都市内を爆走するバスの模様を、アフロヘア時代の笑福亭鶴瓶がラジオにて実況中継。歩道橋の上で、「捕まえちゃる。捕まえちゃる」とうわごとのようにつぶやく室田日出夫は、バスに乗り移ろうと飛び降りるが、そのまま転落死。ついでにバスの運ちゃんも心筋梗塞であの世行き。

それでも爆走するバスの中で、チンドン屋の志賀勝は遺言を書き始める。バスに乗った者たちの運命は!そして恒彦がパクってきた宝石のゆくえは!

というまさに一秒たりともスクリーンから目が離せない作品。やっぱこういうののほうが拓ボンは生き生きしているな。

この日はてんこ盛りで、さらに勝プロ製作。勝新監督・主演の伝説の刑事ドラマ「警視 K」が上映された。この作品にフリーになった拓ボンが出演しているのである。

しかしこの作品。勝新の「リアリズムを追求したい」という欲求のもと製作され、それを追い求めるあまりに、当時は音声はアフレコが常識であったのを、同時録音で撮影。が故に、台詞がなにしゃべっているのかほとんど分らないのである。

さらに勝新のいちいち映像文法から逸脱してゆくキャメラワークも相まって、「リアリズム」ということを通り越して、すでに「シュール」な領域に足を踏み込んでいるのであった。

拓ボンは勝新刑事に情報を提供する情報屋ということなしいが、

「こういうのをアメリカではCI○と言う○○○。でもここは日本だから○○○○○」

と台詞がよく分らなくて、それに答える勝新の台詞はさらに何言っているのか訳分んなくて、最初から最後まで勝新の大いなる映像実験が展開され、見ているこちらはボーゼンと見ているしかなかった。

よくこんなものがテレビで放送されていたなとも思うが、そういう未踏の領域に挑んでやろうという心意気がなくなってからテレビにしても映画にしてもつまんなくなってしまったことは確実だろう。

がゆえに勝プロは倒産したのかもしれないが。

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