松竹とホリプロの提携作品である。 ホリプロは和田アキ子を売り出すために、日活と提携して『女番長 野良猫ロック』という奇跡的にかっこいい作品を製作したこともある。
しかし、今度の会社は松竹である。とてもヤングの心を鷲掴みにするような、クールでヒップな作品を製作できるとは思えない。
花の中三トリオというものがあった。
山口百恵、森昌子、桜田淳子という当時、中学三年生だった女子の歌手のことである。本作『としごろ』には山口百恵、森昌子が出演していて、特に森昌子が主役の扱いとなっている。
のちのことを考えると、不思議なものだが、芸能界で伝説となった山口百恵はまだ、どっかのイモ姉ちゃんといった感じで、大輪の花を咲かせる予感すら感じさせない。
さらに記憶している人は思い出して欲しいのであるが、森昌子もデビューしたての頃は悲惨な髪型をしていた。まるでモンチッチみたいなショートヘアで、美容院でこの髪型にされた時、本人は枕を抱いて泣き明かしたそうである。
さらに最近、森昌子はあるバラエティ番組で言っていたのだが、本人の意思と関係なく歌手デビューが決まり、ぜんぜんやる気なし。ステージの上にいても、スタジオにいても常に、
「はやく帰りたいなー」
と思っていたそうであるから、この作品の撮影中もはやく家に帰りたいと思っていたであろうことは、間違いないと言える。
そんな森昌子は楽屋で退屈のあまり、八代亜紀の髪に一本丸々ヘアスプレーを浴びせ、八代亜紀をパニックに陥れたこともあった。
そんでこの作品のストーリーなのであるが、まず和田アキ子がバレーボール部のコーチを務める中学があって、その卒業式で始まる。
その卒業式の場で卒業生である森昌子は、後輩の山口百恵などと、友情の証を交わした。森昌子は卒業したら町の工場に就職して、バレーをやめることになっていたが、それになんの未練もなかった。
卒業式が終わったあと、一同は山口百恵の兄であるところの東八郎(どう考えも歳の差ありすぎだろ)が経営する音楽喫茶でパーティーを開いた。
ここで誰よりもはしゃいでいたのは、和田アキ子だった。またこの音楽喫茶では、どういうツテなのか知らないが西城秀樹を呼んできてショーを行い、女子たちを夢中にさせた。
森昌子と一緒に卒業した生徒の中に優子という娘がいた。
彼女はバレーの選手として将来を嘱望されていたが、家の事情で中学を出たらマチャアキがスカウトを務める実業団に行くことがほぼ決まっていた。
しかし、そこにウルトラセブンのダンいや、バレーでは名門の翠嵐高校のコーチであり、教師である森次晃嗣が、優子の家に現れ、父親を説得しだした。
父親は大工のようであったが、手に怪我をし、思うように仕事ができなくなっていた。そんなくさくさした気持ちを、彼は酒を飲むことで紛らわしていた。
「わたしは優子君の才能を伸ばしたいんですよ。彼女を日本一の選手にきっとしてみせます」
「そんな、な。口先だけではいくらでも言えるんだよ。優子は実業団行って、金もらいながらバレーやるんだから、それでいいじゃねえか」
「優子君の授業料ならわたしが持ちます。優子君をわたしに預からせてください」
「あのなあ。うちは人様から金恵んでもらうほど落ちぶれちゃいねえんだよ。優子もう学校なんかあきらめろ!」
その時、弟が現れて言った。
「父ちゃんのバカヤロー!姉ちゃんを学校に行かせてやれよー!」
父親はさらに冷酒をあおるしかなかった。
森昌子は就職した町工場で、機械の部品を組み立てていた。
そんなな工場の昼休み。なぜか森昌子は歌を歌いながら工場の敷地を歩いていた。そこに、
「よっ!もういっちょ!アンコール!」
の声が飛ぶ。
「もう。ひどいわ。そんな隠れたところで」
その声を飛ばしたのが夏夕介で、それが二人の出会いであった。夏夕介は昼間は工場で働き、夜は定時制高校で学ぶという苦学生であったが、明るいそぶりで苦労を感じさせない若者であった。
そこに主任である村野武範がやってきて、二人にフランスの詩人の言葉を教えたが、二人には意味が通じていない模様であった。
部の練習を終えた和田アキ子が教室に行ってみると、そこにはガリ勉君のあいつが参考書を広げていた。
「また。そんなに勉強ばっかしちゃって。たまには外に出て、スポーツでもして、汗かいてスッキリしたほうがいいんじゃない」
「放っておいてくださいよ」
「ふーん」
結局、優子は森次晃嗣の家に下宿することになった。
だが、この少々度が過ぎた森次の行為が、彼の家庭をめちゃくちゃにしていった。考えてもみて欲しい。新婚、ほやほやの家庭に生徒とは言え、女子を置いたらどうなるのか。
さらに森次は妻が作る料理を、
「なんだ。こりゃ。お前、大学で栄養学を学んだろ。伸び盛りの優子がこんなもの食えるか。財布出せ。財布出せよ」
と言って、妻から財布を奪い、優子と二人して高級レストランでビフテキを食べるという、ほぼDVと言っても差し支えない行為に及んでいた。
さらに森次は優子の授業料のために、貯金を切り崩していた。妻の目には森次は、クレイジーにしか映らなかった。
そんな森次家の生活の中で、優子は階段とも言えない段差から落ち、膝を強打した。
「どれ。どこが痛いんだ。優子。先生に見せてみろ。ズボンを脱いでみろ」
森次の行為は常軌を逸しはじめていた。
そんな頃、山口百恵をはじめとする在校生たちは、アイスクリームを食べながら、町のブティックのショーウインドーを眺めていた。
そして店内にいる石川さゆりを見つけ、その店内に入って行った。
「なによ。ジュン(石川さゆりの役名)。こんなところでデートでもしているの」
「彼氏がいるなら告白しちゃいなさいよ」
「そんなんじゃないのよ。これからマコ(森昌子)先輩に会う約束になっているのよ」
「なーんだ」
石川さゆりは、その待ち合わせ場所に行った。その頃、森昌子は石川さゆりの家に電話をしていた。
「あの。きょう。ジュンと会う約束をしていたんですけど。残業があって行けなくなってしまったんです。なんとかジュンに連絡できないでしょうか」
「淳子ならもう家を出ましたよ」
と母親役の根岸明美。
「そうですか。じゃあ。すいませんと言っていたと伝えてください」
石川さゆりは待ち合わせの場所に立っていたが、当然森昌子はやってこない。そこにチンピラが四、五人現れて、石川さゆりを廃屋に連れ込み、ボディーにパンチを入れ込み、抵抗力を奪うと、順番に強姦していった。
しかし、この強姦シーンがなかなかにエグい。 そもそも現時点から考えると、映画の中のこととは言え、なぜデビューして間もない石川さゆりが強姦されなくちゃいけないということもあるし、映像として石川さゆりの初々しすぎる乳首や臀部が、バッチリ映っているということにも衝撃を受ける。一体、芸能界のなにが「石川さゆりレイプシーン」を作り出したのか分からないが、すべてが終わったあと、石川さゆりは全裸で放心状態になっていた。
バレー部でキャプテンを務めていた石川さゆりであったが、練習中に体調不良となり、和田アキ子に担がれて保健室にて療養することになった。
保険の教師は和田アキ子を連れて外に出た。そして和田アキ子にこう告げた。
「彼女。妊娠しているわね」
「妊娠!」
「シッー。さっき彼女の乳首を見たら黒くなっていたわ」
「それだけのことで。先生の誤審じゃないの。ジュンやジュンの身内の人に変なこと言ったら許さないよ」
二人が保健室に戻ると、ベッドに寝ているはずの石川さゆりの姿は、そこになかった。
「やっぱり。本人が一番よく分かっているようね」
それから石川さゆりは家に帰っても自分の部屋に閉じこもることが多くなった。
彼女の父親は仕事人間で、彼女のことにはてんで無関心。接待、接待と言ってゴルフに明け暮れていた。さらに石川さゆりは夜、車で帰宅した父が、その車内で見知らぬ女とキスをしている模様を目撃してしまった。
そんなある日、石川さゆりが夜の海に行くと、そこにあのガリ勉君が現れた。
「学校。どうしたんだよ」
「あなたみたいに秀才で、一流高校から一流大学、一流の会社に就職することが約束されている人には分からないわ」
「やめてくれよーっ!もうたくさんだよーっ!そうやって見られることにうんざりしているんだよーっ!」
ガリ勉は突然に、心の声を叫び始めた。
そこにオーバーラップするバイクが失踪する映像が映し出される。
「遊びたいんだよーっ!」
さらにバンド演奏、サッカーなどなど若者が、その青春を謳歌する映像が重なってくる。
「みんなみたいに遊びたいんだよーっ!なんで俺だけが許されないんだよーっ!親から学校から期待をかけられて、その重圧から逃げたいんだよーっ!俺には一流の人生を歩いていく実力がないこともわかっているんだよーっ!」
石川さゆりとガリ勉君は、漆黒に広がる夜の海を眺めた。
ほどなくして、関係者の間に石川さゆりとガリ勉が心中をしたという一方が駆け回った。
石川さゆりの家で営まれた通夜の夜。
「ジュン。なんでもっとわたしに相談してくれなかったんだよ。コーチと選手は一心同体のものじゃなかったのかよ。悔しいよー」
そう和田アキ子。だが弔問に訪れた校長や教頭は、学校側には落ち度はなかったと繰り返すばかりであった。生徒一同は、皆泣いていた。
そこに突然、新聞記者とカメラマンが、ズカズカとやってきた。
「そちらにいるのは校長先生と教頭先生とお見受けしますが、中学生同士の心中事件。これは十分にスキャンダラスなことと考えられますが、どのようにお考えですか」
「生徒の校外におけるプライベートまで学校は把握することはできません」
「ほう。学校は関係ないとおっしゃるんですか」
その間にもカメラマンは生徒たちを、カメラで撮り続けている。
「ですがね。女子生徒は妊娠2ヶ月だったんですよ。それを苦にしての心中だったんじゃないんですかね」
「淳子が妊娠?そんなバカな!」
「お母さん。嘘じゃありませんよ。警察の検死の結果で、分かったことなんですからね。娘さんの遺品の中に男子生徒からの手紙なんてありませんでしたか」
「わたしは仕事に忙しくて、淳子のことはすべて家内に任せていたんです」
「そんな男子生徒からの手紙なんて、あの子の机の中にもありませんでした。あの子は男子生徒に騙されたんですよ」
「先方でも同じことを言っていましたよ」
「そんな」
「いい加減にしろよ!みんな自分を守る事ばかりじゃねえかよ!フィルム返せよ!」
そういうと和田アキ子は記者たちを、力づくで追い出した。
最初は森昌子や山口百恵を配しているということもあり、また松竹という会社ということもあり、明朗な青春映画なのかと思っていた。
しかし、ストーリーが進んでいくうちに結構エゲツない作品だということが分かってきた。言ったら若者から見た大人の汚さを描いている作品のように思えてきた。
ちなみにことの真相を知っている和田アキ子は、例のチンピラたちを歓楽街の裏路地に呼び出した。そしていきなり仁義を切った。ここには笑った。
「おひかえなすって。わたくし生国と発しますは、大阪です。赤い光、青い光揺らめく道頓堀で産湯を浸かり・・・」
チンピラたちはきょとんとしていたが、やがて和田アキ子と乱闘と相成った。これが「野良猫ロック」だったらアッコが男たちを完全にぶちのめすという展開になっただろうが、そこは松竹のこと。多勢に無勢ということもあり、次第にアッコはボコボコにされていった。
しかしパトカーのサイレンが聞こえ始めると、チンピラたちはヤバいということで逃げ出し、アッコはそのうちの一人の足にしがみつき、それがもとでチンピラたち全員はやがて検挙された。
だが和田アキ子の暴力シーンということで言えば、同じ松竹製作のテレビ時代劇『翔べ!必殺裏殺し』に、この作品が繋がっていったということは、言い過ぎであろうか。
「必殺シリーズ」中の異端作品において、和田アキ子はひたすらに相手を殴る蹴るのみで始末していった。
そんなアッコは夜道を歩きながら、石川さゆり追悼のためデビュー曲でもあり、和製R&Bの隠れた名バラード「星空の孤独」を熱唱した。
さらに挿入歌として、「わたしは歩いている」も熱唱した。
優子が森次晃嗣の家の段差で膝を打ったことは先に書いた。
優子は膝の痛みに耐えながらも、森次の特訓に食らいついていた。しかし、森次が病院に行って、優子の膝のレントゲン写真を医師から見せてもらうと、そこには骨折している優子の膝の模様が映し出されていた。
家の段差で打っただけなのに、膝骨折するかよと思うし、骨折しているなら骨折しているで、日常生活もままならないはずなのに、よくバレーの練習していたなとも思うのだが、森次と優子は森次の妻が家を出てしまってからは、優子が洗濯をやり、さらに優子が森次の弁当まで作るという、以前にも増して常軌を逸した生活を送るようになっていた。
だがである。森次は優子が膝を骨折し、全治一年ということが分かると、植物人間のように優子に冷たく接するようになった。
再び優子の家の机に座ると、父親を前にして、優子を預かることをやめると言い出した。
「なにおう!あんた、その口で言ったんだよ!優子を一流のバレー選手にするから預からせてくれって!それが骨折をしたからって、もうお払い箱っていう訳か!俺は何も銭金のことを言っているんじゃねえんだよ!これじゃあまりにも優子がかわいそうじゃねえかよ!お前なんか帰れ!」
「じゃあ。失礼させていただきます」
その間の森昌子であったのであるが、石川さゆり死去の報を聞いた彼女は工場の中を泣きながら走っていた。その彼女、目がけてクレーンで吊るされたものが、勢いよく迫りつつあった。それを目撃した夏夕介は、自分の身を挺して彼女を守ったが、その代わりに頭部に怪我を負い入院することになってしまった。
森昌子は毎日見舞いに訪れ、やがて二人はいい雰囲気になっていった。
優子はかつて、自分をスカウトしようとした実業団の企業を訪れ、その監督とスカウトマンであるマチャアキと面会していた。
「わたし。ここのチームに入って、もう一回バレーをやりたいんです!」
「正直に言うけどね。君の膝はもう再起不能なんだよ。うちのチームでも使えんね。君、あとは任せたよ」
「再起不能・・・」
そう言うと監督は部屋を出て行ってしまった。部屋に残った優子とマチャアキの間には、嫌な空気が流れた。
場面変わって会社のベンチ。そこで泣き濡れている優子。
「君。そんなに泣くなよ。現実は厳しいんだよ。そんなに泣かれると僕も弱っちゃうよ」
そう言うとマチャアキは、やにわに持ち歌を歌い始めた。朗々と歌い始めた。いいこんころもちでフルコーラス歌い終えると、そこに優子の姿はなかった。
例の東八郎が経営する音楽喫茶で、優子はアッコと会っていたが、アッコがやめろって言っているのに、
「わたし。もう一度、先生に会ってみる」
とか言って、出て行ってしまった。
夜。
優子が森次の家の窓から中の様子をうかがうと、そこには出て行ったはずの妻が戻ってきており、二人はソファーに並んで座っていた。
「あなた。やっと邪魔者がいなくなったわね」
「そうだな」
そのまま二人は唇を求めあった。その様を目撃した優子は、夜の闇の中へ疾走して行った。
夜空からは雨粒が降ってきた。
夏夕介を見舞った帰りだっただろうか。森昌子が傘を差しながら歩いていると、そこにずぶ濡れになりながら歩いている優子の姿を確認した。
「優子。どうしたのよ」
「わたしのことなら放っておいてよ」
「何があったの」
廃屋だったのだろうか。
二人は建物の中に入ると、囲炉裏に火をくべ、森昌子は着ていたコートを優子に羽織らせた。
「わたし。分かったの。大人なんてみんな身勝手な生き物なんだわ」
「何があったのよ」
「ジュンもそんな大人の犠牲者なのよ。ジュンは大人に殺されたのよ。本当にかわいそうなジュン」
「わたしはそうは考えないわ」
「何ですって」
「自殺をするなんて卑怯者のすることよ。だって生きていてこそ、ものが言えるんですもの。死んでしまったら何も言えないじゃないの」
「そんな。じゃあ。あなたがジュンのお葬式で流した涙は、嘘だったって言う訳?」
「なんとでも思えばいいわ」
優子は思わず森昌子にビンタを食らわし、そのまま走ってどこかに行ってしまった。
「ジュン。ごめんね。ああでも言わなかったら、優子まで死んじゃうと思ったのよ。あなたを傷つける気は無かったの。ジュン。ごめんなさいね」
そんな森昌子の心の声が聞こえてきた。
翌朝だったのだろうか。
優子は校門の前で立ち止まっていた。それを離れた所で見守っている森昌子。意を決したのか優子は校庭へと入って行った。そこには、この作品の戦犯とも言える森次晃嗣の姿があった。優子は森次に目をやると、
「おはようございます」
と挨拶をした。
だが、それで良かったのだろうか。
妻にDVを振るい、優子を玩具のように扱った森次が誰からも、何からも裁きを受けないままでいいのだろうか。森次の心の中にはイービルが巣食っている。女性蔑視的な固定観念で凝り固まった前時代的な男である。
いたいけで純真無垢な娘の心を弄んだ最低男である。そんな男が世を大手を振って生きていく事ほど、理不尽なことはない。
妻も妻である。自分から財布を取り上げ、暴言まで吐いた男のもとへ、よく舞い戻ってきたものである。それとも帰ってきた理由は、森次の性戯があまりにも巧みで、その味が忘れられなかったとでも言うのか。
森次の取った行動。そして言動の薄汚さだけが残った作品であった。