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執筆者の写真makcolli

天使のはらわた 赤い教室


ブルーフィルム上映会。

今では完全になくなってしまったものだが、蟹江敬三は退屈しのぎに、そのブルーフィルム上映会に参加していた。

だが蟹江敬三は途中から退屈しのぎどころではなくなってしまう。

タイトルバックを含めた冒頭。

やけに画質が粗いなと思った。例えば8ミリフィルムの画質のように。その中では一人の女が学校と思しき場所で、生徒四人ぐらいに強姦されている様がまざまざと映し出されていた。

この画像に音声は入ってなく、犯され終わった女がぐったりしている模様に「終」の文字が浮かぶ。この画像そのものがブルーフィルムの中身だったのだ。

蟹江敬三は、このブルーフィルムの中の女にえも言われぬ魅力を感じてしまった。

ある種、蟹江敬三はこの女に魅了されてしまった訳であるが、それには理由があった。彼(役名、村木)はポルノックという名前の零細な出版社でもって、くる日もくる日もエロ本の編集をしていた。そして、そのエロ本に裸体を晒す女たちに辟易しだしていたのだ。

だがブルーフィルムの中の女は、村木にとって特別に見えた。エロ本のモデルたちにはない特別な輝きをもって見えたのだ。

ポルノックには村木の他に二人の男が働いていた。

河原での撮影にてカメラマンはハッスルしていた。どっからどう見てもブスなモデル。これは俺の体験談なのだが、小学生当時だっただろうか。

ある日何気なく親父のタンスを開けて、中を物色していたらエロ本が出てきた。子供心に親父がエロ本を所蔵していた、ということもショックだったが、そこに写っている女が今のAV嬢から比べたら月面軟着陸も失敗するであろうブスで、そのブスな女が裸体を晒しているというあまりのディープさにさらにショックを覚えたものである。

例えばそんなブスに向かってカメラマンは、

「君。日本人離れした鼻筋しているね。いいよ。もっとスカートめくっちゃってさあ」

なんて言っているかと思えば、絵コンテを持っている助手に対しては、

「おめえは邪魔なんだよ!あっち行ってろ!ムードが出ないじゃんかよ!」

などと言い、先輩風を吹かすのであった。

だが村木はそんな撮影も上の空で、川に向かって石を投げていた。それもこれもあのブルーフィルムの女が脳裏から離れないためであったが、別の撮影にては分娩台に女を座らせての撮影となったが、

「このな。クスコとか色々使って、あそこをいじっているように見せるんだよ」

「はい」

「おめえが前に来たらなんにも写らねえじゃねえかよ!バッカだな!おめえは!」

とカメラマンはまたしても助手を邪険に扱うのであった。だがまたしても村木は撮影にはてんで興味のない様子であった。

そんな村木であったが愛人なのか恋人なのか知らないが、確かに女はいるようで、編集室と言ってもアパートの部屋だけでしかないポルノック社に、その女はやってくるのであった。

「ここにはくるなと言ったろ。仕事場なんだ」

「でも私たち一週間に一回しか会えないなんて。邪魔しないからここにいてもいいでしょ」

編集室にはベッドが置いてあり、なんだかんだ言って村木と女はそこで一発やった。だがロマンポルノと言っても蟹江敬三だからなのか、彼がファックシーンを見せたのは作品中、この一回だけだった。

ほどなくして女はまたしてもポルノック社にやってきて、村木に肉体関係を迫った。だが村木はベッドの上にふてくされるように寝ていて、取り付くしまがない。

「ねえ。お願い」

思わず女を突き飛ばす村木。

「今は一人になりたいんだ!イライラしてるんだ!自分が撮りたいものを撮れば、売り上げが伸びないし発禁になる。毎回、毎回同じことの繰り返しで俺はどうしたらいいんだ!」

図らずも「表現」と言うものを生業にする者の苦悩を、思わず彼は吐露した。

村木はその間もブルーフィルムの女を探していた。ブルーフィルムの上映会が終わった直後も興奮しすぎて潜りでやっている興行主に、

「あのモデルの子に会わせてくれよ。お願いだからよ」

と願い出たが、

「あんた。サツの人間かい」

と逆にいぶかしがられた。

ここの展開がよく分からなかったのだが、村木がよく撮影に利用するラブホテルに撮影の予約を入れようと電話をすると電話の主は女だった。

村木は慌てた様子でポルノック社を飛び出し、ホテルに到着すると受付の中を覗き込んだ。するとそこには運命の人とでもいうべき、あのブルーフィルムの女が座っていた。一気にボルテージが上がる村木。

「どうしたんですか。うちは同伴だけなんですけど」

「そんなんじゃないんだ。どこか話せるところはないか」

そう言うと村木は女を空き地に連れ出した。

「用ってなんなのよ。手短に話してくれない」

「その、あんた。ブルーフィルムに出ていただろ。俺、グラビアの編集やっていて。あんたにモデルをやってもらえないかなと思って」

「あそこなら誰とも顔を会わせないですむと思ったのに。どこか場所を変えて話さない」

今度は女の方から誘い、二人は連れ込み旅館に入った。

「あの映画を見たって言ってわたしを脅してきた男は何人もいたわ。あなたで何人目かしら」

「そんなんじゃない。俺はただあんたとならいい仕事ができると思って。グラビアって言ってもエロ本なんだけどな。出版社やっているって親には言っていて、児童書を作っているなんて言っているけど」

村木がそう言うと女は、手首の切り傷を見せた。

「死のうと思ったこともあるのよ」

「じゃあ。あのブルーフィルムは・・・。確かに腰に研修生って腕章がぶら下げてあったよな。普通そんな細かいところまでこだわるもんじゃない」

女の脳内の映像なのか。悲鳴を上げる女に容赦なくカメラとライトが向けられる。

女は立っている村木の股間に後ろから手を伸ばしてくる。

「やめてくれ。そんなつもりじゃないんだ。俺はあんたといい仕事がしたいんだ」

「そんな格好をつけなくてもいいじゃない。あなたで何人目だと思っているのよ」

そう言うと女は村木を布団の上に突き飛ばし、その体の上に乗っかってきた。思わず女の頬を打つ村木。

「す、すまん。だがもっと自分を大事にした方がいいよ。きょうはこんな出会いになっちまったが、改めて明日また会わないか。明日の七時にさっきの空き地で」

「・・・」

「名前、教えてもらってもいいかな。あんた、あんたって失礼だしな」

「名美(なみ)」

「お、俺は村木って言うんだよ」

そう言うと彼は自分の名刺を名美に渡し去って行った。

次の日。ポルノック社に突然のガサ入れが入った。

村木ともどもポルノック社の全員が警察に連行され、村木は取調室で刑事から詰問されることとなってしまった。刑事は少女の写真を見せながら言う。

「この娘は16だ。それをおまえらはエロ本のモデルにしやがって」

「わたしには19だって言ったんですよ。田舎から出てきて仕事がないからって言うから」

「この娘はおまえらにホテルに連れ込まれて、強姦されたと言っているんだぞ。そうなんだろ」

「そんな。デタラメですよ。この娘に会わせてくれよ。会って本当のこと言ってもらうから」

「女の裸で飯食っている奴が偉そうなこと言うんじゃない(これ。いい台詞)!きょうは泊まっていってもらうぞ!」

「冗談じゃないよ!俺はきょう大事な用事があるんだよ!あの娘に会わせてくれよ!」

村木としちゃみりゃあれだけ会いたがっていた名美と、じっくり会えるというその日に豚箱行きにされちゃ困るってんで、もう必死に抵抗したのだが、それも虚しく檻の中の人となった。

夜。例の空き地。

雨が降りしきる中、名美はずぶ濡れになりながらいつまでも村木のことを待っていたが、ついに彼が現れることはなかった。

シーン変わりバーのような場所。

そこで名美は行きずりの男と酒を楽しそうに飲んでいた。そしてカウンターに座りながら村木の名刺を破いた。それは名美がつかの間持っていた村木への信頼を捨てた瞬間でもあった。

名美と男はラブホに直行した。

だがここからの監督、曽根中生の演出は前衛的である。画面全体が歪みながら動いている。それは酔った二人の酩酊感を表したかったのだろうか、しかし、この演出が効果的とはあまり言えない。

酔った男は当初、酔いに任せて、

「俺のはでっかいんだぞー!」

などとハッスルしていたが、二回戦を終えてもなお体を求めてくる名美にうんざりしだした。

男というものは不思議なもので、セックスにおいて一瞬の悦楽を味わったのちはもうドライに冷めてしまって、女の裸なぞ見たくもないという心境になってしまう。

件の男も同様で二回ことに及んだのちは、急須にお湯を入れてお茶なんぞを飲んでいたのだが、それでも名美が、

「わたしがあなたのボーイを、また大きくしてあげるから、まだやりましょうよー」

などと言い、そのボールを丁寧に舐め回してくるもんだから、もう吸い寄せられるように名美の言うがままにするしかなかった。

その姿はオスのカマキリがメスに食べられるがごときであった。

三年後。

村木とポルノック社に押しかけていた女は結婚していた。アパートと思しき部屋にはベビーベッドがあり、そこには二人の子供が寝ていて、その天井には昔あった赤ちゃんのガラガラが回っていた。

ポルノック社もビルの中に入ったようで、例の助手は忙しそうに電話の応対をし、社は発展している様子であった。

一同は村木が名美と出会った例のホテルに予約を入れ、エロ本の撮影に臨んだ。村木は念のために受け付けの中を覗き込んだが、そこにいたのは婆さんだった。

撮影後。

村木、助手、カメラマンの三人は打ち上げということだったのか、飲み屋でしこたま酔っていた。

「横木が撮るとどうして芸術になって、先輩が撮るとただのエロなんですか。聞かせてくださいよ」

「なに。てめえ。先輩の俺をバカにしようっていうのかよ」

「そうですよ。バカにしてるんすよ」

「てめえ!ふざけるんじゃねえ!」

そんな二人を置き去りにして村木は店を後にし、雨が降りしきる飲屋街をさまよった。

椿のような赤い花が咲いている。そこで村木はタバコをくゆらせ、その箱を道に捨てた。

「ねえ。お兄さん。寄っていかない」

突然後ろから女の声がして振り向くと、そこには立ちんぼに成り果てた名美が立っていた。村木も愕然としたが、名美も愕然とし店の中に入ってしまった。それを追い店内に入る。

「名美さん!俺だよ!村木だよ!三年間探していたんだ!信じてくれよ!」

店内で名美を追いかけ回す村木。名美はカウンターに入ったが、それでも村木は執拗に名美を追う。

「名美さん!名美さん!」

「マーちゃん。この男しつこいからなんとかしてくれよ」

そう名美が言うと奥から一人の男が現れ、その腕を村木の肩に回し、

「お客さん。料金42000円。払えるの」

と言った。この店はとんでもないぼったくりバーだった。

店の裏の空き地。

その背景ではネオンが瞬いている。そこに村木は連れ出され、男にボコボコにされるとその場に倒れ込んだ。

次の日。

例のぼったくりバーの中では男は、昔自分が出したであろうレコードを眺め、過去のつかの間の夢を思い出していた。

男が便所で小便をしていると、股間の下に名美の顔がにょきっと現れ、彼女は不敵に笑った。

「ちくしょう。俺を骨のずいまで腐らせやがって。俺はこんなところで終わる男じゃねえんだよ」

男はそう責めるように名美に言ったが、終いには、

「名美―っ!名美―っ!」

と言いながら、そのまま名美とFuckを決めるのであった。

一方村木はおぼろげな記憶を頼りに昨夜の店を探すために飲屋街をうろついていた。

そして、ある場所に来た時、昨夜確かに咲いていた赤い花を認め、その下に自分が捨てたタバコの箱を見つけた。

振り向くと一軒のバーの入口があり、村木はおそるおそるノックを叩いた。すると例の男が顔を出し、ぶっきらぼうに、

「きょうは休みだよ」

と言ったが、村木の顔を見ると、

「てめえはきのうの!」

と言い、またしても村木を空き地に連れて行ってボコボコにした。

殴る蹴るの仕打ちを受けた上、男に踏みにじられる村木。

「マーちゃん。そのへんでやめておいて」

そう言ったのは名美であった。

気を失った村木が意識を取れ戻すと、そこは店の二階のようであったが、襖の奥からなにやら異様な喘ぎ声が聞こえてくる。

不審に思った村木が襖を少し開け、奥を覗いてみると、そこには大勢の男たちに囲まれてまぐわっている名美と男の肢体があった。つまり名美と男は客たちから金を取ってセックスを見せる白黒ショーをしているのだ。

「なんだよ。もっとよく見せろよ」

「こっちのほうがよく見えるぞ」

「お客さん。女には触るんじゃねえよ」

その模様を見て村木は子供がべそをかくような表情をした。

「あと3万だしゃこの女抱いてもいいんだぜ」

「それくらいなら出せる。はやくやらせてくれ」

名美の体に殺到する男たち。なすがままになっている名美。

「おい。はやくしてくれよ。これじゃあいつまで経っても順番が回ってこないよ」

そう言われると男は階下からセーラー服を着て、ロープで縛られている娘を引き上げた。

「こんな娘とやっていいのかよ!」

「きゃーっ!やめてーっ!」

男は札束で股間を隠すと村木のところへやってきて、

「あっはははは。どうだ。おまえもやるかっ」

と言い放った。

シーン変わり、夜の空き地。そこには村木と名美しかいない。

「名美さん!俺と一緒にくるんだよ!あんなところから抜け出すんだ!過去なんてどうにでもなる!」

「あなたがくる?」

「あんなところから抜け出すんだ!」

そう言う村木に背を向け名美は去って行く。そこに浮かぶ「終」の文字。

さすがに蟹江敬三はいぶし銀の演技を見せるなと思った。主演の水原ゆう紀は全然俺のタイプではなかった。

監督、曽根中生の演出もこれと言って注目するようなところもない。だいたいこの人の一般作である『不連続殺人事件』や『博多っ子純情』は、死ぬほどつまらない作品で、もう曽根中生の作品は二度と見るまいと思ったほどである。

それでもこの作品がなんとか見るに足りる作品となっているのは、石井隆による原作の完成度の高さによるものだろう。

実際、原作は読んではいないのだが、石井隆がこの作品の脚本も手がけていることから、この映画は彼の世界を映像化していることは明らかである。

この数年後、同シリーズの『天使のはらわた 赤い淫画』が公開され、こちらはビニ本のモデルに魅了されてしまう男の話であったが、「天使のはらわた」シリーズはなにかの媒体にて裸体を露出した女に男が恋い焦がれてしまうという点では共通しているのだろうか。

だとすれば2018年の現在、AVに出演している女に取り憑かれてしまう男の話など作ったら面白そうなものだが。

『天使のはらわた 赤い教室』ロマンポルノの佳作ということにしておこう。

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