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  • 執筆者の写真makcolli

関東おんなド根性


酔っている。だが、その酔いに任せて映画に関する文章を書いてみるのもいいだろう。


俺なら確かに昨日なら、シネマヴェーラ渋谷の暗がりに身を沈め、安田道代主演の『関東おんなド根性』を観ていたのだ。 やはり、映画は映画館のスクリーンを前にして観るのが一番だ。しかし、コロナ禍になって以来、映画館から身は遠ざかっていた。

でもである。「吉田輝雄 ハンサム・イヤーズ」なる特集が組まれるとあっては、電車に振られてシネマヴェーラを目指さずにはいられなかった。


吉田輝雄と言えば、やはり石井輝男監督の「異常性愛路線」の常連ということで、その名を知った俳優である。その中で吉田輝雄はエロ・グロ・ナンセンスの極地にあっても、好漢、ナイスガイを演じていたのだが、今回の特集では、その「異常性愛路線」の作品はなく、デビューをした新東宝、そして移籍をした松竹の作品を中心にプログラムは組まれていたのだが、『関東おんなド根性』だけは大映の作品ということもあって、興味を持ち観ることにした。


吉田輝雄の役どころは、女だてらに江島組二代目を張る江島美樹(安田道代)の大貸というところ。それに物語後半には、やはり東映の常連悪役、遠藤辰雄も登場する(遠藤辰雄が登場したところで、場内から笑いが起きた。おそらくその笑いは、「また。お前かよ」という意味のものだったのだろう)。

さらに安田道代のライバルとして、もはや顔に「悪」と深く刻まれていると言ってもいい小池朝雄が登場してくる。


この作品が公開されたのは1969年。そう東映にて「異常性愛路線」が矢継ぎ早に公開されていた年である。きしくもそこで吉田輝雄と小池朝雄は、善と悪とを象徴するキャラクターを演じて対決を繰り返していた。

その好漢、悪漢の対決が東映から大映に場所を移して展開されているとは、夢にも思わなかった。


この作品の脚本は東映の鉄腕脚本家、高田宏治である。会社は大映なれど、東映の男たちが集結して制作された、そのような不思議な感覚がする作品なのである。


推測の域を出ないかもしれない。だが、69年になると大映も末期に突入してきたようである。同時期には江波杏子の「女賭博師」シリーズが制作され、そのまま渥美マリ主演の『でんきくらげ』などをはじめとする「軟体動物」シリーズ。さらに八並映子などの「高校生番長」シリーズなど、大映はそのモンド度を上げていくことになる。


片方で東映は任侠映画を量産し、その隆盛を極めていた。大映が黄金期の勢いを失い東映の二番煎じのような任侠映画を作り出したのは、その影響が大きいだろう。

しかし、バッタもんの良さというものもある。この作品の安田道代も、「緋牡丹博徒」の藤純子の偽者みたいなものなのかもしれない。だからと言って、この作品や安田道代を価値のないものと切り捨てることもできないだろう。


とにかく小池朝雄演じるところの佐川は絶対悪である。

オープニングシーンは、安田道代が刑務所から出所してくる模様から始まるのだが、川崎に帰ってきた彼女の祝宴だとか言って、佐川は一座を設け、そこで近々関東明和会なる組織を結成し、事業などを請け負っていくと言う。


「江島の。お前さんには悪いんだが、明和会の発起人の名簿には、あんたの名前も入れておいたぜ。俺は明和会の会長に立候補しようと思っているんだ。お前さんとは先代からの付き合いの俺だ。一票頼むぜ」

「わたしはシャバに出てきたばかり。右も左もわからないので考えさせてもらいます」


そこは料亭であったのだが、そこの中居さんなのか、とにかく芸者ではないのだが、秋子という娘がいて、佐川はその秋子が料理を運んでくると、ねばい目をして彼女を見つめるのであった。その目つきに秋子も気づき、すぐさまその場を立ち去った。それを見た同席していた江島組代貸、憲治(吉田輝雄)は、そのあとを追った。


二人は人目のないところで純愛を誓った。二人はかつてからできていたのである。

しかし、佐川に恩のある料亭の女将としては、秋子を佐川に差し出すつもりであった。


「秋ちゃん。あんたは、あんな憲治なんていう若造に騙されているんだよ。佐川さんのいい人になった方がいいんだよ」

「いや!それだけは絶対にいや!」


絶対悪である佐川は、地元の政治家と癒着していて、明和会の会長になったあかつきには、国際空港拡張工事の利権を、独り占めする気でいた。


「先生のお力添えがあれば、これほど心強いものはありません。こいつは横浜の組長。こいつは品川の組長。こいつは大森の南という男でしてな。以後、よろしくお願いします」


こののち、佐川はこの南という男を何かとかわいがっていく。


簡単に言ってしまえば、この作品の構図は、この明和会に絡む利権と、憲治と秋子のラブストーリー。そして、もう一つ安田道代を蛇のように執拗に付け狙ってくる大阪出身の筒井というヤクザの三要素からなっていると言える。


安田道代は常に和装姿なのであるが、左手には白いレースの手袋を着けていて、実は小指を詰めている。また、その背中には大きな刀傷がある。この『関東おんなド根性』は、「関東おんな」シリーズの第三作目で、それ以前のストーリーがあるらしく、彼女の小指がないことや刀傷のことは、そこで描かれているらしい。


筒井が安田道代を狙っていることも、もしかしたら以前のストーリーに関係があるのかもしれない。その筒井。夜道にて安田道代を襲ったが、返り討ちにされた。


次の日。安田道代は、大沢組事務所を訪ねた。そこは羽田空港に面した場所にあり、生コン製造機械やタンクローリーがあった。

「恐れ入ります。大沢の親分さんは、いらっしゃいますか」

「へ、へい。どちら様ですか」

「わたくし。江島組二代目。江島美樹と申します」

「親分。江島の二代目がいらっしゃいましたぜ」


そう子分に言われて、整備中のタンクローリーの下から出てきたのは、大沢組親分に扮する中谷一郎(最近、この人のいい仕事をよく見る)であった。

その姿はヘルメットを被り作業着を着て、とてもヤクザの親分とは見えなかった。事務所に通された安田道代。


「きょうはどういったご用件で」

「こちらに草鞋を脱いでいる者で、大阪出身の筒井という者はいませんか」

「筒井ならいますが。おい。筒井を読んでこい」

「へい」


事務所に現れた筒井は、安田道代の姿を見て顔色を変えた。


「この人に昨夜襲われまして。そのけじめをつけていただきたいと思いまして」

「おい。筒井。どういうことだ。カタギになりたいっていうから置いてやったんだぞ」


すると筒井は持っていたスパナで自分の小指を潰した。


「はあ。はあ。これでけじめはつきましたやろ。だがなあ。江島。わしゃあ。おどれを諦めへんぞう」


そう言うと筒井は事務所から出て行った。


明和会会長選出の日がやってきた。その部屋はどこかのホテルの会議室であったのだろうか。やけにモダンな感じがする場所である。

そこに南関東の名だたる親分たちか集まり、投票を行おうとしていた。会長候補には佐川の他に、もう一人大沢が立候補していた。


「私は明和会を関東ヤクザのユニオンにしたいと思っているんです。そうやってカタギの人たちとも共存していくことこそ、我々に対する理解というものも深まっていくと思っているんです」

「おい。大沢の。お前、それでも渡世人の端くれか。何がユニオンだ。ヤクザは力だ。明和会で俺たちの力をまとめてよ。一般企業にも負けない強い組織を作るのよ」


たが、投票の結果、大沢が初代明和会会長となった。会場から起こる拍手。だが佐川の顔色は変わっていた。


投票を終えた安田道代はホテルから出たが、そこへ佐川の子分たちが追いかけてきて襲い掛かってきた。


「何するんだい!」

「てめえ!よくもうちの組長に投票しなかったな!」

「誰に入れようとわたしの勝手だよ!」


すわ。安田道代ピンチかと思われたが、そこへ吉田輝雄がドスを持って現れた。ちなみにこの時の吉田輝雄が黒いレースのダボシャツを着ていて、とてもナイスだと言える。


「親分!」

「憲治!」


吉田輝雄は佐川の子分たちと揉み合いのすえ、その一人を刺してしまった。そして吉田輝雄は獄中の人となった。


それから程なくして明和会の総会が開かれ、佐川は息巻いた。


「うちの子分は一人刺されているんだぞ。江島組には解散してもらおうじゃないか。それがスジってもんだぜ。それで空席になった幹事のことなんだがな。大森に南ってやつがいて」

「まあ。佐川、そこまで言わなくてもいいだろ。江島の二代目には関東ところ払いの処分を受けてもらう。江島の代紋は、その間俺が預からせてもらうぜ。みなさん、これでどうでしょうか」


その場は大沢がそういったことで、丸く収まったかに見えた。だが、絶対悪の佐川がそんなことで黙っているわけがなかった。

例の吉田輝雄の恋人の秋子は、安田道代と話し合い、彼が出所してくるまで待っていると誓ったが、ある夜料亭に舌なめずりしてやってきた佐川が彼女を襲った。


抵抗する彼女にビンタを食らわせる佐川。彼女が投げたコップが鏡にぶつかり、鏡にヒビが入る。しかし、発情した佐川はそんなことはお構いなしに、彼女の身体を奪おうとした。

そして佐川がベッドの上で彼女を抱きしめ、腰をクイっと動かすと、彼女は脱力した。割れた鏡のワンカット。犯された彼女は姿を消した。 料亭から出てきた佐川を待っていた筒井。


「なんだ。お前」

「江島の二代目を狙っているものだす。訳あってあいつを片付けねば、この渡世で生きていけまへん。あいつは手負の狂犬のような女だす。旅の空でやろうと思っておます」

「草鞋銭だ。取っておきな」


そう言うと佐川は、筒井に財布を投げた。

刑務所に吉田輝雄と面会するために訪れた安田道代。


「組長。すいません。俺のせいで組がこんなことになってしまって」

「ううん。そんなこといいのよ。それより秋子さんの出身ってどこなの」

「俺と同じで石川です。秋子がなにか」

「いえ別にね。彼女は元気よ。ただ聞いてみたかっただけなの」

「そうですか」


安田道代は秋子を探し出すために、一路石川を目指した。だが、渡世の間で回状が回っている彼女に対して、地元の親分衆は一様に冷たかった。


夏の海岸。海水浴にきて遊んでいる大勢の人たち。安田道代は、そのバス停から路線バスに乗った。だが、そのバスにはあの蛇のように彼女を付け狙う筒井以下、二名のヤクザが乗っていた。


「おい。今、季節いつや」

「いつって、夏に決まっておるやろ」

「ああ。このクソ暑い夏に手袋をはめているお嬢さんがおるで、なんでも背中にはごつい刀傷もあるんやて」

「かわいい顔して大阪で四人も五人も人を殺したんや」


ざわつき始める乗客たち。


バスは止まった。そこから降りてくる安田道代と男たち。その引きの映像。そのまま彼女たちは草原のようなところに降りていった。


「おい。筒井。こっちにも我慢のほどっていうものがあるんだよ」

「じゃかましい!親分の仇じゃ!」


襲いかかり出す三人の男たち。ドスを抜く安田道代。一人目の男は腹を刺され、そのまま水溜りに顔から突っ込んだ。シャベルを振り回して、襲いくる男は半狂乱状態。やつも倒され、仰向けになって死んだ。その頃には筒井も血だらけになっていた。 「クソッタレ。この決着はいずれつけさせてもらうで」


やつは立ち去っていった。


その頃、大沢は国際空港拡張工事を入札することはできなかったが、地味ではあるが護岸工事の仕事などを請け負い明和会内での信頼も上がり、一般市民との協調路線もうまく行っているようであった。


ある温泉街にやってきた安田道代。そこで自転車の荷台に野菜などの食料品を積んでいる男に声をかけた。


「お兄さん。このへんを仕切っている親分を知っている?」

「ああ。お姉さん、そのすじの人なの。そんなことなら、この五郎ちゃんに任せておいてよ。その親分が開く鉄火場に今夜俺も行こうと思っていたの。それより、どう。うちの旅館に泊まらない。この五郎ちゃんが腕によりをかけて料理を作っちゃうんだからさ」


安田道代は五郎が行くという鉄火場について行った。そこで五郎は丁半博打にて、ガンガンに勝っていった。だが大一番となった時、自分の意思とは反した賽の目が出て、今まで買った分は全部取られてしまった。


「お待ち」

「なんだ。因縁つけようって言うのか」


それでも安田道代が強引にサイコロを割ってみると、中には細工が仕込んであったのだ。その場にいた者たちの血流濃度がぐっと上がる。


「五郎。金を持ってすぐに帰るんだよ」

「う、うん」

「なんの騒ぎじゃ」


そう言って出てきたのが件の遠藤辰雄であった。安田道代は遠藤辰雄に、田舎ヤクザとかバカにする言葉を吐いて出て行った。それを聞いて彼の血圧は上昇したのだが、奥から筒井が姿を現した。


「ここはわしに任せてくれまへんか。ご一党さんの手をわずらわせるまでもありまへん」


筒井が長ドスを持って旅館に乗り込んできたから、もう旅館内はパニックに陥った。その頃、安田道代は温泉にてドサの垢を洗い、湯船に浸かっているところであった。


「あとは風呂場だけや」


筒井はそう言って風呂場を目指した。その頃、五郎は機転を効かせて、風呂場の窓から安田道代にバスタオルと包丁を投げ入れた。


「やっぱり。ここにおったんかあ」

「筒井。このへんで勝負をつけようじゃないか」


バスタオルを体に巻いた安田道代と筒井の最終ラウンドが始まった。勝負は当初風呂場で繰り広げられていたが、二人は場所を中居などの従業員部屋に移した。

そこで安田道代は筒井の土手っ腹に包丁を突き刺した。ほとばしる鮮血。筒井はついに息絶えた。


「­キャーッ!」

「そこにいるのは秋子さん?」

「親分?親分なんですか?」


その部屋にいたのは秋子であった。「奇跡のような巡り合い」(by Jaguar)とはこの事であろう。体を壊した秋子は郷里に帰り、この旅館で五郎の世話になっていた。五郎は明子の着物を安田道代にかけてあげた。


しかし、風呂場にてバスタオルを身にまとい、大立ち回りを演じるというところに大映が末期に突入してきた感がありありなのである。


「奇跡のような巡り合い」を果たした安田道代と秋子は、汽車に乗り一路八王子を目指した。


明和会は再び総会を開いていた。その席には安田道代の代わりに、吉田輝雄が出席していたが、それに対して佐川が難癖をつけ始めた。


「誰かとは言わねえが、この席にふさわしくないヤツがいるんじゃねえかな。大森の南ってやつがいるから、幹事を変わってもらおうか」

「佐川の親分。俺のことを言いたいんだろうが、そいつは違うぜ。あんたのせいでうちの組は危機に立たされ、親分は関東ところ払いになったんだ」


そこに割って入ったのがさる親分だった。 「まあ。憲治、そういきりたつことはねえぜ。どうだろう。今回の会長選挙は、みんな大沢さんに一任するつもりでいるんだ。大沢さんさえ良ければ、半永久的に会長をやって欲しいんだが」

「わ、わたしで良ければ」


そして三本締めが行われたが、その手拍子の中、佐川の顔は泥人形のようにこわばっていた。


土砂降りの雨の中、大沢と憲治は組事務所に戻った。


「憲治。さっきのことは気にするな。あれで佐川も一角の男だからな」

「ええ」

「それよりも今度、お前のところで埋め立ての工事を引き受けてもらいてえんだよ」

「本当ですか。ありがとうございます」


そこに電話が鳴る。受話器を取る大沢。


「えっ。江島の二代目ですかい。今、八王子にいる?」


そして、電話口ではあったが、憲治と秋子は再び愛を確かめあった。

車に乗り急いで八王子を目指す大沢と憲治。土砂降りの夜。激しい雨にワイパーの動きも追いつかない。


「うちの組長は本当に女らしい人なんです。今度こそは、自分の幸せを掴んで欲しいんです」

「ああ。憲治、お前も秋子さんとうまくやるんだぜ」


二人がそんな会話をしていると、大森の南が運転するダンプカーが行手を塞ぎ、大沢が運転する車はそのままダンプカーに激突した。炎を上げる車。外へ脱出する二人であったが、その背後から銃弾が飛んでくる。


「大沢さん。はやく、はやく。八王子へ・・・」

「憲治!憲治!」


だが、その大沢も壁と車にサンドウィッチにされ絶命した。その車のフロントガラスに、大沢が吐いた血反吐がベッタリと付着する。その車の後部座席に座り、満面の笑みを浮かべている佐川。これぞ顔に「悪」と深く刻んである俳優、小池朝雄の真骨頂である。


安田道代と秋子が泊まっている宿に、さる親分とその子分が至急駆けつけてきた。


「二代目。驚いちゃいけねえよ。大沢と憲治が死んだんだ」

「佐川がやったんだ」

「黙っていろ!」


その場に泣き崩れる秋子。


「これでもう邪魔者は消えました。あとは先生の力添えがあれば、明和会は我々のものですよ」

「そうじゃな。任せておけ」


そう言っていた佐川と議員が建物から出てくると、そこには安田道代が待ち構えていた。


「江島!てめえ!渡世の掟を忘れたのか!」

「忘れたよ!お前を殺す以外はな!」


ここからは任侠映画のパターンよろしく、安田道代が復讐を果たすというカタルシスが待っているのだが、その場所が屋外であり、公衆の面前であると言うことが面白かった。


最後、歩道橋にて安田道代に刺殺され、車道に落下した小池朝雄の死顔も素晴らしかった。


東映の「緋牡丹博徒」との比較にまたなってしまうが、同作品の時代設定が戦前ということもあってか、ある種の抒情性をたたえているのに対して、この作品は60年代の設定ということもあってか、なにか安田道代には、やさぐれたものを強く感じる。


それは藤純子と安田道代という女優の資質の違いかもしれないが、この作品における安田道代には、これはこれで面白いじゃないかというものも強く感じたのであった。


できれば、「関東おんな」シリーズは全部見たい。見終わったあとに、そう思った次第である。


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