Twitterで感想をポチッと呟けば事足りる、そんなもんな映画である。実際、それで終わらせようとした。 が、YouTubeで検索したら予告篇がアップされていて、取って返したようにある程度まとまった文章を書こうと思った次第である。
そんな映画レビューがあってもいいではないか。
映画を見ながらイライラしてくる。それは狂ったような酷暑のせいなのか、はたまた作品の質のせいなのかは分からない。しかし実際イライラしてしまった。
作品の冒頭は終戦直後の闇市の記録映像から始まる。
その後、この作品の主軸をなすキャラクター、一馬が画家の内田裕也からその妻の夏純子を20万円で買い取り自らの妻とする。
で、その一馬というのがどっかの県の大地主の家の当主らしく、その後その邸宅に友人である作家や画家、詩人、劇作家などのいわゆる文化人たちを集めて、サロンのようなものを開く。
そこには一馬の兄妹なども同席している。
まず、ここから大変なのである。
なにしろここに集まっている人間の数だけで30人近くいて、誰が誰だか分からないし、ましてやその相関関係となると把握は不可能。
誰が誰だか分からないまま物語は進行し、そこで連続殺人が繰り広げられるから、何がなんだか分からなくなってくる。
一応一馬邸に集まった人たちは戦時中、彼の家に疎開していたという事になっているが、そもそもなんのために集まっているのかもよく分からない。
自分が映画に関する文章を書こうとする時、そこになんらかしらの取っ掛かりのようなものがあるのだが、この作品に関してはそういったものをまったく見出せないまま、ただ時間だけがすぎて行った。
一馬からの招待状を受け取って訪れる人物の一人に田村高廣がいて、一馬とはじっこんらしく、物語を織りなす主要人物なのかなと思ったが、別にそんなことはない。
田村高廣が出演していることから分かるように、キャストはそれなりにしっかりしている。
夏純子、内田裕也、田村高廣の妻に「ウルトラマン」に出演していた桜井浩子、内田良平、浜村純、殿山泰司、さらにロマンポルノから伊佐山ひろ子、絵沢萌子、宮下順子の3人が出演している。
これはこの作品の監督、曽根中生がロマンポルノで多くの作品を残してきたからだろう。
しかし、このキャスティングもなんのためと思わざるを得ない。
密室劇的な展開の中、次々に殺人事件が起きるのだが、ただその連続を見せられているだけで単調の感は否めない。
そこに大胆に彼女たちを起用してエロシーンでも挿入しておけば、また違ったかもしれない。
その曽根中生の演出もこれと言って特筆すべきこともない。
そして一番違和感を持ってしまうのは、次々に人が死んでゆくなかでも集まった人たちは、うろたえるどころか悠然とディナーなんぞを楽しんでいるのだ。
リアリズムにこだわる訳ではないが、集まった家の中で殺人事件が連続して起これば、
「わたし。もう帰ります」
と家を後にする者もいるだろう。次は我が身かもしれないと思い恐怖におののくこともあるだろう。それが皆、呑気に構えているのだ。
映画というのは見ているうちに違和感や疑問点を持ってしまうと、あとは懐疑や冷めた目で見てしまうことが多々ある。
終戦直後のこの時代にいくら大地主とはいえ、大勢の人たちを招いてよく何泊もさせるなと思うし、内田裕也のカーリーヘアでさえ、この時代にこんな髪型のヤツおったんかいとツッコミを入れたくなる。
この作品の原作が坂口安吾の同名小説だというから、原作もツッコミどころ満載なのかと勘ぐってみたくもなるが、活字と映像は本質的に違うものだということなのか。
凡作には特徴というものがある。
決定的なのはドラマがなにも発生していない場合だ。この作品も基本的にはディナー楽しんでいる。殺人が起こる。ディナー楽しんでいる。時々警察の捜査が始まる。殺人が起こるの繰り返しで、なにも人間劇が発生する訳ではない。そりゃ見ているこっちとすりゃ退屈にもなるわ。
もう書いていて思うのであるが、退屈な作品に関する文章を書くのは忍耐を伴う。
それで突然のように一馬の父親、金田龍之介が出てきたりして複雑な人間関係がよりこんがらがってゆく。
この作品はミステリーであるから、そう言った多数登場する人物の中から犯人を推理するというのが製作者の意図なのであろうが、これだけ人物数が多すぎると頭の中は混乱するだけで推理どころではなくなってしまう。
そういう意味でも失敗作。
さらにこの作品がATG作品だと言うことも、つまらなさの一因にはなっているだろう。ATG作品は見ていて、やはり製作費の少なさと言うものが画面から伝わってくる。
この作品の場合、同じようなシーンの連続が目立ち、明らかに製作日数を減らしているのではと感じてしまう。
そんな『不連続殺人事件』なのであるが、唯一、台詞棒読みながらも終始弾けている内田裕也のみが見ていて面白いと言える。
さらにロマンポルノの女優陣よりも露出度が高い夏純子もなかなかに見せる。
だがこれもつまらない作品の中からなにか救いはないだろうか、と思案した結果探し出したものに過ぎない。
警察は人々を招待し、自身も自殺してしまった一馬が真犯人であるとの結論を出すが、そのあとどんでん返しが待っている。 ここで招待客の中の一人である探偵が種明かしをして、これが意外なものであったので少し驚いたが、とにかくここにたどり着くまでに作品の凡庸さのため、イライライライラ、キヤキヤキヤキヤしていたので、正直やっと終わってくれるかという気持ちになった。
映画を見てここまで退屈な気分になったのは久しぶりだわ。
なんか窓辺で外を見ている田村高廣。そこへ桜井浩子が入ってきて言う、
「あなた。帰りましょ」
「うん」
そして作品は終わった。 俺の時間を返せ。