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執筆者の写真makcolli

天使のはらわた 赤い淫画

女は怯えていた。帰宅途中につきまとってくる影に。

逃げこむように自身のアパートに入ると、女はカーテンの隙間から窓の外を見たが、そこに人影はなかった。

こたつに入りリラックスする女。次第に甘い吐息を漏らし始める。

こたつの中、真っ赤に染まった世界で女はパンスト越しに自身の淫部をさすり始めた。次第にエスカレートしてゆくオナニー。

女はパンスト、さらにパンティの中に手を忍ばせ、直接に淫部を愛撫してゆく。

フラッシュバックのように女にとって呪わしい記憶が蘇る。

パンティ一枚にされた上にSMチックに縛られた女。床の上に転がされたそのあられもない肢体に、容赦無くカメラのフラッシュが降り注ぐ。

「やめてよ!帰してよ!撮るのはよして!」

そう懇願する女だったが、カメラマンは無慈悲にシャッターを切り続けた。

女がオナニーをもって快楽のピークに達し脱力していると、そこに電話のベルが鳴る。受話器を取ってみると、そこから聞こえてきたのは、

「ハアハアハア」

という男の荒い息遣いで、女は恐れおののいた。

女は百貨店の売り子だった。

その職場の更衣室で女は友人から、手軽にできるアルバイトがあると言われ、訪れた先がビニ本の撮影現場だったのだ。

男はアパートの自室で腐ったように、こたつに入っている。

そのこたつの上にはペヤングソース焼きそばや、どん兵衛のカップが無造作に置かれ、灰皿の中にはタバコの吸い殻が数え切れないほど入っていた。

その部屋はいかにも独身の男の住まいといった風で、物が散乱し、足の踏み場もないといった風情であった。

定職についている様子もなく、昼間からフラフラしている男に近所の主婦やアパートの大家である女たちは、ひそひそと噂するのであった。

「この間もあそこの奥さん下着を盗られたそうよ」

「あの男じゃないの。こんな日なかからうろついているなんて怪しいわよ」

「あの顔つきじゃきっとやっているわね」

それは女たちの偏見にも似た考えであったが、実際男は部屋の向かいに見える家の窓の中で、中学三年ぐらいの少女がオナニーをする様子をのぞいていた。

少女は卵にコンドームを被せると、それを自らの淫部に挿入した。

さらに体内に入った卵を指で動かす。少女の表情は悦楽のそれへと変わってゆく。理性の域を超えた少女は勉強机から鉛筆を数本鷲掴みにすると、それを自らの中に入っている卵へと突き刺した。やがて少女の股間から、ツッーと黄色い卵が流れ落ちてくる。

少女は満足したような感じで果てた。

その一部始終を男は目撃していた。

自身も興奮したのか男は封筒の中から本を取り出すと、それを広げてこたつの中に入れ、ズボンのチャックとパンツを下ろして男根をしごきはじめた。

男が取り出したビニ本には「赤い淫画」というタイトルが記されており、そこには確かにあの女のセクシーを通り越した姿が載っており、男を興奮の淵へといざなった。

と、こたつの中から腕が伸びてくる。その腕が男の男根を掴み優しく愛撫してくれる。

気がつくとそこは赤い世界で、裸体をローションでぬるぬるにした女が男の男根をくわえ込み、性の果てなき世界へと導いてゆくのだ。

絶頂に達した男は白い液を発射した。

そしてテッシュで綺麗にビニ本を拭くと、また大事そうに封筒へとしまうのであった。

ここまで見てきて、かなり作品世界の中にのめり込んでいた。

81年の日活ロマンポルノ作品『天使のはらわた 赤い淫画』である。70年代のロマンポルノには傑作も多いが、80年代のものはどうなのか、という猜疑心もあった。

しかし押しせるかのようなエロシーンは、見ていて飽きることがなく、男のオナニーシーンなどは幻想的ですらある。

この後もこの作品の監督、池田敏春の演出は冴えていく。

例えば大家が勝手に男の部屋に上がり込み家探しのようなことをしている時に男が帰ってきて、出て行ってくれと言い大家が男に向かって「赤い淫画」を投げつけ部屋から出て行こうとすると、そこで映像はストップする。

だがその静止した映像に男が大家を犯している映像と音声が重なるのだ。見ている側としては、それが現実に起こっていることなのか戸惑ってしまう。だが犯されている大家の映像が消えると、静止していた映像が動き出し、それが男の衝動を表していたものだということがわかるのだ。

このように稀な才能を見せる池田敏春なる人物であるが、その名前をロマンポルノ界であれ、邦画界であれ聞くことがないのは、彼がこの作品でその才能を使い果たしてしまったのか。それとも単に俺が無知なのか。

だが「赤い淫画」というビニ本を巡って描き出される人間模様は、絶妙な魅力をこの作品にもたらしている。

百貨店の階段で女と、その上司である主任はぶつかり、女は持っていた荷物を落としてしまった。荷物を拾おうとしゃがむ女。その股間から見えるパンスト越しのパンティを主任は見逃さなかった。

「今夜どう。君にぴったりの店見つけたんだ」

「え、ええ」

「じゃあ仕事が終わったら、あの坂の下で」

その君にぴったりの店でしこたま飲んだのか。女は主任に担がれるようにして、ホテルの一室に入ってきた。

「この部屋、リザーブしておいたの?」

「それはどうだかね。でも難攻不落として知られている我が社の姫を落とすには、これくらいの部屋を用意しておかないと」

「本気なの?」

「愛しているんだよ。君を」

男は半分、襲いかかるように女の体を目指した。

「やめて。こんな格好じゃいや」

「このままのほうがいいじゃないか」

男は女が履いているブーツを片一方だけ脱がせ、さらにパンストとパンティをずり落とすと、その男根を女の淫部に挿入した。

窓際で快楽を求めあう二人。そのまま32階からの夜景が映し出される。

「今度は回転ベッドとかあるところに行ってみようよ」

「そんなこと言って奥さんは大丈夫なの」

「本気だって言ったろ。ただ君よりも先に女房に出会ってしまっただけのことさ」

そして二人は度々逢瀬を重ねるようになり、ルームミラー張りの部屋でも肉体関係を結んだ。

再び百貨店の更衣室。

「お願いされているのよ。あなたの写真集売れ行きがいいんだって、だからもう一度やってくれって。ちょっと我慢していれば済む話じゃない」

「お断り。あなたのせいでわたしひどい目にあったんだから。直接言って断るわ」

「そう。それならそれでいいんだけど、主任とはもっと上手くやれよ」

「えっ」

「会社の中でかなり噂になっているぞ」

「ありがとう・・・」

女は喫茶店の席で男たちと相対していた。

「いやー。あなたのような人、もったいないよ。世の中のオジンを助けると思ってさ。もう一回だけやってくんない」

「わたし友達に騙されてあそこに行ったんです。もう二度と係わらないでください。それとわたしの電話番号、誰かに教えてないですか」

「電話番号?教えてないよ」

「わかりました。じゃあ」

「記念にこれ持って行きなよ」

そう言って女は「赤い淫画」を手渡され、喫茶店を足早に出て行った。

そこに偶然居合わせたのが、かの男だった。

男の目が点になる。そしてストップモーションで映し出される女の姿。男にとってはまさに奇跡のような巡り会いだったに違いないだろう。

思わず男は女を追い始めた。逃げる女。

新宿の地下街の中を走りながら逃げてゆく女。それを必死に追う男。だがついに行き場を無くした女はトイレに駆け込み鍵を閉めた。

「あんた誰なのよ!なんでわたしを追ってくるの!」

「自分でもわからないんだ!なんでこんなことをしているのか!でもあなたを知っているんだ!本の中で!」

「わたしはビニール本のモデルなんかやるような女じゃないのよ!そんな女なんかじゃないのよ!」

トイレの中で崩れ落ちる女。だが一瞬の隙をついてトイレから駆け出すと、そのまま地上に上がりタクシーを捕まえ、そのままアパートのドアを息急き切って開けた。

そしてまたカーテンの隙間から外をのぞいたが、そこに男の姿はなかった。

主任は自宅の自室で「赤い淫画」を見ていた。そこに妻が入ってくる。

「お風呂沸いてますよ。なんですか。そんな本なんか見て」

「いや。なにね。会社の机に部下がいたずらで置いたんだよ。今更こんなもんを楽しむ歳じゃないさ。どうだ。久しぶりに一緒に入らないか。背中を流してくれよ」

そして主任とその妻は風呂場でことに及んだ。

そして女と主任がまたもや逢瀬を重ね、その別れ際、主任は身だしなみを整え、女は全裸でベッドに寝ているというシュチュエーションで主任は、

「こんな物を見つけたんだ」

と言って、「赤い淫画」を取り出した。言葉を失う女。

「君がこんな女だったとはね。僕はどうすればいいのかな」

「どうすればって・・・」

「直属の部下がこんなことをしているなんて、上司としてはどうすればいいのかっていう意味だよ」

「わたしを脅迫する気?」

「どうとでも解釈するがいいさ」

「わたしを愛しているって言ったじゃない!もういい!どうだっていいわ!上司にでもなんでも言いなさいよ!」

「どんな目を見ても知らんからな!覚えておけよ!」

部屋から出てゆく主任。涙を浮かべる女。

それから女が百貨店のトイレに入っている時、その前を通り過ぎる二人の男の声が聞こえてきた。

「即刻クビにしたまえ。百貨店は信用が第一だからな」

「はい」

百貨店を解雇された女は夜、またしてもカーテンから外を見た。そして今度はそこにあの男の姿があった。女は部屋を出て男のもとへと歩いて行った。

「どうしてわたしにこんなことしつづけるのよ!あなたのせいでなにもかもめちゃくちゃよ!」

そこに激しい雨が叩きつけるように降り出す。

「ぼくはこの本が・・・」

そう言って「赤い淫画」を取り出す男。

「バカみたい!そんなもの破りなさいよ!」

そう言われると男は「赤い淫画」の1ページを破いたが、すぐにしゃがみ込んでそれを大事に体で包み込む。

「あなたが追っているのは、その本の中の女でしょ!わたしじゃないんでしょ!いいわ。好きにしなさいよ。その代わりもう二度とわたしの前に姿を現さないで」

ジャングルジムの中に入る二人。

その二人に雨は激しく降り続ける。このシーンがまたいい。濡れてゆく二人を俯瞰で捉えるカメラ。そうかと思えば下から落下してくる雨をも映し出す。

女の股間に手を触れる男。

「こんなんじゃないんだ。ぼくがしたかったのはこんなんじゃないんだ。明日の夜7時、百貨店下の坂のところでもう一度会ってくれないか。それで。それでいいから」

男が去ったあとベッドに入った女は、男から握られた時に付いた腕のあざを優しく撫でた。

かの少女は近所の自販機でジュースを買いそのまま家路に着いたが、突然暗がりから男の屈強な腕が伸びてきて、そのまま暗がりに連れ込まれた。

そこは材木置場のようなところで、パンストを被った男は無慈悲にというか、むしろ楽しむかのように少女の頭を何度も材木に打ち付け、やがて少女の頭から血が流れ、その息が絶えると、今度は服を脱がせすでに死体になっている少女の局部に、そのイチモツを挿し入れた。男はいわゆる死姦という性癖を持つ変態で、エクスタシーに達すると今度は死体に向けて放尿をして闇の中に消えて行った。

少女の死体を見つけた両親や近所の者はパニックに陥った。

普段から怪しいと思っているあの男がやったのだと勝手に決め込み、その父は猟銃を持ち出して、完全にトチ狂い、ヤツをぶち殺してやると息巻いたが、その妻は、

「お父さん!やめてーっ!」

と叫んだ。そこにあの男が帰ってきた。親父はためらわずに猟銃の引き金を引き、その弾は男の肩を貫通した。

男はなにがなんだか分からなかったが、その出血している肩を手で押さえて、今きた方向になんとか逃げて行った。

そのまま夜の街を彷徨う男。

そしてたどり着いたのがマネキンのゴミ捨て場だった。そこに倒れこむ男。青ざめた顔で言う。

「明日の7時になればあの人に会えるんだ・・・」

大きく映し出される夕陽。一日が暮れてゆく。

例の待ち合わせ場所に女は立っていた。やがて街の時計台は7時がきたことを知らせる。自身の腕時計を確認する女。時は過ぎ8時が迫らんという時刻になったが、それでも女は立っていた。

果たして男は現れるのか。それともすでに。

日活ロマンポルノには70分代という作品は珍しくない。さらにこの作品は60分代という短さである。

しかしその短さの中においても人間ドラマが描かれ、奇妙な女と男の物語と確かな官能性が描かれていた。この作品の原作は当時人気を博した劇画家・石井隆の「名美」シリーズだそうである。

原作のクオリティーの高さが映画にもたらされているのではないかと思うが、随所に池田敏春の冴えた才能が垣間見られる。

そしてこの人もまったく無名に終わってしまったのかもしれないが、「女」を演じた泉じゅんの存在も大きかった。えっ。この人がロマンポルノに出ていたの、と思わせるような佇まいを持っているのだ。

ロマンポルノの傑作ということはできないだろうが、佳作であるということは断言できる。

そんな作品であった。

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