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海人の化物屋敷

  • 執筆者の写真: makcolli
    makcolli
  • 5 日前
  • 読了時間: 14分

なぜあんなにも新東宝と言う映画会社は、「海女映画」を量産したのだろう。時代は50年代の後半。映画のスクリーンがまだ、銀幕と呼ばれ、そこに映る俳優、女優は銀幕のスターと呼ばれていた時代である。


当時、日本の映画産業は全盛時代で、テレビの普及率も低く、庶民たちは娯楽を求めて映画館に詰め掛け、銀幕のスターたちに熱い視線を送った。


それなのに新東宝という映画会社は、「海女映画」をこれでもかと言わんばかりに作っていった。


小津安二郎が『東京物語』、成瀬巳喜男が『浮雲』を撮っている時代にあって、新東宝という会社は「海女映画」を量産していった。


そこには活弁士あがりの新東宝社長、大蔵貢のこのような考えがあった。


「狸映画を撮れ!狐映画を撮れ! 各社が気取った映画を撮っているうちに、うちはお化け映画を撮るんだ!」


この社長命令によって新東宝は、エログロナンセンス路線をひた走ることになるのだが、中でも力を入れていたのが、「海女映画」ではないかと思う。


しかし、大蔵貢の現在から見ても先鋭的すぎる考えが災いし、新東宝は1961年に倒産した。まさに邦画界の徒花として新東宝は咲いた訳であるが、その作品群は現在も一部の好事家たちに愛されている。


また新東宝からは多くの人材が輩出された。丹波哲郎、天知茂、宇津井健、菅原文太、吉田輝雄。女優なら三原葉子、万里昌代、前田通子、小畑絹代と言ったところであろうか。また監督としては、のちに東映に移り「網走番外地」シリーズや、「異常性愛路線」シリーズを手掛けた石井輝男も新東宝出身であった。


前置きが長くなったが、三原葉子は親友由美(瀬戸麗子という女優であるが、なかなかに可憐である)が精神的に参っていると言うので、彼女が住んでいる房総半島にある海女部落にある家を尋ねた。


三原葉子が、その家に向かう途中、岩陰から早くも新東宝映画につき物のせむし男が、三原葉子を見つめてはニタニタ笑っていた。


由美の家は、海女部落には似つかわしくない西洋風の邸宅で、その室内には仏像、西洋の甲冑、肖像画、剥製、アフリカの仮面などが飾られていた。その応接室で話し始める三原葉子と由美。


なんでもこの家、青山家では不幸が続き、それに伴い不気味な出来事が起こっているというのだ。


まず漁師である兄が、嵐の日に漁に出て遭難。そのまま死んだ。そして、その妻であるワカは、


「うちの人が死んだのは、お前のせいだー!」


と由美を激しく罵り、そのまま衰弱していき、最後は着物姿の乱れた髪で、自身に刃を向けると血塗れになって死んでいった。


それからしばらく経つと、ワカの幽霊が現れるようになり、由美は恐怖のあまり卒倒するのだった。青山家には使用人が三人いた。下男と女中と婆やの三人だった。


女というものは、どうしてかグループを作りたがるようである。房総、青磯の海女にもグループがあり、今まさに砂浜にて一触即発という感じであった。


「おう。おめえ。禁猟区に潜ったそうじゃないかよ」

「それがどうしたっていうんだよ」

「禁猟区は青磯の海女の取り決めで、誰も潜っちゃいけねえっていうことになっているだろ」

「それが悪いっていうのかよ。あたいは水木先生の海洋調査に協力して潜っているのさ。それのどこがいけないんだよ」

「なにおう。この」


始まる女同士のケンカ。つまりキャットファイト。新東宝の映画にとって、欠かせない要素がこのキャットファイトである。

その様子を見ていた水木(新東宝の怪優・沼田曜一)は、もうこの辺でいいだろと言って、ケンカを子分に止めさせた。水木のことを先生と呼んでいた海女が万里昌代である。


それに対し万里昌代とケンカした海女の後ろには、青磯の漁業権を独占しようとブイブイ言わせている男、伊丹がいた。伊丹は海女にポーズを取らせ、その様子を写真に撮り青磯を観光地として売り出さんとするりやり手の男だった。


ケンカの様子を見にきた由美に向かって伊丹は言った。


「お嬢さん。この青磯の漁業権を譲ってくれませんかね」

「そのことについては考えさせてください」

「素直じゃねえぜ。このアマは」


そう言うと伊丹は立ち去って行った。


万里昌代という女優について、ひとくさり書いてみたい。新東宝の中にあっては、この作品に出演している三原葉子のほうが、元祖肉体派女優と見る意見が、新東宝ファンの中においても多いだろう。


しかし『海女の化物屋敷』においては、万里昌代のほうが肉体度は上なのだ。三原葉子は一応、東京からやってきた垢抜けた女という設定で、海女ではないし、いつものようにキャバレーの踊り子でもない。

それに対して万里昌代は現役バリバリの海女で、その海女の装束から乳首が透けて見えているのだ。


それに万里昌代と言う人は、どこか日本人離れした、むしろアーリア人を思わせるようなエキゾチックな顔立ちをしていて、その彼女が海女を演じる訳だから、それだけで好事家を満足させることができると考える。


だが、そもそものことを考えると、なぜ大蔵体制、新東宝はここまで「海女映画」にこだわったのだろう。その答えを導き出すヒントの一つにエロと言うものがあろう。

2020年代を生きている人間としては、この感覚は分かりづらいのかも知れない。なぜなら現在はエロに関する情報が氾濫しているからだ。

スマホを開いてみれば、即座にエロに関する情報に辿り着くことができる時代だ。


しかし、ひるがえって、1950年代のこの時代。エロに関する情報は極度に少なかった。週刊誌や漫画誌で、グラドルが水着姿のグラビアを披露している訳でもなかった。ミニスカートの女子高生が街を歩いている訳でもなかった。


だからこの時代において、露出度が多い海女の姿に、多くの男たちが性的興奮を感じたのかも知れない。そして自社の売りをエロと自認していた大蔵体制新東宝は、「海女映画」を量産することによって、観客動員を見込もうとしたのではないか。


ところ変わって東京は警視庁の一室。そこには刑事に扮した若き日の菅原文太がいた。


同僚が部屋に入ってきて文太に告げる。


「例の水死体の胃袋の中から黒真珠が出てきたらしいですよ」

「あの。東京湾から流れ込んできたという水死体か。顔を潰されていて身元が判らないという」


人に歴史ありである。菅原文太も「仁義なき戦い」シリーズで、いきなりトップスターになった訳ではない。その銀幕デビューは、先にも書いたように新東宝においてなのだ。


まずハンサムタワーという今で言ったなら、アイドルグループのようなものがあった。このハンサムタワー。東京タワーができた年、1958年に結成されたグループで、確か五人組ぐらいであったと記憶している。この作品、『海女の化物屋敷』の公開が59年だから、文太はデビューしてまだ一年と言ったところ。


しかし、文太はハンサムタワーにおいては、センター的位置にはいなかった。同じくその後、東映に移籍することになる吉田輝雄のほうが、センター的位置にいたのだ。

だが、先にも書いたように61年に新東宝は倒産。ハンサムタワーの全員は、揃って松竹に移籍することになる。


松竹に移籍するも文太は心機一転ということにはならなかった。そこでの文太は、脇役、端役に甘んじるしかない鬱屈した日々を過ごしていた。

そんな松竹時代に知遇を得たのが安藤昇だった。安藤昇について詳しく書けば、それだけで長くなってしまうので割愛するが、元々は終戦直後の渋谷で、安藤組という今風に表現すれば反社会勢力のリーダーだった。


そんな安藤は組を解散し、俳優へと転身したのだ。現在なら信じられない感覚であるが、それも時代だったのか。元来が組長である安藤は、面倒見のいい人物で、鳴かず飛ばずの文太を自身が経営する飲食店で食わせてやるなど、目をかけていたのである。


そんな安藤が松竹から東映に移籍する際に、文太も一緒に東映に移ることになった。その頃、東映は任侠映画全盛時代。高倉健や鶴田浩二、藤純子主演のやくざ映画が人気を博していた。


だが、そこでも文太は傍に回るか、健さんや鶴田浩二の亜流のような作品で、主演を張るしかなかった。そんな任侠映画も退潮の兆しを見せ始めた73年。苦し紛れに放ったような『仁義なき戦い』が大ヒットすることになる。


ここでの文太はこれまでの鬱憤を晴らさんとばかりに吠えた。健さんも鶴田浩二も、あのようには吠えなかった。そこに文太のそして、やくざ映画の新境地が開かれた。時に文太、40代。


時間を巻き戻し59年の文太を見てみよう。そこには、まだあどけなささえたたえているという若き日の文太がいて、自身のその後を予見することもできなかっただろう。


事件の手がかりを探るため、文太刑事は房総へと向かった。


海女がうじゃうじゃいた時代。青磯の海女たちは、獲ってきた貝などをカゴに入れ、その目方を測ってもらっていた。


由美が入浴して脱衣場で、その身体にタオルを巻いている姿になっていると、そこにワカの幽霊が現れた。その幽霊を見て卒倒する由美。その悲鳴を聞いて駆けつける三原葉子。そんなお色気シーンも忘れることはなかった。


文太と三原葉子は恋人同士だった。


「あら。どうしたの。こんなところに」

「いや。僕は例の迷宮入りしそうな事件の手がかりを追って、ここへきたんだよ」


恋人である二人は自然と岩場に行き、そこで接吻をしようとした。そこに現れる水木を乗せた漁船。だが漁船と言ってもエンジンは付いておらず、水木の子分が櫓を漕いでいた。


「ふふふ。お楽しみのようですな」


水木は不敵に言った。この船には万里昌代が同乗していて、そのまま海の中へと潜っていくのだった。しかし、彼女の動きは海藻を獲っているという風ではなく、何かを探しているかのようであった。


青磯には少し洒落た酒場があった。むしろ今ならレトロな酒場として人気を呼ぶような感じで、店内にはハワイアンが流れていた。

そのカウンターで飲んでいる水木。そんな彼に話しかけてくる伊丹。


「先生。わたしにも一枚かませてくださいよ」

「なんの話だね」

「先生が海藻の調査なんかで、青磯に来ているんじゃないことは承知しているんですから」

「また突飛なことを思いつく人だね」

「素人の目を誤魔化せても、わたしの目は誤魔化せませんよ」


由美の家の納戸。そこで下男と女中は、ちちくりあっていた。その様子を見てしまった由美。執拗に現れ続けるワカの幽霊。三原葉子はある時、その幽霊のあとを追って行った。磯に消えてゆく幽霊。


岩陰からせむし男が、三原葉子を見ながらニヤニヤ笑っていた。すると三原葉子の反対方向から婆やが歩いてくるのだった。


「婆やさん。どこに行っていたの」

「はい。龍神さんにお参りに行っていたんです」


その頃、文太刑事は村にある寺の住職に会って、村の歴史を聞いていた。なんでも、この村では昔、大地震があり、青山家の墓地はそのまま海底に沈んだのだと言う。


文太刑事は本庁に由美を連れて行き、霊安室に安置されている身元不明の遺体を見せた。その遺体は顔が潰されていたが、由美はそれを姉だと確認した。遺体の体内から出てきた黒真珠は、確かに姉の遺品だったのだ。


「わたし。本当にひとりぼっちになってしまったんですね」


船溜まりでは万里昌代、水木、その子分が密談をしていた。


「おい。由美をやれ」

「こ、殺し。兄貴。それだけは勘弁してくださいよ」

「いいから。由美を消せ。あいつが邪魔なんだよ」

「兄貴。殺しだけは。殺しだけは勘弁してくれ」


突如始まる回想シーン。藁でできた海女小屋の中で、水木と万里昌代はちちくりあっていた。そこへ不意に入ってくる女。女は二人の情事の様子を見て、血相を変える。すると水木は、やにわに女を引きずり倒し、その首を渾身の力で締め始めた。その様子をただ傍観しているしかない万里昌代と子分。


水木は女を窒息死させようと、その口に藁をねじ込んでいったのであるが、そのどさくさの中で女の口に黒真珠が入っていった。どれくらい時間が経っただろう。女の身体からは、力が抜けていった。そして水木は大きな岩を持ち上げると、それを女の顔面に叩きつけた。


水木というのは偽名であり、彼は実は木村という殺人犯のヤマ師のような男で、万里昌代はその情婦であったのだ。


その頃、邸宅では婆やの首吊り死体が見つかった。


ある日の夜、邸宅ではホームパーティーが開かれていた。そこでジルバやマンボのリズムに合わせて踊る若者たち。このような音楽が大衆音楽として、流行っていたところからも時代を感じることができる。


そのパーティーの場で、またしても伊丹は水木、おっと本名木村に絡んできた。


「先生。先生が探しているものは、俺はちゃんと知っているんだ。どうか俺も仲間に入れてくださいよお」

「あなたもしつこい人だね。わたしはただの海洋調査の教授だよ」

「けっ!こんな若造にコケにされたんじゃ、この青磯の伊丹の名がすたるぜ!」


そう言うと伊丹は、どかっと床にあぐらをかいて座った。と、次の瞬間、館内は停電になり暗闇に包まれた。灯りが戻ったその時、二階のバルコニーにはワカの幽霊がいた。悲鳴を上げる人々。すると幽霊は喋り始めた。


「皆さん。驚いてはいけません。これには仕掛けがあるんです」


そう言うと幽霊は自らの皮膚をめくりはじめ、その下から出てきたのは三原葉子だった。


「幽霊に化けていたのは、婆やさんだったんです。これは水木教授が仕組んだ由美を陥れる罠だったんです」


三原葉子の隣には由美もいた。


もう。ネタバラシされちゃあ、たまらねえとばかりに、木村一味は由美と三原葉子を拉致し、そのまま船溜まりから、二人を乗せた船で出航して行った。

由美はいつの間にか海女の姿になっており、三原葉子はシミーズ一枚の姿で、その身体はロープで拘束されていた。そしていつの間にか、その船にちゃっかり乗り合わせている伊丹。


「さあ。由美。海に潜って青山家の墓のありかを教えるんだ」


そう言うと由美、万里昌代、木村の三人は水中に潜って行った。ちなみに木村は海水パンツを履き、アクアラングを背負い、水中銃を持っている。


船の上には子分、伊丹、三原葉子が残った。


「へへへ。俺はこの時を待っていたんだ。青山家の墓には財宝が眠っていると聞いていたんだ」


と伊丹。


「てめえなんかに財宝はわたしゃしねえよ。兄貴が帰ってきたら、兄貴をやっちまって、財宝は全部俺の物になるのよ」


そう子分は言うと、伊丹を背後から蹴って、海に突き落とし、そこへライフルの弾を放って殺害した。恐怖の表情を浮かべる三原葉子。


「けへへ。いい体しているぜ。兄貴が帰ってくるまで、たっぷり可愛がってやるとするか」


その頃、海辺では例のせむし男が、必死に文太を沖に連れ出そうとしていた。ちなみにこの男、せむしであるだけではなく、聾唖者でもあり口がきけない。


このせむし男。てっきり三原葉子の肉体を狙っている悪いヤツなのかと思っていたが、最終局面で善人だということが分かった。


部落の漁船が総がかりで沖へと向かっていく。その先頭を走る船の船首には、間違いなくせむし男が乗っていた。


程なく水面を進んだところで、文太刑事の眼前に、その恋人三原葉子が子分に犯されようとている光景が広がってきた。文太はためらいなく海に飛び込み、子分の船に乗り込むと、ヤツを倒し三原葉子を救った。


「由美が。由美が。脅されて、海の中に」

「な、なに」


その由美たち一行は海底洞窟の入り口に辿り着いていた。そのまま三人は洞窟を進み、途中で木村はアクアラングを捨てた。さらに、そのまま三人が進むと、そこには宮殿のような空間が広がっていた。


その宮殿の奥にある祭壇。そこが青山家の墓に違いなかったのだが、この墓場の美術は素晴らしい。例えれば、ロールプレイングゲームのラスボスが出てくる空間とでも言えばいいだろうか。


先に書いたが宮殿と墓場がドッキングしたその空間は、キッチュであり、新東宝独特のセンスであることは間違いない。


その祭壇に石棺があり、木村、いやこの際もう沼田曜一は、一散にそこに走り寄り、石棺の蓋を開けた。そこにはミイラが眠っていたが、沼田曜一は、そんなもの邪魔だとばかりに払い除けた。


すると石棺の底からは宝石、金貨などの財宝がざくざくと出てくるのであった。


「やった!やったぞー!これで俺はなんでも買えるんだ!なんでもできるんだ!やったぞ!」


嬉々として喜ぶ沼田曜一。


「なんだい!わたしに分け前はくれないのかい!」


と万里昌代。


「初めからお前なんか、利用していただけなんだよ。この際、二人まとめて死んでもらおうじゃないか」


そう言うと沼田曜一は、水中銃を構え万里昌代と由美の元へにじり寄って行く。抱き合う万里昌代と由美。沼田曜一が、その引き金を引こうとした瞬間。彼は、そこが海底洞窟であるために足元が滑り転倒した。そして、その勢いで誤って引き金を引き、水中銃のモリは自身に突き刺さったのである。


それは放心した顔だったのか。それともあっけに取られた表情だったのか。自身に何事が起こったのか分からない表情だったのか。とにかく新東宝の怪優、沼田曜一の死に顔が素晴らしかったことは、間違いない。そこに駆けつける海水パンツ姿の文太刑事。万里昌代と由美は、文太刑事に保護された。


ラストシーン。バス停に立っている文太、三原葉子、由美。


「あの財宝はどうするんですか」

「わたし一人が持っていても仕方がないので、寄付をするつもりです。それよりお二人が結婚する時は、どうか式に招待してくださいね」

「まあ。由美ったら気が早いわ」


なんか。そんな光景に「終」の文字が被さり、作品は終わった気がする。


ホラーにサスペンスに、海人のお色気。そんな要素をごった煮にした新東宝らしい作品だと思った。そして、中でも菅原文太アーリーワークスの代表作とも言える一本であろう。


男というものは、一日にしてできあがるものではない。そんなことを思った作品だった。

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