top of page

俠花列伝 襲名賭博

  • 執筆者の写真: makcolli
    makcolli
  • 2025年12月5日
  • 読了時間: 13分

60年代後半に一世を風靡した邦画のジャンルに任侠映画というものがある。その場合、主人公は義理と人情に生きる男であり、困っている人には財布ごと金を渡し、最後には悪のヤクザの拠点に殴り込みをかけるというのがパターンである。


この任侠映画、主に東映にて製作され、その中から高倉健や鶴田浩二、そして女俠を熱く演じた藤純子と言ったスターを輩出していった。


だがこの任侠映画、当時は物凄い勢いがあったのか、意外に日活や大映でも製作されていたのである。日活や大映が、東映の任侠映画のおこぼれに預かろうとしたのかは分からないが、大映では江波杏子主演の「女賭博師」が作られ、それなりにヒットしたのかシリーズ化されていった。


さて、今回書いてみたい映画は日活製作による『俠花列伝 襲名賭博』である。公開されたのは69年。まさに任侠映画ブームの真っ只中に作られたのであるが、主演は松原智恵子。そもそもなぜこの作品を見てみようと思ったのかと言えば、梶芽衣子が出演しているからであった。


梶芽衣子と言えば日活時代は「野良猫ロック」シリーズ。東映時代には「女囚さそり」シリーズ。また東宝にては「修羅雪姫」と、独自のアウトローヒロイン像を確立し、邦画界にOne & Onlyな存在感を示し続ける女優にして、自分はその魅力に魅了され続け、その作品を少しでも多く見たいと思い、この作品を見ることにした。


だが梶芽衣子への期待は肩透かしを喰らわされることになった。当初、予告編を見たところ、松原智恵子と梶芽衣子が女俠として、バチバチのバトルを繰り広げるものだと思っていたのだが、全然そんな展開にはならなかった。


洞窟温泉みたいなところに松原智恵子が浸かっている。と、そこへ腕に傷を負っている藤竜也が入ってきて、岩の間に隠れた。

すぐさま藤竜也を追っている男たちの声が聞こえてきて、松原智恵子は床にこぼれている藤竜也の血をお湯で流した。


「やい!やい!やい!高次(たかじ)がここへ入ってきたろ!」

「なにをするんです!ここは女風呂ですよ!」


男たちは渋々と去って行った。


藤竜也のことを見て松原智恵子(役名・志満<しま>)は、湯船に深く身を沈めた。だが彼女は藤竜也を自分の部屋に連れて行って、すぐに傷の手当てをしてやった。


「慣れた手つきじゃねえか」

「わたしの父も渡世人だったのよ。こんなこと慣れたものよ」


志満はこの温泉地の芸者だった。だが置屋のようなところに住んでいる訳ではなく、お手伝いのような老婆と二人で暮らしていた。


結論のようなものを書いてしまうと、この作品はだれているような気がする。そのだれというのはどこからくるのかと考えると、登場人物のいわくが描かれていないのである。

例えば高次は追われる身であるのだが、なぜ追われているのか、そのいわくが描かれていない。志満もどうして芸者になったのか、そのいわくが描かれていないのだ。


これはこのあとに登場してくる他の登場人物にも言える。登場人物にどのような来歴、背景があるのかそれが描かれていてこそ、作品はドラマチックになっていくものだが、この作品は全くそれが効いていない。


この温泉地の湯元(温泉の源泉)を取り仕切っているのは向田組という組だった。この組の若親分が江原真二郎で、江原と志満は親が決めた許婚だった。

だが江原が志満のことを想っていても、志満にはその気はなく、かと言って江原にキッパリとその気持ちを伝えることもなく、芸者をしているのだった。


縁日の日。出店や屋台が並んでいるところへ梶芽衣子が現れた。


「姐さん。今年は来ないのかと思っていたんですよ」

「あとで花会に寄せてもらうよ」


梶芽衣子は流れ者の女賭博師らしい。


この温泉地には向田組の他に本堂組という組があった。この組が任侠映画のパターンとして悪の組で、湯元の権利を我が物にしようと虎視眈々と狙っているのだった。

その手始めとして本堂の親分は、高次を追っていた連中と手を組んで、向田組が胴元を務める花会賭博に因縁をつけた。


「サイコロを改めさせてもらうぜ」

「なにおう!イカサマだって言うのか!」


太平組(高次を追っている連中)のやつがサイコロを割ると、中に重りが入っていた。


「知らねえ!オレはこんなことしちゃいねえ!」

「待っておくんなさい!ここはあっしの小指に免じて許してやっておくんなさい!」


そう言って向田組の爺さんの代貸は、ドスで小指を詰めようとしたが、江原に止められた。


「せっかくの花会賭博だ。血で汚しちゃならねえ」


そう言うと向田組の衆は会場をあとにした。その様子を静かに見ていた梶芽衣子。


その間も高次は志満の部屋に逗留していた。そして、そんな二人が恋仲になるのにそう時間は掛からなかった。

狭い温泉地で志満が部屋に男を連れ込んでいると言う噂は、あっという間に広がっていった。


江原は夜、志満の部屋の下まできたが、その窓に男の影が見えると、そのまま踵を返した。


で、この辺あまり記憶にないのだが、もう志満と高次は駆け落ちみたいなことになって、半年後に浅草で会おうと言う約束をした。

汽車に乗ろうとする志満。それを見送る高次。そこへ太平組の連中が現れドスを抜き、高次と格闘になる。


その様子を汽車の中から見ている志満。疾走する汽車。草原にてドスを振りかざす男たち。と、その様子を駅から見ていた梶芽衣子は、高次に見覚えがあり、男たちのあとを追った。


「高次!高次!」


だが、こここでも高次と梶芽衣子のいわくは描かれておらず、そもそもこの二人がどのような関係を持っているのか分からずに、物語は進んでいく。


ここまで書き進めてきて忘れていたことがある。大体任侠映画というのは東映にしてもそうなのだが、時代としては戦前を描いている。それは明治後半から昭和初期と言ったところだろうか。


そこで正義のヤクザと悪のヤクザが、さまざまな利権を巡って戦うというのがパターンだ。例えば川人足の利権や鉱山の利権、網元の利権、鉄道の利権など。そして、この作品においては温泉の利権という訳である。


志満は買い物姿で脇に買い物かごを持って、一軒の小料理屋に入って行った。そこは佐野浅夫と奈良岡朋子が夫婦で営んでいる店で、浅草にあり、志満は現在そこで働いているのだった。


「あんた。本当に志満ちゃんがきてくれてよかったね」

「ああ。気立はいいし、よく働いてくれるし、なにより死んだ娘に瓜二つなんだよ」


そう言って夫婦は喜んでいたが、店に一人の男が入ってくると、血相を変えて怒り出した。その男というのは高橋英樹のことであった。


「なんだ!てめえ!今頃現れやがって!」

「親父さん・・・」

「気安く親父なんて呼ぶんじゃねえ!てめえなんか二度とこの家の敷居を跨ぐんじゃねえ!」


英樹は退散して行った。


「塩撒いておけ!塩!」

「どうしたんですか」

「なにね。あの野郎はうちの娘の婿だった奴でね。もともとは腕のいいしんない流しだったんだよ。それがヤクザにまで落ちぶれやがってね。娘はずたぼろになって死んで行ったんだ」


しんない流しと言われてもよく分からないのだが、店には男の子がいて、それが英樹と夫婦の娘の子供だった。

志満はその子供を連れて英樹が泊まっている木賃宿のようなところに行ったが、英樹は、


「オレはあんたが思っているようないい人間じゃねえんだぜ」


と言い。子供も帰ろう、帰ろうとせがむので、その日は帰ったのだが、その後も志満は木賃宿を訪れ、一度は犯されかけ、さらに訪れると、志満は三味線をつまびきはじめ、それに合わせて英樹は一節唄い始めた。どうやらそれがしんないというらしい。

ついでに英樹は言った。


「今のところ入るのが遅かったぜ」


このシーンはすりガラスの向こうに雪がしんしんと降っていて、少しいいシーンだと思った。


で、もう思いつくままを書いていこうと思うのだが、高次と別れてから約半年経った志満は、浅草寺の観音堂の前で高次を待っていたのだが、高次はついに現れなかった。

だが高次は山門の柱に隠れて志満の様子を見ていたのだった。


「志満ちゃん。そんなにがっかりすることないんだよ」

「また。明日という日もあらあな」

「そうですよね。高次さんには高次さんの都合もあるんですよね」


店の席には奇跡のような巡りあいとして、梶芽衣子が座っていた。高次のことを聞いた彼女は一筆江原にしたためた。

その手紙を読んだ江原は想う志摩ため、そして渡世の掟を守るために爺さんの代貸と一緒に上京し佐野浅夫の店を訪ね、六文屋という浅草にある宿に泊まることとなった。


その宿には本堂組の代貸も泊まっていた。


「なんで俺たちをつけてくるんだい」

「おめえさんがちゃんと高次の始末をつけるかどうか、見届けておかねえとな」


ある夜、店に突然、高次と梶芽衣子が現れた。


「高次さん!」

「おめえには悪いけどな。オレはこの女と夫婦になっちまったのよ」

「・・・」

「そういうことだからね。あたしを恨むっていったって。それはお門違いっていうもんだよ」

「なんだい!それはねえじゃねえか!あんたが高次かなんか知らねえけど、この子はずっとあんたのことを待っていたんだぞ!」

「オレはこんなお涙頂戴臭いのは苦手だぜ。まあ。おめえも誰かいい男を見つけて、幸せになるんだな」


そう言うと二人は出て行った。


店に高次が現れたと言うことを知った太平組の連中は、店に乱入してきて椅子や机を壊したり、やりたい放題をやった。


「おう!ここに高次が来たっていうのは分かっているんだ!早く高次を出せ!」


そこに顔を出したのが英樹。


「あ、兄貴・・・」


そう言うと太平組の連中は大人しくなり店から出て行った。激昂する佐野浅夫。


「てめえ!こんなチンピラとつるみやがって!落ちるところまで落ちたな!」


それもやはり同じ浅草にある店だったのだろうか。高次と梶芽衣子は席に座り酒を飲んでいた。


「おめえ。これからどうするんだ」

「どうって。最初から行くあてなどないよ」

「おめえをここまで付き合わせて悪かったな」

「どっちみちあんたは、あの志満を忘れることができないんだろ」

「違えねえや。でもオレはあいつのために一芝居打った訳よ」


なぜか自分はその着物姿で、盃から酒をちびりちびりと飲む梶芽衣子の姿を見て、死んだ婆さんのことを思い出した。大正二年生まれの婆さんも、こんな時代を生きていたのではないかという感慨を抱いた。


高次はそのまま一人で六文屋に行き、江原と代貸の前に正座して座った。


「向田の親分さん。今更言い訳はしません。このあっしをどうとでもしておくんなさい」


一度は渡世の掟とドスを抜いた江原であったが、高次の意気に触れ、彼を許すこととした。

その江原と代貸が夜の浅草の街を歩いている時、二人を監視していた本堂組の代貸は、太平組の奴らに二人を襲わせた。


夜の闇を切り裂くドスの白刃。江原と代貸は応戦したが、江原は深傷を負ってしまった。と、そこへまた英樹が顔を出す。


「あ、兄貴」


そう太平組の奴らがいうやいなや。英樹はドスを抜き太平組の奴らを刺殺していった。


シーンが変わり頭にグルグル巻きの包帯をして、布団に寝込んでいる江原。そのそばには代貸と志摩がいる。


「志満さん。若はもう長くねえ。嘘でもいいから若に好きだったと言ってやっておくんなさい」

「でも。わたし・・・」


そう言う志満は白無垢を羽織っている。


「若。若。ここに志満さんがいるんですよ」

「志満。志摩が」


代貸は志摩に三々九度の盃を渡しそこへ酒を注いだ。それを飲み干す志満。そして江原が酒を飲んだ時、彼はこう言った。


「志満。湯元の権利を頼む」


そう言って彼は事切れた。


「若!若!」

「周吉さん!周吉さん!」


次のシーンは志摩が、向田組親分になる襲名披露の盃の席だった。ここでようやく志満は渡世の道に踏み込んだのである。それにしても前置きが長過ぎるではないか。

ここまで見てきて思ったことがある。この作品は任侠映画の形を借りたラブストーリーなのだと。


そもそも松原智恵子という女優は、吉永小百合、和泉雅子と共に日活三人娘という触れ込みで売っていたお嬢様女優なのである。そんな彼女が切った張ったのヤクザ者を演じることなど不可能であるのだ。


60年代。日活は主に明朗な青春映画を主軸にして売り出していた。そのヒロインの一人が松原智恵子だったのであるが、その彼女を主演に据えて任侠映画を作ろうとしたところには、青春映画が退潮を見せ始めた日活の苦肉の策を感じる。


温泉街を志満が歩いている時、本堂組の若い衆が志満のことをからかってきて、


「へへー。これが向田組の三代目だってよ。あら。わたし、いやーよー」


と言ったら、爺さんの代貸にぶん殴られた。


本堂の親分はしつこく湯元の権利を手に入れようと難癖をつけてきた。それに対して志満は、ヤクザらしく勝負は盆の上でつけようと言った。その丁半博打の相手を務めることになったのが、温泉町に帰ってきた梶芽衣子だった。


向田組、本堂組の衆が集まり、志満と梶芽衣子はサシの勝負に臨むことになった。と、そこへ現れる英樹。


「しがねえ流れ者にござんすが、見届け人を務めさせいてもらいやす」


壺を振る前に梶芽衣子は諸肌を脱いだ。彼女の身体には連獅子の彫り物が入っている。


「ようござんすね。ようござんすね。勝負!」


そう言って彼女は壺を振ったが、この三本勝負は志満の勝ちとなり、そのまま湯元の権利は向田組が今までどおり担うことになった。


温泉町の橋の上に英樹と梶芽衣子は立っている。


「あんた。いい度胸だ。わざと志満さんに花を持たせてやったんだろ」

「さあね。勝負は時の運だからね」

「これからどこに行くんだい」

「風呂にでも入って、それから考えるよ」


梶芽衣子は例の洞窟風呂に入っていた。そこへやってくる本堂組の衆。


「やい!わざと負けやがっただろ!」

「ふん!勝負は運賦天賦!いちいち文句言われる筋合いはないよ!」


ドスを抜いて襲いかかってくる男たち。すると梶芽衣子は手拭いで身体を隠しながら、自らもドスを抜き連獅子の刺青も鮮やかに、男たちを倒していった。

ここに梶芽衣子の野良猫魂を見た。お嬢様から脱することのできない松原智恵子に比べて、梶芽衣子はすでに以後の活躍へと繋がる頭角を現していた。


それでも湯元の権利を諦めない本堂の親分は、爺さんの代貸さえ消して仕舞えば、あとは志満を潰すことなど赤子の手をひねるようなものだと、代貸を闇討ちにして殺した。


「大変だー!代貸がー!代貸がー!」


戸板に乗せられて運ばれてくる代貸の死体。みんなは頭に血の気が上って出入りの支度をしはじめる。そこへ現れる志満。


「なにをしているんです!こんなことをして先代が喜ぶとでも思っているんですか!」

「姐さん・・・」


向田組の若い衆たちは涙を拭った。その様子を影からじっと見ていた高次は、なにかを決意したかのように歩き出した。そして始まる殴り込み。

高次は長ドスを抜いて本堂組に乱入する。だが多勢に無勢。高次は一太刀、また一太刀と浴びせられてしまう。


それで、どこでどう聞きつけてやってきたのか忘れてしまったが、そこへ英樹も参戦する。


「おめえが高次か。志満さんのためにも、おめえを死なせる訳にゃいかねえんだ」


その夜は物凄い雨が降っていた。と、このシーンはセットなのであるが、そこに人工的に雨を降らせている。だがこの雨が、どう見ても降らせ過ぎという感じで、庭にある池もどこまでが池で、どこまでが地面なのか分からないぐらいになっている。


二人は本堂組の奴らを倒していくが、英樹も手傷を負い始める。それでも最終的には本堂の親分を殺した。


すでにぐったりしている高次を肩に担ぐ英樹。


「死んじゃいけねえ!死んじゃいけねえよ!」


その言葉も虚しく事切れる高次。そこへ走り込んでくる志満。


「高次さん! 高次さん!」


そのまま英樹も、その池なんだか地面なんだか分からない水溜りの中に、突っ伏して死んでいった。そこに浮かぶ完の文字。


結局、最後まで松原智恵子はドスを抜くこともなかった。任侠映画に定番の「お控えなすって」という仁義を切ることもなかった。

図らずもお嬢様女優の限界を見せつけることとなった。


ただこの作品に見るべきものがあるとするなら、後年のアウトローヒロインの片鱗を見せた梶芽衣子にこそあるだろう。


この作品に出演した梶芽衣子、高次を演じた藤竜也の二人は、翌年『女番長 野良猫ロック』にてより輝きを増すことになる。

 
 
 

コメント


ギャラリーに掲載してある作品の一部に関しましては、本サイトより販売しております。詳細につきましては、問い合わせフォームより承ります。
bottom of page