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執筆者の写真makcolli

愛のきずな


アダルトグッズ屋、いや大人の玩具屋、いやドリームサロンと書けば通じるだろうか。

東宝映画『愛のきずな』に出演するところの藤田まことは、アダルトグッズ屋に行けば、必ずポイントカード、もしくは割引券を提示するような、すべてにおいて計算高い、そしてケチな男であった。

ある雨がそぼ降る夕べ、藤田まことが帰宅に車を運転していると、街角に着物を着た女が傘もささずに途方に暮れて立っていた。その女こそ、この作品の主役・園まりであった。

藤田まことは、園まりの側に車を停めた。

「どうです。乗って行きませんか」

「でも・・・」

「この雨はしばらくやみませんよ」

「じゃあ。失礼して」

車はやがて小さな橋のたもとに停まった。

「ここからすぐなんです。もう歩いて行けますわ」

「そうですか。あの。よかったらまた会っていただけませんか」

「え、ええ。わたしここで働いていますの」

そう言うと、園まりはトンカツ屋のマッチを取り出し、藤田まことに手渡した。

園まりが立ち去ると、藤田まことは、 「やってみるもんだな」

と一人つぶやいた。

しかし、藤田まことは妻子持ちの男であった。

彼はとある観光会社の総務課課長代理で、その妻は会社の専務の娘であった。社内の誰もがまことのことを羨んだが、一方で女遊びの一つもできない真面目一辺倒な、つまらない男だという評判も立っていた。

その社内のまことに対する雰囲気は、ある社員の送別会で爆発した。ちなみにその社員は左遷されるのである。酔った社員はまことに絡んだ。

「ぼくはこの男に浮気の仕方を教えてやったんだぞ!浮気してもバレない方法を!ところがなんだ!奥さんが怖くて浮気もできないってか!」

トイ面に座っているまことが言う。

「君。やめ給えよ」

ちなみにまことは、この男の送別金の額さえ渋ったケチな男なのである。

「ああ。そうかい。お前の奥さんは専務のお嬢さんだったよな。だったら浮気なんかすることはないもんな。こんな都落ちする男と違ってな」

「ぼくは失敬させてもらうよ」

「なんだ!逃げるのか!」

そのまま退席しようとするまこと。そこに食い下がる男。その場は周りの社員たちが取りなして、まことはその場を後にした。

だが、まことは家庭では冷遇されていた。

計算高いまことのことだから、そのことを狙って結婚したのかも知れないが、妻は専務の娘。ひとり娘が寝静まった夜、妻が求めてきてもまことは疲れてるから、みたいなことを言ってそれを拒んだ。

またある時妻は、まことが帰宅しても、なくしたオパールの指輪を探すことに懸命で、まことなど知ったこっちゃなかった。

それでいて家庭での話題は、誰々さんが今度、何々課に移るんだとか、あの人は降格させられるとかそんなことばかりだった。

だからと言うことなのか、まことは園まりからもらったマッチに書いてあった電話番号をダイヤルした。

「はい。そう言った人ならいますけどね」

トンカツ屋の大将は、受話器を園まりに渡した。

「はい。わたしです。ええ。分かりましたわ」

園まりは受話器を置いた。

「なんだか知らねえけど。雪ちゃん。男には気をつけるんだぜ」

「分かってますよ」

最初はドライブだった。

それから何回となく逢瀬を重ねて、やっぱりそれとなく肉体関係を結ぶ雰囲気になってきた。ラブホ街、当時(この作品が公開されたのは69年)だったら連れ込み旅館密集地域を車でぐるぐる廻るまこと。

温泉マークが見えてきたので、車を停めると、そこは銭湯だったというギャグフレーバーもこの作品はまぶしてある。

唐突に園まりが言う。

「よかったら。わたしの部屋にきませんか」

「でも。そんなことをしたら、君に悪い噂が立ってしまう」

「心配要りませんの。わたしの部屋、外の階段から入れるようになっていて、誰にも見られたりしませんから」

夜。例の小さな橋のたもとに、まことの車は停まっている。

そして部屋の中ではさほど激しくないラブシーンが繰り広げられた。そしてまことは打ち明ける。

「君を騙すつもりはなかったんだ。でもね。ぼくは妻子持ちの男なんだよ」

「そんなこと・・・。わたしあなたに最初に出会った時から好きだったのよ。あなたの邪魔はしないから、こうして度々会いましょうよ」

「き、君」

「雪子って呼んで」

そう言うと、園まりはまことのひざに抱きつくのであった。

ここまで見てきて、なんだ。単なるメロドラマかと思った。しかし原作は松本清張。こんな甘ったるい調子に終始するのかとも思った。

まことは義理の父である専務の命令によって、千枚漬けの樽の中に札束を詰めていた。そして専務と同行したまことは、ホテルの一室であったであろうか、世紀の怪優・上田吉二郎が演じる大物代議士に、その千枚漬けの樽を献上した。

「がーっはははは。この千枚漬けはわしの好物じゃてよ」

そんな社内の裏事情もそつなくこなしていたまことだが、彼と園まりが秘密の時間を重ねていた時、それは突然にやってきた。園まりのアパート。

「悪気はなかったのよ。でも、わたしには夫がいるの」

「ん?」

「去年ね。些細なことから人を刺して、今仙台の刑務所にいるわ。でもあと十日もすれば出てくるの」

「えっ?」

「わたしにもえらく暴力を振るってね。でも、わたしあの人にあなたとのこと全部話して、きっちり離婚しようと思うの」

「なに?」

藤田まことが部屋にある封筒の中を覗いてみると、そこには写真が入っていて、その写真には、ある意味顔面そのものから凄みを放っている佐藤允の姿がばっちり写っていた。

「これが君の亭主・・・」

「そうよ」

「なんで人なんか刺したりしたんだ」

「街を歩いていたら知らない人が、わたしに色目を使ったなんて言い出して」

「それで刺しちまったのかい」

「ええ。でも、わたし今度こそあの人に自分の気持ちを正直に伝えようと思うの」

「正直にって・・・」

「だからあなたとのことを」

「いかん!いかん!いかん!そりゃ絶対にいかん!」

「あら。どうしてなの」

「相手を考えてみりゃわかることだろ。簡単に人を刺すような男だよ。そりゃ絶対にいかんよ!ぼくたちがここまで築き上げてきたものが台無しになるよ」

「でも、あの人だって話をしてみれば通じることだってあると思うのよ」

「そうかあ!最初から君たちは、ぼくをはめる気でいたんだなあ!」

「そんなんじゃないのよ!ただわたしは」

「とにかく雪子。ここは冷静になってようく考えてみるんだ。なっ」

完全にまことは、佐藤允の存在にビビってしまった。

ある日曜日。家族サービスということで妻子を連れて、遊園地へ行った。そこのパラソルでジュースなんぞを飲みながら、妻は語っていた。

「あなた。広告課長への転属、おめでとう。観光会社で広告課と言えば花形よ。これから頑張ってね」

「あ、ああ」

なおも語る妻であったが、まことの脳内はそれどころではなかった。さっきから人混みの中に佐藤允の姿が幻覚のように、消えては現れ、消えては現れしていたのだ。

園まりのアパート。

「今度、信州の温泉でもいかないか」

「あら。珍しいのね」

「たまにはいいじゃないか」

「わたし。嬉しい」

汽車に乗って、まことたちは信州のある駅で降り、さらにそこからボンネットバスに乗って、人気のない停留所で降りた。まことはその日、薄いピンクのシャツを着ていた。

「そのシャツ。素敵ね。若く見えるわ」 「ああ。こっちなんだ」

まことは園まりを林道のようなところへ誘って行く。

「旅館ってこっちなの」

「ああ」

しかし、二人が進めば進むほど、どんどん場所は辺鄙になってくる。

薄暗い林の中に来た時、まことは言う。

「この辺で休まないか」

「あら。こんなところわたし嫌よ。もう少し眺めのいいところがいいわ」

そう言って園まりは、また歩き始めた。ほどなく行ったところで視界は開けた。

「ここがいいわ」

そう言うと彼女は緑なす地面の上に腰を下ろし、さらにハンドバッグを枕にして、そのままそこに寝そべった。

「気持ちがいいわ。あなたもこっちに来なさいよ」

木々の隙間からは太陽の光線が、眩しく漏れてくる。そっと園まりの方へ近づいてゆくまこと。ギラッと太陽が光る。

その瞬間、まことは園まりの首を締め出した。

「うっ。なんで」

何も言わずに必死の形相で、園まりの首を絞め続けるまこと。馬乗りになって園まりの首を渾身の力で絞めるまこと。

園まりは地面の上で両足をばたつかせる。その腕は地面をかきむしる。まことは脂汗をかきながら、園まり、もう面倒臭いから雪子と書こう、雪子のか細い首をギリギリと締め上げてゆく。ギラッと光る太陽。

雪子の体が脱力した時、まことはその腕の力を緩め、しばし雪子を呆然と眺めたのち、きた道を反対方向に歩き出し、降りたバス停まで戻った。

そこでまことは持っていたボストンバッグの中から上着を取り出してはおり、顔にはグラサンをかけた。

そこへ駐在らしい警察がやってくる。

まことがタバコを吸おうとすると、駐在はマッチを差し出した。

「どっからきたんです」

「東京からです」

「お一人で?」

「ええ」

まことは警戒した様子ながらも駐在との会話をこなしていた。だが、その最中に彼の脳内に重大な記憶が蘇った。

まことは雪子に例の妻が探していたオパールの指輪を贈っていたのだ。そこが実にケチな男のやることだが、雪子は確かにそのオパールの指輪をはめたまま死んだことを思い出したのだ。

緑なす地面に横たわっている雪子。

その雪子の体がだんだんと腐乱していく。さらにその体が白骨化していく映像が挿入される。そして、その指の骨には確かにオパールの指輪が残っていた。

まことは重大なミスをしてしまったと思いながらも、駐在との会話もそこそこに切り上げ、やってきたバスに乗り、東京へと帰って行った。

輪転機がすごい速度で回転する。そこに浮かぶテロップ。

「信州の山で女性の白骨死体発見」、「手がかりは指に残されたオパールの指輪か」

まことが会社で出前の昼飯を食っている時、やにわに現れたのが佐藤允であった。佐藤允は責任者を出せだのどうだの、女子社員に食ってかかっていた。

思わず新聞で顔を隠したまことであったが、その場を収めるためか、佐藤允の前に歩いて行った。

「お前が責任者か!」

「わたくし。この会社の広告課長でございます。お客様。ここではなんですので、別室にてお話をお伺いします」

そう言ってまことは佐藤允を別室に促した。

「こうやって証拠もあるんだ!この会社の誰かが雪子を誘惑したに違いねえ!」

佐藤允の言う証拠とは、雪子がつけていた日記だった。そこにはこんなことが書いてあった。

「何月何日。久しぶりに部屋にSがやってくる。嬉しい。このまま二人だけの時間が続けばいいのに」

「このSというイニシャルだけでは誰だかわかりませんなあ。かく言うわたくしも鈴木でしてね」

「なにい!」

「まあ。そう。興奮なさらずに。そう言えば最近、突然姿をくらました社員がいるんですよ。菅沼と言いましてね。会社の金を横領して北陸の方へ逃げたという話です」

「そいつだ!そいつにちげえねえ!」

そう言うと佐藤允は脱兎のごとく会社をあとにした。そこへ入ってくる他の社員たち。

「課長。一時はどうなることかと思いましたよ」

「ああいう単細胞な輩は適当にあしらっておけばいいんだよ」

「課長。例のコーマーシャルの現像ができたんで、一緒にラッシュを見ませんか」

「おお。できたか」

そう言うと、まことはカメラマンたちと一緒に映写室の中に入り、スクリーンの前に座った。室内が暗くなるとある観光地の模様が映し出される。

「なかなかいいねえ」

「編集をすればもっと良くなりますよ」

フィルムも切れるというその時、信じられないものが映し出されていた。そこには確かにまことが殺したはずの雪子がカメラに向かって、驚きの表情を浮かべている姿が映っていたのだ。

「課長。フィルムは終わりましたよ」

「・・・」

顔面蒼白のまこと。

「き、君。最後に映っていたあの女の人は誰だね」

「さあ。なんでも近所の喫茶店で働いている人だとか言ってましたよ。それがなにか」

「い、いや。なんでもないんだよ。ありがとう」

まことは速攻でフィルムの撮影場所に向かい、タバコ屋の婆さんから女の名前は明美と言い、近所の喫茶店エリーゼで働いているということを聞いた。

まことはグラサンをかけ、ためらいがちではあったがエリーゼの中に入って行った。

店内にはラジオからなのかジュークボックスなのかは分からないが、ゴーゴーミュージックがかかっていた。そしてチンピラ風の男が二人いる。

「おい。明美。いつになったらドライブ付き合ってくれるんだよ」

「こちとら。待ちかねちゃってるの」

「そのうち気が向いたらね」

「なんだよ。またかよ。もう一緒にゴーゴー踊ろうぜー」

そう言うと明美と呼ばれている女も含めて三人は、ゴーゴーダンスを踊り始めた。

まことに殺されるシーンまですべて、園まりは和装であった。

ところがこの喫茶店のウエイトレスに扮するシーンからは洋装であり、しかもミニスカートを履いているのだ。

踊る園まりの足元のアップ。腰つきのアップ。その表情のアップ。

仮に俺が69年当時、10代後半か20代前半くらいで、中尾ミエ、伊東ゆかり、園まりの三人娘の中で誰がファンか選ばなければならないとしたら、断然、園まりを選んだだろう。

そのくらいここからのシーンは、彼女のコケティシュな、魅惑的な、蠱惑的な、キュートな魅力で溢れている。

彼女が当時、世の男たちを虜にしたのもうなずける要素に満ちている。

まことはマスターらしき初老の男がコーヒーを運んできても、目は明美と呼ばれている女に釘付けで、砂糖とミルクを灰皿に入れる始末だった。そして、意を決したように明美と呼ばれている女に話しかけた。

「ねえ。君。ちょっと聞きたいんだけどね。ぼくのこと覚えているかい」

怪訝そうな表情を浮かべる明美。

「覚えているって。あなた誰なの」

「ダメだよ。おじさん。明美は記憶喪失で昔のことは、てんで覚えてないんだから」

チンピラ風の男がそう言う。

「記憶喪失?」

「わたし。そうらしいのよ。自分がどこの誰で昔何をしていたのか、まるで分からないの」

だが、まことは明美の指に確かにあのオパールの指輪がはめられているのを確認した。

「君は雪子って言うんだよ」

「雪子?」

「それで昔、ぼくと一緒に生活していたんだ」

「あなた。わたしのことを知っているの。わたしが誰だか知っているの」

「ああ。知っている。知っているともさ。だから一緒に東京へ行こう。そうしたらもっと記憶が蘇るかもしれないよ」

そうまことに誘われて、明美は彼と一緒に汽車に乗り、東京駅で降りた。だがそのホームの人混みの中に二人を凝視する男が一人いた。

まことが用意したアパートなのかマンションなのか知らないが、二人はそこで再びラブラブな時間を過ごすようになった。

とにかく明美になった園まりはキュートさを爆発させる。何しろ二人でイチャイチャしている時はネグリジェ姿なのだから。

ところがその部屋に突然、まことの妻が現れた。慌てふためくまことであるが、記憶をなくしている明美はそもそも自分とまことが不倫しているということも分からないので、なおもまことにしなだれかかる。

「やっぱり。こういうことだったのね」

妻の前でグーの音も出ないまこと。

「怪しいと思って興信所に頼んでおいたのよ」

「すまなかった。このけじめはきっちりつけるから」

「別に謝る必要なんてないのよ。そもそもわたしもあなたのことなんか愛していなかったんだから。ただ、あなたは私たちのために一生懸命働いて、サラリーを家に入れてくれればそれでいいの。その汚らわしい女と別れて、また元の生活に戻ってくれればそれでいいのよ」

妻はそう言い残すと去って行った。

それから程なくすると、明美は、

「やっぱり。わたし。エリーゼに帰るわ」

と言い出した。それでもまことは未練がましかった。

「どうしても帰るのかい」

「もう。夕方の汽車の切符を取ってあるのよ」

「そうかい。わかったよ」

それからまことは、また例のべったら漬けの樽を上田吉二郎のところへ運ぶ命を受けて、ハンドルを握っていた。

ところが急に思い立ったように突然にUターンをする。その拍子にトラックと自家用車が事故を起こし、自家用車の運転手は電柱に激突し、車内に閉じ込められて苦しんでいる。

たちまち出来上がる人だかり、その中にまこともいたのだが、彼は苦しんでいる運転手が自分であるという幻覚を見る。

そして自分の車に戻ると、どこかへと走り去って行った。

オレンジ色のワンピースを着た明美は、四人がけの席に座り、ぼんやり車窓を眺めていた。

「やっぱり。ここにいたんだな。間に合ってよかったよ」

その声の主はまことであった。

「あなた。なぜ」

「ぼくは今度こそ決めたんだよ。君と二人きりでどこか遠い田舎に行って暮らすのさ」

「本当に」

「ああ。もう。そう決心したんだよ」

「信じていいのね」

「ああ。大丈夫だよ」

汽車は次の駅で停まった。

「腹減ったろ。駅弁でも買ってくるよ」

まことはそう言うと、駅弁を買いに行った。急に降り出す強い雨。明美が何気なく外を見やると、停車場にはあの佐藤允が立っていた。

凍りつく佐藤允の顔面。その眼光。

「雪子!雪子じゃないか!俺だ!分からんのか!雪子!」

次第に動き出す汽車。佐藤允は列車の窓を叩きながらなおも叫ぶ。

「雪子!雪子!おい!雪子!」

その声に耳をふさぐ明美。

まことは弁当を買って戻ってきた。

「おい。どうしたんだ。具合でも悪いのか」

耳を塞ぎ続ける明美。その時、最後尾車両のドアが開き、稲光の閃光と共に、地獄の底から蘇ったような佐藤允が現れた。完全に顔面が引きつるまこと。

「やっぱりてめえだったのか!雪子を誘惑したのは!俺はてめえの言葉に騙されて、北陸中を探していたんだ!」

「いや。これは。あの」

「うるせえ!こっちへきやがれ!」

そう言うと佐藤允はまことの首根っこを掴まえて、ドアぎりぎりのところへ連れて行った。

「許せねえ!」

そう言うと佐藤允は持っていたドスで、まことの腹をぶっ刺した。鮮血に染まるまことの腹。その様子を見ていた明美の脳裏に、眩しい太陽の光が浮かぶ。

列車最後尾。そこから落ちたら死ぬ。そのぎりぎりのところで、二人の男が掴み合い、もんどり打っている。やがてひょんな拍子に佐藤允は、まことにともえ投げみたいなの食らって汽車から落下し、暗闇の中に吸い込まれて行った。

ハレーションを起こす太陽の光が、明美の脳内をさいなみ続ける。気づくとまことは血まみれになりながら、最後尾のタラップに手をかけているだけの状態で、その手を離せば暗闇に吸い込まれてしまう状態にあった。

「助けてくれ」

うずくまりながらまことを見つめる明美。その記憶の中に強烈な太陽光と共に、まことが自分の首を閉めようとする瞬間が蘇った。それは雪子が雪子を取り戻した瞬間でもあった。

「なんで助けてくれない・・・」

まことは一瞬間で暗闇の中に吸い込まれて行った。

「わたしを、わたしを一人にしないで!」

そう雪子は言葉を振り絞った。そこに被さる「完」の文字。

途中途中で、この展開には無理があるんじゃないのと思ったところも確かにあった。しかし、特に後半から見せる園まりの魅力は格別なものがあった。彼女の主演作は、また見てみたいと言う気になった。

それと、やはり藤田まことは演技者だなと認識させられた。妻に頭があがらないサラリーマンが不倫をし、殺人を犯してゆくという役所をリアリティー感じさせる演技で見せつけた。

佳作ということにしておこう。

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